【対談】Microsoft 有園雄一さんに聞く:日本でリブートしたMicrosoft広告事業は他社とどう違うのか:前編(1/2)

Microsoft 有園雄一さんに聞く:日本でリブートしたMicrosoft広告事業は他社とどう違うのか:前編

2022年5月31日、Microsoftが日本において広告事業「Microsoft Advertising(Microsoft広告)」をリブートしたという突然のニュースは、インターネット広告業界に大きな衝撃を与えました。そして、Microsoft Advertisingの日本におけるRegional Vice Presidentに就任したのが、アタラのフェローでもある有園雄一さんです。

今回は、Microsoft Advertisingについて、そして、その事業の根底に流れるMicrosoftの哲学について、さらに、今後の事業の展開について、日本のインターネット広告業界を長年ともに歩んできたアタラCEOの杉原剛がインタビューしました。

「Go」「Ari」と呼び合う仲の二人によるロングインタビューを、前編・後編の2回に渡ってお伝えします。

話し手:
日本マイクロソフト株式会社
Regional Vice President Japan, Microsoft Advertising
有園 雄一さん

聞き手:
アタラ合同会社
CEO 杉原 剛

【目次】

・日本での広告事業は開始ではなく“リブート”である
・世界初のソフトウェア会社がクラウドの会社に変わるまで
・GoogleもAppleもより良い世界をつくっていくパートナーである
・伸び続けるBingの検索ボリューム
・Microsoft Advertisingの主なメニュー


日本での広告事業は開始ではなく“リブート”である

杉原:ではあらためまして、Ari、自己紹介をお願いします。

有園:有園雄一と申します。2022年8月22日にMicrosoftに入社し、日本の広告事業でRegional Vice Presidentとして仕事をすることになりました。広告事業の責任者です。現時点でチームは25人います。

これまで約25年インターネット広告業界で仕事をしてきました。ネット広告業界の最初の仕事は、サンフランシスコのLookSmartという会社で、その後何回か転職しました。基本的にアメリカのプラットフォーム系の会社が多く、2003年末か2004年1月だったと思いますが、オーバーチュア株式会社(現ヤフー株式会社)に入り、オーバーチュアがちょうどヤフーに吸収されるころ頃にグーグルに転職しました。その後、AdMobを経てアタラのCOOを務め、自分で起業して6年半、そして、今年の8月末にMicrosoftに入社しました。2000年ごろから3年ほど、日経BP社にいたこともあります。

独立した立場で、デジタルマーケティングやインターネット広告のコンサルティングをしているという意味では、アタラで6年半と、自分の会社で6年半で、現在13年目になります。また、電通さんや博報堂さんにも大変お世話になってきています。

実は、Microsoftの寛大な計らいで、自分の zonari合同会社も存続しており、Microsoftとのコンフリクトがない業務(記事執筆や講師業など)は並行して継続してよいことになっています。いわゆる、副業・兼業OKということです。

2022年10月、厚生労働省が「副業・兼業の促進に関するガイドライン わかりやすい解説」という指針を出したばかりですが、日本政府の方針として、副業・兼業を推進して労働市場の流動性を高めていくことで、潜在的に成長余力の高い業種・業界に優秀な人材が集合しやすくなっていき、結果的に、日本の国家としてのレジリエンスの増強、および、経済成長力の底上げを狙っていると聞いています。

私自身も、自らが率先して副業・兼業を実践することで、日本政府の方針に賛意を示しながら、日本経済の成長に貢献したいと考えています。

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杉原:なるほど。ところで、LookSmartのときはパートナーとしてMicrosoftと契約していましたよね。

有園:そうです。当時はMicrosoft NetworkでMSNですね。今、実質的にMSNはMicrosoft Newsと思っている人も多いと思いますが、Microsoft Network向けのサーチディレクトリを作っていました。手作業でつくるカテゴリ検索機能で、グローバル契約をMicrosoftとLookSmartが結んでいて、LookSmartがMicrosoft向けに作成していました。僕はそこのジャパンディレクトリにシニアマネジャーとして入りました。

だから、自分の正社員としての最初の仕事はMicrosoftからもらった仕事なんですね。

杉原:Microsoftとはそこからのご縁なんですね。

有園:そうです。1999年に初めて、サンフランシスコのLookSmartから、笹塚のMicrosoftオフィスに出張で訪問しましたね。なので、ご縁があって戻ってきた感じです。

杉原:それではさっそく、Microsoftの広告事業についての本題に入りましょうか。今までMSNなどでも一部広告事業はあったものの、ようやく本腰を入れ始めたというか。「リブート」のような感覚で僕はいるんですが、その認識はあってますか。

有園:正しいと思います。MicrosoftのMSNのサービスは1995年からですね。僕がアメリカにいたのがまさに95年から2000年ぐらいまでです。98年にMSNサーチ(現在のBing)が始まり、Google創業が98年、ちょうど僕がサンフランシスコのLookSmartに入ることになったのは98年ごろで、その当時からGoogleの検索エンジンを使ってネットサーフィンしてサイトを集めて、それをカテゴリ別に分類して、Microsoft用の検索ディレクトリとして納品する仕事をしていた。

杉原:MSNサーチって言ってたんだ…。知りませんでした。

有園:2015年6月、この広告事業を日本ではAOLに譲渡しました。ただ、MSNはあるのでそこでの広告のビジネスは続いていました。

アメリカなどでは広告事業は継続的に存在していて、それで2022年に日本でのビジネスをあらためて開始、リブートしたということです。

2014年にサティア・ナデラ(現在のMicrosoft CEO)がCEOになったことがターニングポイントになっていると思います。2015年にAOLへ広告事業を譲渡したものの、2016年にビジネス向けソーシャルメディアの「LinkedIn」買収、その3年後の2019年にはリテーラー向け広告プラットフォームの「PromoteIQ」を買収。また3年後の2022年に広告プラットフォーム「Xandr」を買収、7月にはNetflixの提携も発表。明らかに2014年以降、戦略が変わっていると理解しています。

世界初のソフトウェア会社がクラウドの会社に変わるまで

杉原:よく分かりました。ではここで、あらためてMicrosoftという会社はどんな会社なのか、説明してもらえますか。

有園:2014年にサティアがCEOになって、どのように会社を変えていこうとしているのか。これは著書(*)にも出てくる話ですが、そのことはあまり日本で知られていないように思います。

*サティア・ナデラ『Hit Refresh(ヒット リフレッシュ) マイクロソフト再興とテクノロジーの未来』日経BP、2017年

おそらく、世界最初のソフトウェア会社はMicrosoftだと思います。Appleのスティーブ・ジョブズは、彼の認識として「IT業界で初めてソフトウェア会社を設立したのはビル・ゲイツだった」と言っています。(*2)

*2 All Things Digital カンファレンス(D5)、2007年5月30日開催

当時はIBMなどが主要なプレーヤーで、ソフトとハードを一体で売っていた。それが「ソフトだけをアップデートすればいいよね」という発想で分離してくる。コンピューターの歴史を勉強すると分かりますが、歴史的転換点に「ハードとソフトの分離」がある。

当時のスティーブ・ジョブズの認識では、その分離したソフトウェアだけで会社をつくるというのはどういうこと?という感じだったのでしょう。そして、Microsoftはそれにフォーカスしてうまくいったのだよね、と言っています。

あと『宇宙に命はあるのか(*3)』という本があります。全然インターネットの話と関係ないのですが、NASAがアポロに行ったときに、「ソフトウェアを導入したことが鍵だった」と書いてあります。オートパイロット機能を追加するようにNASAが求めてきて、従来の機能ならば回路を再設計する必要があったのですが、当時の最新技術の「アポロ誘導コンピューターならばソフトウェアを書き換えるだけで済んだ」と。このエレガントさがソフトウェアの力だよとこの本には書いてあります。

*3 小野雅裕『宇宙に命はあるのか 人類が旅した一千億分の八』SBクリエイティブ、2018年

電卓が分かりやすい。電卓はハードとソフトがセットで売られていて、計算機をアップデートはできないですよね。それを切り離す、分離したというのがすごい大事だった。破壊的イノベーションだと。これはロケットサイエンスにとっての破壊的イノベーションですが、Microsoftも同じです。

ソフトがハードから「分離」して「独立」した瞬間が革命だったんです。このソフトウェアの「分離独立」が、コンピュータという道具をより「自由」に更新できるものに変えた。ビル・ゲイツは「分離独立」することが「自由」の本質であると知っていたんです。

子どもが親から「分離」して「独立」していくように。シャム双生児が手術によって「分離」され、それぞれの個人・人格として「独立」していくように。「分離独立」しなければ、親に依存した状態、他者に癒着し依存した状態になってしまい、そこに「自由」はないです。

ビル・ゲイツは、それが分かっていた。ソフトウェアを更新するだけで、どんどん「自由」に進化していく。当時の代表的なIBMなどのメーカーから「分離独立」した存在、それは、より「自由」になっていくことであり、Microsoftはより優位な立場になっていった。

ソフトウェアだけでビジネスを創るというビル・ゲイツの認識や、そこにチャンスがあると思ったことが破壊的だった。おそらくIT業界では世界最初の会社であるということですよね。まずそれがMicrosoftの成り立ちです。

つまり、Microsoftは、コンピュータービジネスの歴史に革命を起こした会社ですね。

そしてそれを大量に売ったわけです。特にWindows 95のとき、パソコンを持っている人はほとんどWindowsマシンを持っていたと思います。Appleも頑張っていましたが、日本でのシェアはかなり少なかった。僕はAppleユーザーだったので当時から両方持っていましたが、初めてのパソコンはMS-DOSでした。

というわけで、95年、MicrosoftはBtoCでWindows 95を大量に売り、Windowsマシンがどんどん普及していきました。「分離独立」したので、コンパックやHP、東芝、富士通、NECなどなど、どこのハードにも「自由に」インストールできたわけです。

Appleの場合は、自社のMacにしかOSをインストールできない。つまり、Appleには「自由」がないわけです。当時のスティーブ・ジョブズは「完敗した」とどこかで語っていましたし、実際にAppleを一時的に追放されてしまった。

そして、CEOがビル・ゲイツからスティーブ・バルマー(前CEO)に代わったころと重なると思うのですが、Microsoftは多くの法人と契約をします。おそらく日本だとかなりの割合で、ビジネスシーンではWindowsを使っているのではないでしょうか。

杉原:おそらくそうだね。

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有園:圧倒的なシェアを取りながら、でも基本はCD-ROMにWindowsが入っていて、アップデートとはCD-ROMを買い換えてインストールすることだった。ハードを買い替えなくても、アップデートできる。つまり端末とソフトウェアが分離していた。

片や、2006年にGoogleのエリック・シュミットが「クラウド」と言い始めました。クラウドコンピューティングですね。今思えば、モデルとしてはGoogleのAdwordsとかGoogle 広告というのは、実は広告のサービスをSaaSとして提供していたんですよね。使用料は0円ですが広告費はちゃんと払っているという。

その延長線上でGoogleDocsやGoogleスライド、Googleスプレッドシートなどが出始めました。おそらく僕らが初めてGoogleDocsとかを社内で使ったのは、2007年ごろだったと思います。

杉原:使っていたと思う。

有園:というかGoogleに入社したときにはありましたよね。

杉原:ありました。

有園:MicrosoftはそのころまだCD-ROMで売っていました。これはやばいなと思ったんでしょうね。これも本の中(*)に書かれている話です。分かりやすく言うと、クラウドコンピューティングに出遅れたなと。「スティーブ・バルマーにも、ものすごく危機感があった」と書かれています。

なので、2014年、2015年ぐらいから、サティア新CEOの圧倒的リーダーシップの下でMicrosoftはソフトウェアのライセンス販売モデルを変革しました。これはMicrosoft Japanの元社長の平野拓也さんのインタビュー(*4)『Harvard Business Review』の記事で、ソフトウェアのライセンス販売からクラウドビジネスへ大転換を図ったと書かれています。生まれ変わったということです。

*4 平野拓也「[インタビュー]AI/クラウド時代の誇りと責任 マイクロソフト:変容し続けるプラットフォーム企業」『DIAMOND ハーバード・ビジネス・レビュー』2018年11月号

今度は、それまでモバイルファースト、クラウドファーストと言っていたのを、2017年にサティアがさらにインテリジェントクラウド、インテリジェントエッジ、エッジコンピューティングと言い換えていて、今に至るということですね。

この中で明らかなのは、クラウドコンピューティングに出遅れたと思ったものの、2014年のサティア就任以降、大変革がありました。それができた理由は、それだけシェアがあったからでしょう。日本だとおそらく圧倒的なシェアがあって、みんな、Windowsマシンを使っていて、アメリカでも結構なシェアがあったと思うのですが、それをみんなクラウド、つまりサブスクリプションモデルに切り替えていって、SaaSビジネスのMicrosoft 365(旧・Office 365)に変えました。僕も今もちろんMicrosoft 365を使っていますが、個人使用のSurfaceから会社のアカウントにログインできるので、違う端末でも使えます。

個人でAppleも持っていますが、VPNで会社のアカウントにログインして自宅のAppleで会社の環境をつくれるので、Microsoft 365が使えます。つまり、サティアが言う「クラウドコンピューティング」によって、Appleも敵ではなくパートナーであると再定義しているんですよ。Appleに限らず、LinuxやUNIXマシンも、全てです。

GoはMacにMicrosoft 365を入れていますか。

杉原:入れています。

有園:つまり、Microsoft 365に限りませんが、Appleは敵ではなく「Microsoftのサービスを使ってくれる端末をつくっている会社である」という定義に変えてしまっている。

日本においては、大きくAppleとMicrosoftのWindowsマシンでOSが二分されていると考えたときに、MacユーザーのほどんどがMicrosoft 365を入れているのではないかと思うのですよ。社会人だったら、入れていない人のほうが珍しいですよ。そうすると、クラウドのSaaSモデルとしてのシェアはおそらく世界でナンバーワンだと思うのです。それだけユーザーベースがあります。

パソコンを使ったことがある人の中で、PowerPoint、Excelを使ったことがないという人はほとんどいないかもしれません。Macユーザーでも使っているのですから。Microsoftってそういう会社ですね。世界最大クラスのユーザーベースがある。

そして、広告事業の視点では、世界最大クラスのユーザーベースがあるということは、ファーストパーティデータが世界最大級にある会社なので、ユーザー属性データや行動履歴データも豊富にあるため、そのデータをもとに世界最先端のAI技術でターゲティングする能力も、世界トップクラスということになります。

GoogleもAppleもより良い世界をつくっていくパートナーである

有園:話を戻しますが、そういうベースがあったので、クラウドコンピューティング、つまり、SaaSのモデルに移行したとき、Microsoftが移行するんだったら、ユーザーも移行するしか選択肢がないって感じもあったと思うのです。さらに、Dropbox的なファイルシェアも、OneDriveをつくって全部そこでできるようにしてしまいました。ビジネスシーンで必要なアプリやツールは、ほとんどMicrosoft 365でカバーされてしまった。

そうするとGoogleも敵ではなくなった。Googleも、Windowsマシンから検索してくれているユーザーばかりですよね。もしくは、Appleを使っていてもEdgeユーザーはいるわけなので、Edgeブラウザから検索する人はたくさんいます。日本で6割ぐらいGoogle Chromeのシェアがあるという調査結果もあるのですが、われわれの知ってる限りでは、6割がGoogle Chromeユーザーでも必ずしも敵ではなく、補完関係にあるパートナーである。それがサティアのスタンスなのですよね。

杉原:ああ、なるほど。

有園:これは、入社する前はそこまで意識していませんでした。敵とは思っていない。なぜなら、そもそもビジネスドメインが異なっているから。ただ、あらためて入社してなるほどと思いました。

なので、GoogleもFacebookもプラットフォーマーであるといいますが、Googleは検索含め、Google広告とかAdSenseといった広告のプラットフォームがあり、それ以外にもクラウドコンピューティングのプラットフォームも提供していますが、Microsoftはその下で、GoogleやAmazonやFacebookを支える基盤となるOSプラットフォームを提供している、そういうスタンスなんですよね。みんな、OSの上に載っているので、補完関係であって、かつ、Microsoftはそれを支えている(to empower)という事実があります。

つまり、Google、Facebook、Amazonなどを「Empower」する基盤を提供するプラットフォーマー、それがMicrosoftですね。

杉原:なるほど、ピンと来ました。

有園:僕らの世代だとiPodとかiMacとかが出てきたころに、スティーブ・ジョブズがかっこいいという感じはあるのですが、でもやはりビル・ゲイツはあらためて「本当にすごかったのだな」と再認識しました。ソフトだけで会社を作って分離独立させるという戦略を実践した。その革命的意味の深さを、入社してから再確認しましたね。

ソフトをハードから分離した、おそらく世界最初のソフトウェア会社。結局、クラウドコンピューティングの思想も端末から分離独立していくということです。そのことによって自由にアップデートできて、いろいろな場所から自由にアクセスできる。自由度が増していくということがすごくキーになり、結果、GoogleやAppleも競合ではなく、一緒により良い世界をつくっていくパートナー企業であると位置付けているのです。

杉原:サティアさんのインタビューを見ていると「クロスプラットフォーム」と言っていました。Ariも言ったように、SaaSモデルに変わったとか、Azureみたいなすごいビジネスクラウドもあるとか、断片的にクラウドやSaaS、インターネットに適応したという認識は僕も持っていました。でも、クロスプラットフォームというのは他社を“競合”とは捉えないという話だと思いますが、僕も意外と意識していませんでした。

有園:それは僕もです。GoogleとMicrosoftは、Microsoftから見れば競合しているつもりはおそらくないだろうとは思っていましたが、私がGoogleにいるころ「Googleから見てもBingなんて大したシェアはない」というスタンスだった。だから、競合しているとはお互い思っていないだろうな、ぐらいの感覚でしたね。

ただ、実は創業のときから、ハードからソフトを分離し、より自由度が増して全てをそこに載せていくオペレーティングシステムなので、もともと全てのアプリを上に載せるという発想じゃないですか。全てを載せていくという発想だから、クラウドコンピューティングの世界にいったときにも、Appleも敵ではない、パートナーであるという発想になりますよね。

杉原:すごく納得感ありますね。

有園:オペレーティングシステムの観点からクロスプラットフォームということは、少なくともインターネットの世界においては、他社ツールやアプリを全て載せてもよいって可能性がみえてくるということですよね。

杉原:だからGoogleの広告のシステムやFacebookに対してもクロスプラットフォームのスタンスで、一括管理できるようにしていると。

有園:それについて言うと、クロスプラットフォームのマルチプラットフォーム機能ですね。9月に発表しましたが、その思想が全面に表れてきているとみえますよね。

Microsoftは、2022年9月8日(木)に同社ブログにおいて、Microsoft広告だけでなく、Google、Facebook、Instagramなど他のプラットフォームへの広告配信を管理するマルチ...

杉原:あれにもつながるのですね。

有園:繰り返しになりますがAppleもGoogleも敵ではない、なぜならわれわれがつくったSaaSの上に載って活躍してくれるから、と。それはもう創業のころから変わっていないですよというスタンスだとすれば、広告においても、できるだけ他の広告プラットフォームも含めて便利にユーザーに使ってもらえるのであれば、一括管理する機能も提供しようということだと思います。

もちろん他社に割り当てている広告予算をMicrosoftにたくさん寄せるとか、現場の担当者はいろいろ考えてると思いますよ。だけど会社のスタンスとしては、もともとオペレーティングシステムにしても、クラウドにしても、全部そこに載せるものをつくろうとしている。

例えばですが、KeynoteというAppleのプレゼンテーションツールはWindowsマシンに載らない。その逆を見ると、PowerPointはWindowsでもMacでも使える。これが思想の違いですね。

僕はAppleは好きですし、間違っていると言いたいわけではなく、戦略の違いですね。Appleは垂直統合で、ハードとソフトと全部、一括管理でもう芸術作品としてつくってくる。自分たちで全部コントロールできて、でも本当に使いやすいものをつくるのであるというのがスティーブ・ジョブズが言ってることで、それはそれで素晴らしい戦略です。

実はすごいのですが、Microsoftの社内でAppleマシンを使っている人を何度か見かけるんですよ。

杉原:へー、そうなんだ。

有園:そう。許されているみたいです。なぜならパートナーだから。これがもう示していますよね。だから僕もiPadやMacを持ってくることもある。

最初は僕もMicrosoft社内でMacを使っていいのだろうかと思ったのですが、今は全然いいんだなって思っています。

杉原:Microsoftの見方がだいぶ変わりました。

有園:だからクロスプラットフォームしかり、オペレーティングシステムしかり、全部載せようという思想、これが大きいと思います。そして、結果的に「自由」になってしまうって感じです。

伸び続けるBingの検索ボリューム

杉原:分かりました。では、Microsoft Advertisingの話を伺いましょうか。

有園:では、概要をお話しさせてください。Microsoftの規模としては、Edgeの国内の月間ユニークユーザーは3300万、Bingの検索数は月間7億です。調査にもよりますが、これが日本のシェアで16%くらい、サードパーティーの調査会社のデータだと12~13%とか16%とか出ていますね。そして、MSNの月間訪問者数は6130万です。

また、グローバルの数字を参考までにお伝えすると、Windowsのインストール数は8億。MacユーザーもMicrosoft 365を使っているから、Windowsのインストール数はもはやあまり重要じゃないかもしれないですね。

ここにはSaaSとしてのMicrosoft 365のユーザー数は発表していないのですが、Facebookがスマホ端末を含めて30億ほどユーザーがいると言われていることを踏まえると、PCとスマホ、タブレット端末で、それに匹敵する規模であってもおかしくない。

杉原:規模がすごい。

有園:次のポイントとしては、こちらの資料にある「ファーストパーティデータ×AIによるMicrosoftオーディエンス インテリジェンス」。これは思想だと思ってもらうとよいと思います。

ここに描かれているようにBing、MSN、Windowsマシン、LinkedIn、Edgeのブラウザー、Outlookなど、さまざまなデータをもっています。

数十億のデータポイントを使用して、ウェブブラウジング、検索、MicrosoftおよびLinkedInデータからの信号を組み合わせながら、消費者の意図を特定し、AIで推定して、広告のパフォーマンスと効率性を向上させているわけです。

エンジニアの話だと、これだけのデータがあれば、AIで推定して、かなりの精度でターゲティングできると。グローバルでファーストパーティデータを200億のクロス・スクリーン・データとして持っていて、それを基にAIで推定する。

これだけのデータがあるので、オーディエンスインテリジェンス、オーディエンスターゲティングは、世界最大級のデータと世界最先端のAIを使っているから、正確性が高いですよ、という話ですね。

既存のネット広告システムはGoogleやYahoo! を中心に、サードパーティークッキーおよび、サードパーティーデータに依存しています。GoogleのChromeがサードパーティークッキーの利用の廃止を2024年まで延期したニュースが今年の7月22日に出ました(*)。これは、ツールベンダーなども含めて、次世代の配信技術が確立されない状態でGoogleがサードパーティークッキーの利用を停止してしまうと、業界全体に大混乱をもたらすからです。

*「【コラム】なぜGoogleはChromeのサードパーティCookie廃止を2024年まで再延期したのか」

Googleは、2022年7月27日(水)、ChromeブラウザでのサードパーティーCookieのサポート完全終了を開始する目標期日を2024年後半に再延期したことを発表しました。2020年...

つまり、データ取得が今までのようにできなくなるので、広告のターゲティング精度が悪化し、ビジネス的なネガティブインパクトが大きい。それをみんな心配している訳です。Googleは旧来型の廃止技術をしばらく温存することで、業界全体のために戦っているようにみえます。実際に、フランス政府などから制裁金を課せられた。それでも、Googleは、業界全体を守るために戦っていると思っています。

一方で、AppleのブラウザSafari、MicrosoftのブラウザEdgeは、サードパーティークッキー廃止をすぐに実施しています。AppleもMicrosoftも、サードパーティークッキーおよび、サードパーティーデータに依存していないビジネスだからですね。

AppleもMicrosoftも自社のファーストパーティデータが世界最大級ですよね。だから、サードパーティーデータに依存しなくても、広告のターゲティング精度をあげることができる。

ターゲティングというのは、広告主様(使う側)が何を狙ってどんな効果を出したいかによって「正確性」「精度」という言葉の含意が変わってきます。なので、Microsoft広告の良しあしは、広告主様にご判断いただくものです。

ただ、Microsoftとしては、これだけの規模のデータがあって、実は、ファーストパーティデータとしては、GAFAと比較してもデータの量と質がよくて、AIの技術力も世界最先端なので、充分に広告主様にご満足いただけるものを提供できる自信はあるという話です。

特に、サードパーティークッキーが使えなくなっていくこの3年ぐらいで、Microsoftのオーディエンスインテリジェンスは、次世代の配信技術の代表例として業界全体の広告主様にご満足いただけるものになっていく、と私も誇りに思っています。

また、200億のクロス・スクリーン・データ信号が刻々とリフレッシュされ、古くなったデータには一切依存しませんと書かれています。広告のターゲティングでは、データのフレッシュネス(鮮度)が非常に重要なのは周知のとおりですよね。昨年の行動履歴を使ってターゲティングしても、効果が悪いのは経験的にネット広告業界の人は分かっている。Microsoftのデータは、大量のユーザーがいて、クラウドコンピューティングで使ってもらっているので、フレッシュなデータが日々取得できる。

しかも、ファーストパーティデータなので、信頼度が高いわけです。サードパーティーデータだと、もともとどっからそのデータが来たのか分からないなど、データの出元が不明で信頼性が低いということがよくありますよね。

さらに、Microsoftは、AI分野のリーダーとして30年以上取り組んできました。もちろんGoogleもその分野ではすごいと思うし、AppleもすごいけれどMicrosoftも全然引けは取らない、それは間違いないと思います。強力な検索データ、Bingもアメリカでは35%ぐらいシェアがあるそうです。

杉原:結構あるんですね。

有園:結構あるんですよ。アメリカは40%に迫っているなんて、びっくりしました。これは、やはりGAFAに比べて、ファーストパーティデータのクオリティが高いので、よい検索結果を返せるんですよね。ヨーロッパは国によりますが25%とか、イタリアでは15%とか日本と同じような状況です。

Microsoft 365を世界中でほとんどのユーザーが使っている。PC、スマホ、タブレットで使っているわけです。つまり、そこでどんなことをしているかのデータをもとに、その人に検索結果を戻すわけです。これに、さらに、EdgeやLinkedInなどのデータも利用されているということで、かなり質が高い検索結果を返すことができる。

その事実に、アメリカのユーザーが気づき始めていると聞いています。他の会社では、Microsoft 365の利用履歴データにアクセスできないですからね。

だから、サードパーティークッキーの廃止は、Microsoftの検索エンジンや広告配信の仕組みにとって、追い風なのですよ。

アメリカのネット広告業界の人たちは、それに気づいている。検索のデータとか、一貫した方法でユーザーの90%以上をAIを使って推定し、特定しています。

さらに、Microsoft製品全体でのプラットフォームをまたいだユーザー行動を把握しています、という意味で各製品ユーザーがかぶっている割合は、MSN70%、Outlook48%、Edge73%となっています。

杉原:はい。

有園:こちらはStatCounterという第三者サービスのデータで、Japan部分を切り出すとこういう状態です。59.8%がChrome。Edgeが22.95%。それに続いてFirefox、Safari、IE。IEはもうなくなっていますけどね。

次が検索エンジンのシェアで、PCの場合です。Googleが71.61%。Bingは16.6%。Yahoo!は10%という数字が出てきています。

杉原:Bingは16%もあるのですね。

有園:僕は以前ある金融機関で仕事していたときに分かったのですが、皆さん素直に会社から提供されたパソコンのEdgeを使っている。しかも会社PCには、ソフトのダウンロードを禁止されているから、基本的に許可を取らないとChromeも入れられません。そうなるとみんなEdgeを使うことになる。だから同じような金融機関などの会社の社員は、Edgeを使っています。金融機関に限らないですが、そういう会社は結構多い。

他にも、大手の広告代理店などではChromeもSafariも何から何までダウンロードできるような環境でした。ただその中においても渡されたPCに最初から入っているEdgeを使っている人はそれなりにいるのですよね。それが、この数字に表れているのだと思います。

杉原:そうだ、思い出した。今もそうかもしれませんが、Windowsマシンを買ったときに最初から入っているのは今Edgeですが、以前はIEで、IEのトップになっているMSNで初めてインターネットショッピングをする人が意外といたんだよね。

有園:意外といますね。まだいるみたいです。

杉原:広告効果的には、トラフィックのボリュームは少なかったけど、質の高いクライアントが取れていたという話があったじゃないですか。それと似たような話だよね。

有園:Bingのシェアが16.6%というのは昨年のデータですが、実は右肩上がりに伸びているんですよ。これは日本においても、Bingの検索結果のクオリティが高いということに気づいている人が増えているのだと思います。GAFAと比較して、ファーストパーティデータが圧倒的ですからね。

また、会社のパソコンを使っている時間が延びると、どうやらBingの検索数が伸びるようなのです。2019年以降は明らかにコロナ禍で、自宅でも会社のパソコンを使っている人が増えていることが調査結果として出て、それもあって伸びているのだろうなと。

つまり、リモートワークはMicrosoftに追い風。サードパーティークッキー廃止もMicrosoftに追い風です。

それ以外で、これは日本のデータなのですが、17年、18年に続いて確かに伸びています。

特徴としておそらく40代、50代で仕事用のパソコンで、ついでにプライベートの検索をするというのは男性比率が高くて、年収はGoogleで検索している人よりも高いようです。そして正社員が多い。つまりPCユーザーが多いということですね。年収のレンジが高いから意思決定者の割合も高いということです。BtoB向けの広告主とは相性がいいというのと、少し高額なものを売るんだったら相性がいいということですね。

杉原:決定者の割合が高いというのはいいね。

有園:その傾向はあるようです。Goは覚えているかもしれないけど、Yahoo!とGoogleを2005~2006年で比較したらGoogleのほうが男性が多くて、20代女性はYahoo!を使っていましたという結果がありました。今はGoogleはポピュラーになっていてみんなが使っていて、一方でMicrosoftのBingでサーチする人はおそらくEdgeを使っている人です。その人たちがこういう傾向になるというのは面白いと思うんですよね。

マーケティングとしては、グローバルで「ワークデイ コンシューマー」という言葉を推しています。先ほど言ったように、シンプルにいえばコロナ禍以降自宅で会社のパソコンを使う人が急に増えたことによって、実はMicrosoftの広告の売り上げが伸びているという話です。お客さん、広告主の方にも、自宅での時間に実は会社のパソコンでAmazonや楽天で買い物をしている人も結構増えています。そのような人々が増えているので、広告を出稿しませんかというのがグローバルで統一されているマーケティングメッセージです。

杉原:なるほど確かに「ワークデイ コンシューマー」ですね

Microsoft Advertisingの主なメニュー

杉原:そして広告としてはどのような商品があるんでしょう。

有園:現在われわれが販売している商品は、Japanにおいては検索広告としてテキスト広告とショッピング広告があります。それからネイティブ広告と呼んでいるものがあります。Outlookの面とMSNの面とEdgeで、最初のブラウザやニュースで見るときに出てくるものがあって、それから今後の展開としては、優良パブリッシャーとネットワークを作って掲載されるようになっていくと思います。

検索広告には、テキスト広告、ショッピング広告があり、PC、モバイルに対応しています(2022年11月現在、モバイルはショッピング広告のみ)。

さらにいろいろな表示オプションがあります。

ショッピング広告もこのように出ます。

杉原:さらにGoogle広告のインポート機能もあるんですね。

有園:ネイティブ広告は「記事(コンテンツ)と広告が自然と融合している広告」のことですが、人によっては、Paid Search(検索連動型広告)もネイティブ広告だと捉えている人もいますね。いずれにしても、Google的にいうとGoogle Display Networkという話です。ただ、画面の中でより自然に見えるような、技術的な工夫をされているのでネイティブ広告と呼んでいる。さまざまな調査結果がありますが、ネイティブ広告のほうが広告効果が高くなっているのが業界のトレンドですので、単なるアドネットワーク(GDN・YDN)やDSP/SSPとは効果が異なります。

しかも、さっきも話したとおり、サードパーティークッキーが、Chromeでも廃止される予定なので、既存のアドネットワークビジネスは打撃を受けるだろうと業界内で言われているのは周知のとおりです。そのため、それを補完していくためにも、業界全体のためにも、ファーストパーティデータを活用したネイティブ広告に活路があるということになりますね。

ちなみに、先ほども少し話しましたが、Bingの検索が急に伸びているんですよね。今後もさらに5年間で+131%成長する見込みになっています。

これは、サードパーティー廃止とファーストパーティへの業界全体の流れ、リモートワークの増加、Bingのクオリティの高さに最先端の人々が気が付き始めている、という流れですね。

そういう意味では、なんかいいタイミングでMicrosoft Advertisingに入ったんだと思います。

タイミングも運も良くて、良縁をいただけたことに、感謝しかありません。本当に、偶然のご縁で、Microsoftの方からお声がけをいただき、かつ、電通グループや博報堂DYグループ、そして、コンサルティング契約をしていたクライアント様からも、全ての方々に「有園さんがMicrosoftにいくなら応援しますよ」と言っていただけたので、泣くほど嬉しくてね。

自分の小さな「zonari合同会社のビジネスを継続したい」というエゴな気持ちがあったのですが、なんか「俺、何、小さなこと考えているんだ。それは自分のエゴだし自己満足にすぎない」って思って、思い切って、Microsoft広告事業に飛び込むことにしたんです。

だから、育てていただいた電通グループ・博報堂DYグループ、そして、お世話になってきたクライアント様の数々、もちろん、アタラ合同会社の方々にも、なんとか恩返しができればと思って、今、ここにいるのです。本当に、泣くほど、感謝しています。

—–

Bingの検索量の増加に見られるように、勢いのあるMicrosoft Advertising。そこには、現在のMicrosoftの哲学が大きく影響しているといいます。後編ではMicrosoftならではの思想と広告事業との関係性、さらには今後の事業戦略についてと話は続きます。

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