【特別寄稿】日本のCPMを上げるために、Microsoftの戦略を共有しよう。

日本のCPMを上げるために、Microsoftの戦略を共有しよう。

アタラ合同会社創業メンバーの一人であり、現在もアタラのフェローとして携わっていただいている有園雄一さんが2022年8月末、日本マイクロソフト株式会社 Regional Vice President Japan, Microsoft Advertisingに就任されました。

今回、日本の広告業界のCPMを上げるためのMicrosoftの戦略について寄稿していただきましたので、ぜひご一読ください。


この記事では、日本の広告業界のCPMを上げるために、Microsoftの広告事業(Microsoft Advertising)の戦略をできる範囲で共有したい。

まず注意事項だが、ここでは、CPMとRPMを同じものとして扱う。CPM(Cost per Mille)は広告主側で主に使われる指標で、媒体社側ではRPM(Revenue per Mille)などを使う。この2つの計算式は異なるが、そのコンセプトは表裏一体である。

Microsoftのミッションは、「to empower every person and every organization on the planet to achieve more.」(地球上のすべての個人とすべての組織が、より多くのことを達成できるようにする)ことだ。

Mission and Vision - Microsoft

メディア・広告業界に、このミッションを当てはめると、「媒体社・広告主・広告代理店・ユーザー/生活者・競合社」の、すべての個人とすべての組織を「Empower」することだ。AppleやGoogleなど、一般的にMicrosoftの競合だと思われている企業も含まれる。なぜなら、「すべての個人とすべての組織」を対象にするからだ。

実際に、「Microsoft 365®︎(旧称Office365®︎)」は、Macのユーザーにも使われている。Windowsマシン上でGoogleを利用するユーザーはWindowsのユーザーでもある。それぞれ補完関係にあり、Microsoft社内では、AppleやGoogleは「Empower」(ご支援)するべき重要なパートナーになっている。これは、FacebookやAmazon、Yahoo! も同様だ。

Microsoftに入社して2ヶ月程度だが、この会社はOSが元々のビジネスドメインだったからか、すべての人々・すべての組織を「縁の下の力持ちとして」支えていく姿勢がビジネスの根幹にあると感じる。

そのMicrosoftの広告事業(Microsoft Advertising)の責任者として、ミッションを遂行するためには、メディア・広告業界のすべての関係者をいかに「Empower」(ご支援)するか。それが、重要だ。ここには、GoogleやAppleだけでなく、テレビ局・ラジオ局・新聞社・雑誌社も含まれる。

昨年私は「なぜ日本の CPM は低いのか?:人口減少時代に CPM を上げるために」(https://digiday.jp/publishers/why-is-cpm-so-low-in-japan/)という記事を書いている。

なぜ日本の CPM は低いのか?:人口減少時代に CPM を上げるために - DIGIDAY[日本版] - digiday.jp

この日本のCPMを上げること。それが、私の重要なミッションの一つである。なぜなら、結果的に、GoogleやFacebookなども儲かる(CPMが上がればGoogle・Facebookも儲かる)し、すべてのネット媒体・広告主・広告代理店も儲かるし、ユーザー/生活者にもプラスになるからだ。

「業界全体のCPMを上げること。そして、その利益をユーザー/生活者に還元すること」。このミッションを遂行し、結果として、Microsoftの収益も上げる。その好循環を日本に作っていく。

今日は、その戦略を共有したい。この戦略は、Google Japanの営業戦略企画担当だった私の経験を反映している。10年以上前だが、当時のGoogle JapanはまだYahoo! Japanよりも売上が小さく、「Yahoo! に追いつけ、追い越せ」と努力していた。私がGoogleを退職した2009年ごろに追い越し、その後、Yahoo! Japanの検索エンジンと検索連動型広告のバックエンドはGoogleに切り替えられた。つまり、その意味では、実績に裏打ちされている。

ちなみに、余談だが、当時のGoogleの戦略は、私が作った訳ではない。私は調整役だった。当時のGoogle Japan 執行役員・佐藤康夫氏(現、アタラ合同会社会長)を中心に、当時のGoogle米国本社VPで日本法人代表取締役社長・村上憲郎氏の支持を得ながら、多くの関係者と共に作った。

ただ、ここで特筆したいのが、当時のGoogle Japanにあった「RPM Project」というプロジェクトについてである。
高広伯彦氏(現、スケダチ代表)の部署がオーナーだった。プロジェクト発起人は私が務め、高広伯彦氏の協力を得て立ち上げた。そのとき、彼と二人きりで渋谷のオフィスで夕方5時から議論を始め、終わったのが夜11時過ぎだったことがある。議論は白熱し、時間はあっという間に夜11時になっていた。2007年だった。

RPMの式をみながら、プロダクトやQuality Scoreはどうあるべきか、マーケティングはどうすべきか、営業組織はどのように動くべきか、などをホワイトボードに書いて、延々と議論し資料化した。それに基づいて、杉原剛氏(現、アタラ合同会社CEO)らと共に、営業活動を実践的に組織化し、その効果を数字でトラッキングした。おそらく、あの時のGoogle Japanに高広伯彦氏や杉原剛氏がいなかったら、いまのGoogle Japanの成功はない。それぐらい、彼らの影響は大きかった(影響が大きかった人は他にもいるが、全員の名前は書けない。申し訳ない)。

さて今回は、当時とは、少し前提条件が異なる。それは、当時の私は、人口減少社会を戦略に組み込んではいなかった。今回は、戦略の与件として、人口減少を組み込む。また、当時の私は、マス広告からパイを奪う戦略を意識した。だが、今回は異なる。テレビ局などマスメディアもできるだけ支えたい。そして、ユーザー/生活者にUX以上、あるいは、以外のものを還元したい。

断っておくが、当時のGoogle Japanの戦略を開示するつもりは毛頭ないし(NDAに抵触する)、Microsoftの戦略をすべて紹介するつもりもない。そもそも、コンフィデンシャルなことを書いたら、Microsoftとの雇用契約に違反する。

だが、現在、Microsoftの私のチームで構築中の戦略が、Microsoftのミッションに沿っていること、および、業界全体のすべてのプレーヤーを「Empower」(ご支援)すること、そして、その思想やRMPの式をもとにして、どのような戦略を構築し、業界のすべての人々・企業と一緒に、どこに向かっていこうとしているのか。それについては、共有しても構わないと考えている。なぜなら、Microsoftのミッションは公開されていて、その延長線上にあるからだ。

今回の戦略の前提条件は、


1. Microsoftのミッションを満たすこと
2. 人口減少を組み込むこと
3. GoogleなどIT・ネット企業もマスメディア企業もすべて、パートナー・味方だと捉え直すこと
4. 業界全体のCPMを上げるためには、日本のDXを推進する必要があること(これは、別の機会に執筆予定)
5. そして、結果的に、ユーザー/生活者に購買力を付与すること
(これは、「Microsoft Rewards」というポイントを付与し、その経済圏を活用する)。

この5点だ。

次に、「As is:現状認識・現状分析」は何か? 様々な見解があり得るが、私としては、「業界全体のCPMが欧米に比較して極端に低く、結果的に、インターネット広告業界の給与水準が上がらない一因になっていること。この根本原因には、日本のDXの遅れがあること」とする。

戦略が目指す「To be:あるべき姿」は何か? 「業界全体の平均CPM5000円以上。日本全体のDXが加速し、日本全体のCVRが高くなっている。結果的に、広告業界の平均給与も上昇し、間接的に日本全体の『一人当たりのGDP(GDP per capita)』も押し上げること」とする。

補足するが、Microsoft Advertisingとしては、CPM上昇の結果として、「Microsoft Rewards」によってできるだけ多くの人にたくさんのポイントを還元し、購買力を付与して、消費を活性化し、間接的に「一人当たりのGDP」上昇に貢献したい。

Microsoft Rewards を獲得し、より良い世界に貢献する

「Microsoft Rewards」とは、そのサービス紹介ページによれば、「Microsft Bing で検索したり、Microsoft でショッピングやゲームをするとポイントが貯まります。さらに、Microsoft Edge を利用するとポイントが追加されます。貯まったポイントは自分へのご褒美や世界の慈善活動に引き換えできます」とある。
要するに、Microsoft Bingで検索したり、ブラウザのEdgeを使っているだけでポイントが貯まるサービスだ(登録必須)。そして、そのポイントは、Amazonギフト券に交換したり慈善活動などに寄付したりできる。

今後は、日本の共通ポイントや家電量販店のポイントなど、ミッションと思想を共有していただける事業者との提携拡大を通して、一人でも多くのユーザー/生活者の方々に、ポイント(購買力)を還元していきたい。わずかながらMicrosoftがポイントの原資を出して、すこしでもユーザー/生活者に還元し、Amazonや共通ポイント事業者のサイトやサービスに送客し、そこでそのポイントを使ってほしい。その結果、パートナー企業の売上にも貢献できる。それが戦略の骨子の一つである。

そして、特筆すべきは、Microsoftのポイントによってユーザー/生活者がAmazonで購入すると、CVRが上昇するということだ。もちろん、ほかのECサイトや家電量販店でも同様だ。CVRが上昇すると、RPMも上昇するので、日本全体のCPM(RPM)も上昇しやすくなる。

Search RPMとバナーなど一般的なRPMの式、および、CPAの計算式が頭に入っている人ならすぐに分かると思うが、CPC=CPA × CVR と表現できるため、CPAを一定に維持して(広告主の要望を満たしつつ)、CVRのプラスの変化率を大きくすることで、CPCを大きくすることができる。CPCはRPMの一要素であるため、CPCが大きくなると、RPMも大きくなる。RPMが大きくなるとき、当然、CPMも大きくなるという関係がある。

電通・博報堂・サイバーエージェントなどの広告代理店は、Microsoft Advertisingの広告を取り扱うことによって、自社の売上・利益を上げながら、ユーザー/生活者に還元するためのポイントの原資を生み出すことになる。これは、広告主企業も同様で、広告出稿することによって、自社のマーケティングの成果のためにお金を使いながらも、結果的に、ユーザー/生活者に還元する原資を生み出すことになる。自社のマーケティングが、日本経済の好循環を生み出す出発点になるのだ。

2019年に記事「前略、安倍首相。「データ配当金」の法制化を提案します:「GAFA規制」報道を受けての提言」(https://digiday.jp/platforms/legalization-of-data-dividend)を書いた。この「データ配当金」とは、カリフォルニア州のギャビン・ニューサム知事などが提唱し、プラットフォーマーを念頭に、個人情報・データを利用して収益を上げた事業者は、その一部を「データ配当金」として個人に支払うことを義務づける内容で、カリフォルニア州で法制化を目指していた。残念ながら、業界の反発もあって実現には至っていない。

だが、この「データ配当金」という思想の背景には、Microsoftの主席研究員グレン・ワイル(Glen Weyl)の存在がある。彼の共著書『Radical Markets: Uprooting Capitalism and Democracy for a Just Society』などで、「Data Work」「Data as Labor」というコンセプトを打ち出し、個人データがまるで「Labor(労働者)」のように働いてくれるお陰で、プラットフォーマーの収益が上がっていると指摘している。

私は当然Microsoft本社の戦略に関わっている訳ではないが、


1. Microsoftのミッションの趣旨が「Empower」であること
2. Microsoftの社員グレン・ワイルが「Data Work」や「データ配当金」の思想を唱えていること
3. すでに「Microsoft Rewards」のサービスを開始したこと

この三つは、あきらかに関連していて、ユーザー/生活者にすこしでも「データ配当金」を還元することを目指しているようにみえる。ただし、Microsoftは、現金を還元できる事業者ではない。なので、その代わりに、ポイント(Microsoft Rewards)で還元するしか方法がないのだ。

さて、昨年の記事「なぜ日本の CPM は低いのか?:人口減少時代に CPM を上げるために」(https://digiday.jp/publishers/why-is-cpm-so-low-in-japan/)とあわせて読んでいただければ、私がなぜ人口減少を前提に組み込んでいるかなど、ご理解いただけると思う。

今後、人口減少のトレンドが続く社会において、テレビなどマス広告のようにグロスの数字(GRP:Gross Rating Pointなど)を追いかけるビジネスは、じり貧になっていく可能性が高い。なぜなら、人口の総数が伸びないということは、日本経済のGDP(Gross Domestic Product)も停滞する可能性が高いし、かつ、テレビなどマス広告の出稿はGDPと正の相関が強い。また、テレビのGRPあるいは視聴率の場合、単純化して話すと、たとえば、今までに人口1000人のうち200人が視聴していると20%だが、人口100人になっても20人が視聴していれば20%になる。人口減少社会で視聴率を維持しても視聴者数は減っていく。

マクロ経済的には、一人当たりのGDPなど単位当たりの数字を上げないと、経済成長につながらない。ミクロ経済的には、テレビ局などの企業視点では、広告の単価を上げていくしかない(あるいは、視聴者一人当たりの売上などを上げていくしかない)。もちろん、事業の多角化戦略もあるが、それは別の話だ。

上記の昨年の記事では、テレビ局・ラジオ局・新聞社・雑誌社なども、CPM(あるいは、RPM:つまり、広告の単価、もしくは、単位当たり収益)を上げていくしかないという趣旨のことを書いたつもりだ。

改めて書くが、「業界全体のCPMを上げること。そして、その利益をユーザー/生活者に還元すること」。このミッションを遂行していく。そして、日本経済に好循環を作っていく。

ところで、昨年の記事「なぜ日本の CPM は低いのか?:人口減少時代に CPM を上げるために」(https://digiday.jp/publishers/why-is-cpm-so-low-in-japan/)の反響として、「趣旨には賛同するけれども、CPM(RPM)をどうやって上げたらいいか分からない」、あるいは、記事中にあった「Search RPMの計算式は参考になったけど、うちは新聞社だし、検索エンジンをやっていないので、応用できないです」など、多くの人にいわれた。

じつは、その反応は予想していたのだが、私のそれに対する回答はこうだ。「ほかのバナーなどインターネット広告も、Search RMPの式とまったく同じです! だから、テレビ局・ラジオ局・新聞社・雑誌社もみんな使えるはずなんです!」。

Microsoftの戦略を共有しよう

昨年の記事に記載したSearch RMPの計算式の「Queries」を「Page Views」に置き換えれば、それで終わりだ。RPMの式になる。「Queries」はここでは検索回数と同義だが、検索されると検索結果ページが表示される。つまり、「Queries」とは、検索結果ページの「Page Views = PVs」に該当する。一般のサイトでは、外部リンク、ブックマーク、URLの直打ちなどのイベントで「Page Views」が発生する。検索で「Page Views」が発生するか、そのほかのイベントで「Page Views」が発生するかの違いに過ぎない。

このRPMの式をみながら、上記に書いたように、高広伯彦氏と2007年に議論したのだ。この各要素を解説して、媒体社がどのように戦略を構築するべきか。どうやってRPMを上げていくのか。リーチとフリークエンシーを戦略的にどのようにコントロールしてRPMを高めていくのか。それをどのようにマーケティングや営業活動に落としていくべきか。次回以降、その思想を書いてみたい。といっても、その基本的な考え方は、多くの業界の先輩や知人から学ばせてもらったものだ。

「業界全体のCPMを上げること。そして、その利益をユーザー/生活者に還元すること」を実践するために、ほかの媒体社のCPM(RPM)も上げていきたい。なぜなら、CPM(RPM)の値下げ競争が始まると、デフレになってしまい、「失われた30年」を繰り返すだけになってしまうからだ。

さて、記事の字数が多くなったので、この続きは次回以降に書く。ただ、理論は難しいものではない。必要なことは実践することである。そして、当然、一人でできることではない。だから、みんなで、日本のCPM(RPM)を上げていきたいのだ。


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