【コラム】広告事業の分割は本当にありえるのか?米司法省、Googleを反トラスト法違反で提訴

広告事業の分割は本当にありえるのか?米司法省、Googleを反トラスト法違反で提訴

米司法省は2023年1月24日、米Alphabet傘下のGoogleを反トラスト法違反で提訴しました。どのような影響が同社および業界全体に及ぶ可能性があるかを考察してみたいと思います。

※参考リンク:

 米司法省は24日、グーグルがウェブサイトやモバイルアプリに表示される広告の仲介・入札で大手の立場を乱用しているとして、同社を反トラスト法違反で提訴した。




今回は2020年に提出されたものに続く2番目の訴訟で、Googleがウェブサイトやモバイルアプリに掲載される広告の最大の仲介者、供給者、オンラインオークションの出品者としての役割を悪用していると米司法省は主張しています。バージニア州の連邦裁判所に提出されたこの訴訟には、カリフォルニア州やニューヨーク州など8州が司法省の訴えに加わっています。Alphabetの株価は、火曜日の取引で約2%下落しました。

メリック・ガーランド司法長官は、火曜日の記者会見で、「グーグルは15年間、競合技術の台頭を阻止し、オークションの仕組みを操作し、競争から自らを隔離し、広告主やメディア企業に自社のツールを使わせるという反競争的行為を続けてきた。」と述べています。また、「独占は技術革新を阻害し、生産者と労働者を傷つけ、消費者のコストを増大させる。消費者を守り、競争を保護し、すべての人に経済的公正と機会を確保するために努力する。」とも話しています。

Googleは一方で、「司法省は、イノベーションを遅らせ、広告料金を引き上げ、何千もの中小企業やメディア企業が成長するのを困難にする欠陥のある議論を倍加している。」と反論しています。

Googleの収益の80%は広告ビジネスが生んでいます。消費者のほとんどの方はこの事実はあまり意識せずに便利なGoogleのプロダクトを日々使っておられると思います。論点を整理する意味合いも含め、もう少し掘り下げてみたいと思います。

広告ビジネスは広告を出したい側と広告を売りたい側の両サイドで成り立っています。広告を出したい側は、自身が訴求したいメッセージを、関係がありそうな人や企業になるべく多くリーチし、成果につなげたいと考えています。一方で、広告を売りたい側は、メディア/パブリッシャー企業、アプリ提供者などで、ウェブサイトやアプリでサービスを提供する対価として広告による収益を得たいと考えています。Googleは、1998年に設立され、2000年にAdWords広告をリリースし、自身が運営するGoogle検索で広告を掲載し、収益を生むことに成功しました。

その後、Googleは、ウェブサイト運営者がオンラインコンテンツから広告で収益を得ることができるアドネットワークサービスであるAdSenseを2003年にリリースしました。AdSense for Searchで、検索機能を持つポータルサイトやウェブサイト向けに検索連動型広告を提供。AdSense for Publishersでディスプレイ広告を掲載したいメディア/パブリッシャー向けのサービスを展開し、一気に勢力を自社プロパティの外に広げました。この時点でGoogleは両面市場の構築で成功していると言えます。

単一面市場と両面市場

その後、2008年にDoubleClickを買収し、ディスプレイ広告の配信技術を手に入れました。DoubleClickは現在のGoogle AdExchangeやGoogle Marketing Platformとなっています。特に、アドエクスチェンジは、複数のアドネットワークをまたぐ広告枠の売買を容易にするプラットフォームとして、Googleのディスプレイ広告の収益拡大に大きく寄与します。もともと成功している両面市場に新しいレイヤーを足して買う側も売る側もより一層集約した形です。

2009年にはAdMobを買収し、アプリ広告に参入しています。あと、Googleはそもそも広告を掲載する非常に大きな自社プロパティをいくつも保有しています。検索エンジンは70%近くのシェアを維持し、検索連動型広告というドル箱ビジネスを抱えています。YouTubeも動画コミュニティとしては世界最大。言うまでもなく動画広告の掲載場所の宝庫です。その他Google Mapsなども目立たないですが、世界最大の地図サービスであり、ローカルビジネスを中心に不可欠なツールとなっており、広告掲載するプロパティとしてはかなりの規模を誇ります。今や、CTVやDOOHにまで広告を配信できるようになっており、デジタルの領域においては広告掲載に必要なものはすべて押さえていると言っても過言ではありません。

Googleが構築してきた広告プラットフォーム/エコシステムのイメージとしては以下の図のような感じになります。Google検索、YouTube、Google Marketing Platformまで入れると複雑を極めるのでかなり簡略化していますが、これだけを見ても、売る側、買う側、仲介する市場を押さえているのは明白なので、米司法省の主張もわかります。

Googleが構築してきた広告プラットフォーム/エコシステム

今回の訴訟は、2008年のDoubleClickの買収など、Googleの「反競争的買収」を撤回するよう裁判所に求め、アドエクスチェンジの分割を要求しています。2020年にも司法省によるGoogleに対する1回目の訴訟は、Appleのウェブブラウザ「Safari」でGoogle検索をデフォルトにすることで競争を阻害する不公正なことを行っていると主張しているもので係争中(今年裁判が行われる見通し)。前トランプ政権からGAFAの強大なビジネスに対する圧力は強まっており、バイデン政権においても、その点は変わっていません。

昨年、提訴を交わすため、Googleは司法省に対して一部の広告プラットフォームの一部機能をAlphabet傘下の別会社に移すことと、YouTube広告の買い付けをGoogle以外の外部に開放することを提案していますが、司法省はこれを拒否し、正式な提訴に踏み切ったとされています。ということはアドエクスチェンジの分割というのは完全な売却を求めているのかと推察されます。裁判には長い時間がかけられると思われますが、2つの訴訟が続いている中、何らかの落とし所を見出すことになる可能性も高いでしょうし、実際にそうなった際には、Alphabet、Googleのビジネスへのインパクトも当然大きいのではないかと思われます。

※参考リンク:

As part of one offer, Google has proposed splitting up its ad-tech business. The tech giant’s proposals stop short of the asset sales preferred by the Justic...

そもそもなぜ提訴されるのか。やはり、買う側の広告主も恐らく世界最大の数、売る側のメディア/パブリッシャーも世界最大の数。広告事業は買う側も売る側もボリュームが重視されるので、そうなると、どうしてもどちらも保有しているGoogleが有利な交渉を行うことになります。買う側の予算もGoogleに集中するでしょうし、売る側も広告収入の手数料の交渉ができず、マネタイズが難しくなります。市場を押さえすぎることで、新しいプレーヤーが市場に出にくくなったり、メディア企業のビジネスが育たないので、それを適正化したい、というのが司法省のロジックなのだと思います。

Googleが提訴されているような排他的なビジネス取引が実際にあるかはわかりませんが、これまで広告技術を磨き、広告主やメディア企業のビジネスに貢献してきたり、一営利企業として買収機会を見逃さず、ビジネスを拡大してきた点は評価すべきだと思います。ただ、何事も行き過ぎると、見直そうという力が働くのは世の常なのかもしれません。

Googleの屋台骨である広告事業が分割されることによってAlphabetに与える影響がどの程度なのか、本当に競争環境がもたらされるのか、広告取引の透明性が担保されるのか、広告主、メディア/パブリッシャーはどのような変化を見越すべきなのか、今後も提訴の行方を見守りながら予想していきたいと思います。



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