【対談】アドインテに聞く:リテールメディアを中心に据えたリテールDXで仕掛ける小売業大改革

AdInte

ポストクッキー時代、サードパーティクッキーの活用が規制されることにより、デジタルマーケティング領域では、CMP(同意管理プラットフォーム)、共通ID(データプライバシー規制に違反せず、オーディエンスのデジタルIDを識別できる手法)コンテキストターゲティング(Webサイトのキーワードやテキストの内容・画像などをAIが自動で解析し「ページの文脈=コンテキスト」に沿った内容の広告を表示する施策)など新たな対応を求められています。

また、クッキーに頼らないアドレサビリティが重要になってくるこれからの時代に向け、小売業者およびブランドのマネタイゼーションをより一層支援するものとして、米国をはじめとする英語圏ではリテールメディア(AmazonやWalmartなどの小売業者のECサイトやアプリに掲載される広告のこと)が大きな注目を集めています。

コロナ禍以降、デジタルシフトを余儀なくされた日本の小売業(=リテール)はEC化への対応を急ピッチで進めた企業も多く、2020年度のネット販売実施企業上位300社の合計売上高は6兆1443億円となり、前年調査の4兆8042億円と比べて27・9%増加する結果となりました。
出典:通販新聞「第21回ネット販売白書」

これまで実店舗における購買行動データやID-POSデータを持っていた小売業があらためてオンライン市場へ参入し、オンライン・オフライン双方の貴重なファースト・パーティー・データの活用を進めていった先に小売業のどのような未来が見えてくるのか。

今回は、リテールメディアプラットフォームのみならず、リテールDXともいえる小売業大改革に取り組まれている株式会社アドインテの副社長/COO 稲森学さんにお話を伺いました

話し手:
株式会社アドインテ
副社長/COO 稲森学さん

聞き手:
アタラ合同会社
CEO 杉原剛

目次

・DXの取り組みの一環としてのリテールメディア
・リテールメディアの構築からデータの抽出、レポート作成まで担う
・ファースト・パーティー・データの再評価の波
・データの合従連衡
・広告メニューを増やす重要性とは


DXの取り組みの一環としてのリテールメディア

杉原:稲森さんの自己紹介からお願いします。

稲森:私はアドインテで副社長兼COOという役職に就いています。20歳で起業し、24歳のときに自身の株を売却し、その後、イーファクターという会社(現メタップス)に入社し、フラッシュマーケティングやリワード広告などの事業を経験させていただき、27歳のときに2回目の起業をしました。その会社とアドインテが合併して、副社長になったというのが経緯です。


杉原:シリアルアントレプレナーですね。

稲森:いえいえ、そんな良いものではありません(笑)。デジタル広告などの業界でやってきたというのはあったのですが、2回目の起業のときはSNSに特化したマーケティングをやっていました。その後アドインテの十河社長と出会ったときに、デジタルの中の人の行動だけだとやはり読み解くことが難しいと思っているという話を聞きました。

アドインテにはAIBeaconというIoT端末があり、オフラインのデータを活用してデジタルの世界と戦うという話をされ、壮大なビジョンですが直感で面白いなと思ったので、私が29歳のときに合併してアドインテに来て現在7年目です。

杉原:ありがとうございます。では、アドインテさんの会社の事業紹介をお願いします。

稲森:アドインテはもともとデジタル広告中心の会社で、SEO、Web制作から始まり、DSPを自社で開発していたりもしました。そこからオフラインに目を付けて、人の位置情報などを活用してリアルとデジタルを融合して新しい事業価値をつくるというのが今はメインになっています。

以前からAIBeaconというIoT端末やD2C型IOT自動販売機を自社でつくっているAIICOという事業で自らタッチポイントを創出することや、AIカメラ、赤外線、NFCといったものは、オフラインのタッチポイントをデータ化したり空間理解を深めることを得意としており、それに伴うハードやソフト、両方つくれるというところが強みかなと思います。

杉原:ありがとうございます。早速リテールメディアの話に入りますが、稲森さんにとってリテールメディアとは何でしょう。

稲森:リテールメディアという言葉自体、すごく広義なキーワードになってきましたが、店舗をメディア化するという発想自体は、おそらくもう10年前くらいからあったのではないでしょうか。

ただ、当時はデジタルサイネージを付けてロールで回すのがスタートだと思うのですが、現在私たちが定義しているリテールメディアは、米国のWalmart、Krogerのようなやり方をモデルにしています。米国での成功事例はたくさん出てきてますが、日本より相当先に進んでいて、店舗の価値やオフラインのデータ価値をものすごく理解できているなと思います。今までは店舗の中でのメディア化がほとんどでしたが、オンラインのタッチポイントも含めてメディア化が進んでいて、アプリやECサイトなどのデジタル接点も含めてです。

あと、小売店はそもそもデジタルの世界になかったオフラインの購買行動データ、貴重なファースト・パーティー・データを持っているので、ID-POSのデータを活用したDSPの配信や、AIカメラによる店舗のサイネージの視聴分析も可能になってきています。

日本のリテールメディアの成功モデルはまだまだこれから確立されていくと思いますが、オンラインとオフラインのタッチポイントをメディア化し、購買行動データを活用してターゲティングや効果測定ができるのが、これからのリテールメディアの形で、リテールメディアの大きな利点なのかなと思います。

各リテール企業もDXの一環として、顧客理解を深めるためにCDPやDMPを構築しているので、データ活用の一つの出口なのかなと思います。

杉原:リテールメディア=店舗のメディア化や、AIBeaconもDXの取り組みの一環であるということですね。

稲森:そうですね。私はちょうど、AIBeaconの端末ができて間もないころにアドインテの代表と出会いました。

杉原:そのころ、アドインテの中で、リテールメディアの構想は念頭にあったのでしょうか。米国でWalmartやKrogerがリテールメディアをやり始めたということがきっかけとしてあったとは思うのですが。

稲森:いえ、当時はまだありませんでした。アドインテがリテールメディアに取り組むまでの間、さまざまな背景があったのですが、一つ目は、今までSEOも含めたデジタル広告の業界でやってきた会社なので、OSに左右されないデータや仕組みの中で戦いたいとは思っていました。

オフラインのデータやファースト・パーティー・データが扱えるというのはやはり強いと思っていたので、当初は端末をさまざまな場所に設置し、独自で扱えるデータを増やすことに重きをおいてきました。

二つ目に、ビーコンという端末を扱う会社がようやく複数出てきて、私たちもそのうちの1社だったのですが、ビーコンをさまざまな場所に置いて人の行動データをためて広告配信をしたり、リアルタイムにどう活用するかという使い方があったりするので、やはり事業としては何かに絞る必要がありました。

三つ目に、僕たちの会社はベンチャー企業でもあるので、幅広く全部網羅はできないと思っていたこともあります。ビーコンの活用について、海外事例を中心に調べている中で、やはり活用先の中心は小売になると確信していました。

事業の対象を小売店さんに集中しようと決めたのが2017年なのですが、ただ対小売店さんに「ビーコンを活用してプッシュ通知できるんですよ」という話をしても提案内容が浅くて、あまり面白味がなかったので、もう一つ、二つ深い提案ができないといけないと課題を感じていました。

そうした中、当時はリテールメディアという言葉を使ってもなかなか通じる方も少なく、サイネージのような取り組みと思われることも多かったので「来店した人のデータは売れますよ。データを販売しませんか。リアルなCookieデータをためましょう」という言い方をしていました。

ただ、Cookieデータといっても、小売店さんからすると「Cookieって何?」という状況だったこともあり「Webの閲覧履歴はどのような活用がされて、収益につながっているのか」「来店した人のデータは、Webかリアルかの違いで閲覧履歴のようなものなので、これを広告主に使ってもらうことができますよ」と説明した流れから「実は今、米国のWalmartやKrogerはリテールメディアという事業をやっていて」という流れで話をして、少しずつ理解を深めてもらうしかありませんでした。

2017年にアドインテの社内で、リアルなCookieデータも活用したリテールメディアをやると言い出したのは私一人だけでしたね(笑)。

杉原:2017年。早いですね。でも、そのころWalmart、Krogerはすでにリテールメディアを始めていたのですね。

リテールメディアの構築からデータの抽出、広告配信からレポート作成まで担う

杉原:Walmart、Krogerのリテールメディアへの取り組みはどのようにお知りになったのですか。

稲森:いろいろな方々に聞いたのもたくさんありますが、海外のメディア記事からも最新の動向はウォッチするようにしてきました。当時日本ではあまり記事になっていなかったので、英語が全部分からないながらもWalmart、Krogerについての海外の記事を一行一行翻訳し、彼らが何をやっているのかを夜な夜な調べたりもしていました。

そうした新しい情報を日本語でレポートし、一人で小売企業さんに説明に渡り歩き「日本も今後リテールメディアは必ず流れがきますよ」という話をし続けたのです。

杉原:根性ありますね。

稲森:最初にお客さんになっていただいたのがツルハドラッグさんでしたが、契約に至るまで約2年ぐらいはかかったと思います。

杉原:すごいですね。構想して小売店さんを説得して回るところまでを含めると、体感としても結構長かったのではないでしょうか。

稲森:めちゃくちゃ長かったですね(笑)。もう決まらないんだろうなと思ったことも何回もありました。

やはり小売企業さんは物を売ったり新しくテナントを増やしたりすることで事業の拡大をしてきたという経緯がありますので、話は面白いとおっしゃっていただけますが、のれんに腕押し状態でした。「データなんか売らなくても今は別にいいよ」と。

日本は人口も減ってきていますけれども、当時はインバウンドの波も来ていたので、小売店さんはインバウンドの獲得だという方向に動いていた時期でもありました。

提案がなかなか決まりきらない状況が続いていましたが、ツルハホールディングスさまに興味を持っていただけたことが最初に踏み出せた大きな一歩でしたね。

杉原:インバウンドの獲得に動いていた時期というと、今とは全然状況が違いますね。随分ご苦労されたと思います。

稲森:そうですね。ものすごく苦労しました(笑)。

杉原:つまりアドインテさんがリテールメディアを始められたきっかけは、Walmart、Krogerがすでに存在していたことから、説得材料としてデータ販売から始められたということですね。

リテールメディアが来ると確信してやっていたら、ツルハドラッグさんが興味を持ってくれて第1号として取り組み始めていただけた、ということですね。ツルハドラッグさんと契約されたときもそうですが、アドインテさんのサービスは、どこまで提供をされているのですか。リテールメディアを構築するまででしょうか。

稲森:基本的には、データを蓄積し、分析し、広告配信をしてレポートを作成するまでです。小売企業さまが持っているファーストパーティーの会員データ、例えばCookieデータなどと、私たちのAIBeaconで取得したオフラインで来店した人のデータをCDPにとりためて、AIカメラも含めてハードも私たちが提出して、集まったデータを分析し、CDPも開発もPOS分析も弊社が行い、データ抽出までをしています。

広告主となるメーカーさんへの営業は弊社とツルハドラッグさんと両方でやっています。その後の広告の運用レポートの作成は基本全て弊社で行っています。

杉原:全部ですか。

稲森:はい。

杉原:そこはアウトソースしたり、他の代理店さんがやりたがったりしないのですか。

稲森:検討したこともありましたが、小売企業さまの貴重なデータを預かっているのは私たちなので、それを外に出すというのは難しいです。

杉原:確かにそうですね。すると御社がマネタリストサービスの部分も代行しているのですね。

稲森:はい。

ファースト・パーティー・データの再評価の波

杉原:分かりました。ツルハドラッグさんとのお取り組みがうまくいった結果、他の小売店さんはどのように反応して取り組みを始められたのですか。

稲森:会社さんによりけりですが、やはりコロナ禍になって急にインバウンドがストップして、人の流れが止まったことで、リテールメディアや新しいデータ販売の収益化への注目度が一気に高まりました。今まで営業に伺って話してもあまり進まなかった企業さまから「もう一度話を聞きたい」とお問い合わせいただくことが急激に増えました。

現在私たちがお取り組みさせていただいているリテールメディアは51屋号ほどあるので、おそらく国内でも圧倒的な量だと思っています。

杉原:すごいですね。お取り組み先が51屋号。アドインテさんが小売店さんをお取引先として相当数お取り組みされているということは伺っていましたが、優良なIDを持っているところは日本で他にもあるじゃないですか。

例えばサイバーエージェントと三菱UFJ銀行が提携して広告事業を始めるという表明があって、勝手にXメディアという言い方をしているのですが、今後Xメディアは増えるだろうと思っています。

来年あたりXメディアがたくさん出てきて、アメリカ、東南アジアなどいろいろなところがミニ・ウォールド・ガーデン化していくのではないかと予想しているのですが、どう思われますか。また、今後の日本市場の展開をどのように予想されていますか。

稲森:ファースト・パーティー・データの価値が上がることについては、サード・パーティー・クッキーの使用に制限がかかるとなった途端に注目されるようになりました。

ID経済圏、ポイント経済圏といわれるようになりましたよね。それぞれの強みを私なりに考えたのですが、例えばキャリアなどのポイント経済圏は、おそらく幅広くさまざまな店舗利用のデータを持っている強みがあると思います。

広告事業に関しては小売業だけではなく、現在ANAや三菱UFJ銀行も広告事業の取り組みを始めたので、これからもさまざまな業種業態で増えていくだろうなと思います。

アドインテとしては、AIBeaconとの相性も考えると、やはり小売企業を中心に絞るしかないと思ってリテールメディア事業はスタートしました。やはりID-POSデータはとても貴重なデータですし、今までデジタル広告の世界になかったターゲティングのデータなので面白いと感じました。

小売企業に絞った理由はそれ以外にもありまして「日本の広告費」に出ている広告出稿費の多い主な業種を調べると、ほとんどが飲料や化粧品といったメーカーさんです。例えば個人の資産がどれくらいあるかといったようなデータは銀行しか持っていないかもしれませんが、銀行のデータがなくとも今までも富裕層へのターゲティングができていた事実があります。

そう考えると、われわれが絞るべきお取引先はやはり小売業界だなと。そして、日本の小売市場は非常に特殊な市場で、これだけ大企業から中小企業がひしめきあっている国はほとんどありませんでした。だいたいは上位数社でその国の7割の顧客を抱えているような国も多くありますが、米国を見ていると、Walmartはアメリカで買い物をしている人の8割から9割のデータを持っているので、米国でWalmartと組めなかったらもう参入すべき市場ではないという判断になります。データ量で絶対に勝つことはできません。

しかし日本市場を調べてみると大手数社を合わせても30%ぐらいの市場シェアしかありません。

杉原:でもイオンさんもセブン-イレブンさんも広告事業に参加しているのですよね。

稲森:はい。しかし、例えばセブン-イレブンが広告事業をやりますといったとしても流通総額は4兆円なので、4兆円を超える流通総額をまとめ上げることができれば中小企業が大企業に勝つチャンスがあります。日本はとても特殊な市場なのだと思います。

杉原:やはり日本市場は特殊なのですね。

稲森:はい。やはりアジアなどいろいろな国を調べても、だいたい上位数社でほとんどその国のチェーン店がまとまっていますから。日本はこんなに特殊な小売の市場があって、地方にものすごく根付いているスーパーマーケットもたくさんありますので、生鮮食品の鮮度にこだわる日本独自の習慣もあるんでしょうね。

例えば和歌山だとオークワさんがとても強くて、他の企業が参入しづらいといったケースもたくさんあると思います。

杉原:地方のスーパーさんは強いですよね。

稲森:大変強いです。しかし逆に言うなら、地方のスーパーさんが個々に広告事業に取り組んだとしても大手企業にデータ量で劣るケースもあると思うので、ネットワーク化されればメーカーさまの活用も進むんじゃないでしょうか。日本のリテールメディアはそうしないと、逆にスケールできないかもしれません。

杉原:そうですよね。サード・パーティー・クッキー廃止でいうと来年後半がそのタイミングです。みんなそろそろまずいと思い始めていますよね。時期的にはいかがですか。

稲森:先ほどの三菱UFJ銀行さんしかりANAさんしかり、それぞれの業界のトップ企業はもう広告事業に取り組み始めています。小売企業も当然参入は増えてまして、家電量販店、ドラッグストア、スーパーマーケット、ホームセンターなど参入が相次いでますので、今年、来年にはさらに広告事業に取り組む会社が増えていくと思います。

杉原:面白いですね。広告事業だけ取っても、コミットメントするまでの過程がものすごく複雑で、やりきる力がないとできない。経営層がきちんと意思決定をしないと進まないものだとも思っているのですが、冒頭におっしゃっていたリテールメディアがDXの文脈の一つという点については非常に納得しました。

投資家の皆さんも「DXだから全社でやるものだし、広告宣伝部とかだけに閉じるものでもないし、各部門メンバーも経営層も含めた絶妙なオーケストレーションが必要だ」と思っているので。

雑談ですが、先日米国のアナリストの方と話していて、エージェンシーはこの先どのような立ち位置になるかという話題になりました。リテールメディア、Xメディアも含め、あとは新プラットフォームであるTikTokなども含めて、今また分散期にあると思っているのですよ。

分散期のときは、エージェンシーの役割は結構あって、海外大手のWPPなどはそれこそリテールメディアにものすごくビジネス機会を感じているそうで。要はリテールメディアがたくさん出てきてもメーカーさんはインハウスで全部をまかなえるわけではないので、WPPはそこを全部請け負いますというところに勝機を見いだした、という話題があったのです。

時間はかかるかもしれませんが、御社の指導の下、日本で今後たくさんのリテールメディアができてきたならば、アドインテさんもリテールメディア業界におけるWPPと同じような立ち位置にならないでしょうか。御社が全部そこのマネージドサービスを請け負えればいいのかもしれませんが、そういう構想はありますか。

稲森:はい。そうできればもちろんいいなとは思っています。

杉原:壮大な野望ですね!!

稲森:企業間のデータが連携されればさらに価値は上がると思いますが、すぐには難しい問題だと思います。しかし、それが別々のCDPに格納されたデータであったとしても、広告配信は一括してできるデジタルプラットフォームさえできれば、一括して広告出稿ができるという仕組み自体はつくれるのではないかと考えています。

杉原:先ほどおっしゃっていた、クライアントさまの核となるデータを取り扱うことになるので、守秘義務もあるし、データリテラシーも必要だし、どこにでも気軽にできる事業ではないというお話ですよね。

稲森:はい。おっしゃる通りだと思います。

杉原:アドインテさんのようにデジタルプラットフォームをしっかり構築していて、CDPもちゃんと連携できるようなところが、新しく一つのかさをかぶせるような形のインターフェースを作れたなら、メーカーさんはそこに広告出稿をすればいい、というわけですね。

稲森:そうです。そういう世界観に持っていければ良いなと将来的にですが考えてはいます。

データの合従連衡

杉原:中小企業の事業者さんについては断片的な答えをいただきましたが、あらためてデータのグルーピングについて伺います。今後は資本がある・ないにかかわらずデータの合従連衡があるというイメージですか。

稲森:はい。家電業界やドラッグストア業界はすでにM&Aがかなり進んでいます。

ドラッグストア業界もおそらく約8兆円近くの市場規模がありますが、上位4社でドラッグストア業界の半分ほどの規模をまかなっているので、流通力の高いところに流れる傾向にあると思うのですが、逆にスーパーマーケットの市場はまだまだこれから面白いと思っています。

スーパーマーケットの市場は全体で約19兆円ほどあるのですが、単体で1兆円を超える企業はないはずです。つまり、それだけ市場がばらけているということなので、売上上位のスーパーマーケットさんがリテールメディアを構築しても、売上高1000億円の会社が10社集まった方が流通総額でいったら大きなパイになるのではないか、ということです。

メーカーの営業の方は担当している大手スーパーマーケットさんを選ぶと思うのですが、マーケティング部や宣伝部の人は、チェーン名よりは、データ量の方が重要なはずです。自分たちの商品が総額いくら流通していて、どのメディアに広告配信できるかの方が重要になるだろうと思っています。それを考えると、先ほどお話ししたような地方に強いスーパーさんはとても興味深いです。

杉原:確かに、マーケティング担当者の視点だと、この商品は全国で売ってるから全国規模で広告配信できる方がいいということになりますよね。

稲森:そう思います。

杉原:実は先日、四国・中国地方を行脚していて、あるところで最近のデジタルプラットフォームをテーマに勉強会をしたのですよ。

当然リテールメディア、Xメディアをテーマにすると、参加者の方から質問がたくさん来るんです。その質問者さまの中にセンスのいい方がいて「自分たちは地場のいいものについては分かっている自負があるけれど、地場のスーパーは今後どうしていけばいいのですか」とおっしゃるので、今後は全国各地の地場のスーパーを集約していくことになると思います、という話を四国・中国地方での勉強会でしたところでした。

地場に強いところが経済から置いてきぼりになることに私も不安を感じているので、今回の稲森さんのお話で彼らも少し安心してくれるのではないかと思います。

稲森:ありがとうございます! それは良かったです。

杉原:今回、稲森さんにリテールメディアについてお話しいただく中で、地場のスーパーを集約していくような、そういう手だてがあってよかったな、と思いました。

フルファネルで広告メニューを開発する重要性とは

杉原:では、今後のアドインテさんの展望をお聞かせいただけますか。

稲森:私たちもリテールメディアと言っていますが、今までの注力領域は、ID-POSを使ったデジタル広告の配信とビーコンを使ったリアルタイムでのアプリへのプッシュ配信、デジタルサイネージなどです。

ファネルに分解すると、ブランド認知から購買リピートという流れがあり、タッチポイントのメディアもマスメディア、デジタル広告、店頭と大きく三つに分かれると思うのですが、IDが分割されているので、マスメディアに広告を出稿したとしてもその目的は、商品を想起させて店頭商品の販売促進を行うためや、何GRP獲得するので商品を並べてほしいなどといった話はいまだにあります。

デジタルと店舗で分断されていたものが、リテールメディアの台頭によって、マスからデジタル、リアル店舗と連携できるようになってきました。ただ、これもあくまでリテールメディアの一つのメニューにしかすぎません。

販促メニューを洗い出すと、やはり購買リピートのファネルによっているので、今後はファースト・パーティー・データを使っていかにブランド認知のファネルに広告メニューを展開していけるかが重要だと思っています。実際、Walmartの広告メニューも調べると、ここ数年でたくさんの広告メニューが開発されていますし、2021年にはテレビCMとの連携も始まっています。

ECサイトなどのオウンドメディアでの検索広告だったり、ECでカートに1回商品を入れた人に対するレコメンド広告や、店頭へ商品を受け取りに行く前の確認メールに広告が入っていたりもします。いつ、どこで、何を買ったかが分かるので、買い忘れなどへのレコメンドは理にかなっていると思います。オンライン・オフラインの顧客接点が広告メニュー化しているので、私はさまざまなタッチポイントを活用して、広告メニューを一緒に開発していけるかということが、今後2~3年かけてやるべきことだと思っています。

そして、その取り組みの第一歩として、3月に博報堂さんと共同でプレスリリースを出しました。テレビ視聴ログデータとの連携がようやく日本国内で始まったのです。米国Krogerが2021年にテレビ視聴ログデータとの連携が始まったようですが、日本でもマスメディアとの連携がようやく可能になってきました。

こういった広告メニューを増やしていくことで、より効果が高く、さまざまな分析と効果測定ができる新しいメディアとして捉えていただく啓発活動を今後2~3年でやっていかなくてはいけないと思っていますが、私たちは広告事業だけに閉じるつもりはありません。

せっかくCDPに蓄積したデータを広告配信だけに活用するのはあまりにももったいないので、例えば廃棄ロス、フードロスについても取り組んでいきたいと思っています。

広告事業に活用しているデータを、店舗オペレーション側でも活用してもらいたいと思っています。

廃棄ロスやフードロスへの対策を目的に、ダイナミックプライシングとか、A重量センサーなどのハードウェアも新たに開発予定になっています。

杉原:いいですね。楽しみです。ハードもつくっているというのはすごいですね。

稲森:ハードもソフトも自社開発できるのは、アドインテの本当に強みだと思います。直接、小売企業さまの課題を聞くことが多いので、課題解決のために自社開発しますよ、といえるのは強みですね。

杉原:小売店さんにとっては、広告事業だけが課題ではないですものね。

稲森:そうですね。広告事業に閉じてしまうのはもったいないですし、データ活用の一つにしかすぎないので。

スーパーに行くと50%オフのシールを貼っていたりするじゃないですか。私たちも店舗ごとのID-POSをもらえるようになったので、それを見るとものすごく廃棄が出ている商品や、売り切れるのが早い商品がよく分かります。

このようなデータをオペレーションに生かせないのは、ものすごい機会損失だと思います。とはいえ、ハードウェアであるAIカメラを店舗に数百台設置して投資対効果に見合うかというと、見合わなかったりもするという現実問題もあると思います。新たに投資できるような収益源をリテールメディアで獲得しつつ、広告収益を店舗のオペレーション改善に小売企業が投資していく経営サイクルになれば良いなと思います。

例えばですが、お惣菜売り場に重量センサーを設置するだけで、どれくらいお総菜が減っているかがリアルタイムで分かるようになります。リアルタイムに店舗状況を把握することは、今はいろいろなテクノロジーを活用すれば実現できるので、新たなサービスもどんどん開発していきたいと思います。

そもそもリテールメディアはONEtoONEに近いコミュニケーションを取れるインフラがあるので、在庫状況を把握しながら「今この商品は50%オフです」という広告配信を行うこともできますので、これが全部自動化するところまでやっていきたいと思っています。

杉原:聞いているだけでも、小売店さんに対して取り組むべき課題はたくさんありますね。

稲森:そうですね。今思い描けている範囲のことは数年で実現したいとは思っています。当然、私たち一社だけではできない部分もあるので、連携できそうな企業やサービスとは積極的に連携していきたいと考えています。

杉原:なるほど。すごいですね。ちなみに今、アドインテさんの社内でリテールメディア事業は何人くらいのチームで回していらっしゃるのですか。

稲森:現在、リテールメディアを推進しているDX推進事業部には40人ほどいます。間接的に関わっているメンバーを入れたらもっといるのですが、ほぼ専属で担当しているメンバーはその40人です。リテールメディアやDX事業部を立ち上げたときは、私たった一人でしたが(笑)。

杉原:でもその思いが大事なのですよ。1~2年で結実するようなビジネスでも、すぐ参入があったりしますしね。誰もやっていない領域を狙っていくというのは、戦略としてありだと思います。

稲森:ありがとうございます。以前から今後は絶対にリテールメディアが来るなと思っていたんですけど、ちょうどこの間GoogleとeMarketer社(※米国のマスメディアやデジタル広告の市場調査会社)の共催ウェビナーがありまして。米国では2023年にはもうデジタル広告のうち20%近くがリテールメディアになるといわれていて、2023年ってもう来年のことなので、アメリカはやっぱり早いなって思います。

杉原:そうですね。早いんですよ。これも雑談なのですが、私は、小売店さんがリテールメディアに取り組まれる際に、これまでECにかけるパワーがそこまで高くなかったという企業さまも多いと思うので、広告事業を始めたとして要は広告在庫がどうなのかということについて疑問を持っているところがあるのですよ。

なので、小売企業が保有する自社枠と、アプリ枠、サイネージ枠といった自社枠も担保しつつ、オープンのプラットフォーム、例えばGoogleなりFacebookなりにカスタムオーディエンス的な形でデータを投げて広告運用するというところもたくさんあるじゃないですか。なおかつ、こうしたところは特に私が冒頭であげたような金融業界やXメディアというところが先行して進めている印象があるので、日本の小売店さんの状況はどうなのかなと思っています。まずは自社枠ベースに考えるのですか。それとも、まずはオープンプラットフォームを活用してマネタイズをしていくイメージなのですか。

稲森:それでいうと、まず目指す優先順位が高いマネタイズ方法は後者です。Google、Facebook、LINE、YouTube、Twitter、Yahoo!など、そういった外部プラットフォームの広告枠へのデータ提供活動が基本です。ファースト・パーティー・データ、例えばメールアドレスや広告IDはあるので、それを各プラットフォームと連携して広告配信するイメージです。

ですが一方で、今私たちは先ほど申し上げたようなブランド認知から購買リピートまでファネルごとに分解して、オウンドメディアを活用した広告メニューをつくらないといけないと考えています。

ただ、小売企業が保有するオウンドメディアの中に効果測定ができる仕組みとか、検索広告の仕組みとか、クリックデータを取得できるようにするとか、まずはメディアとして活用していけるような土台を一緒につくり上げていかなといけない思っています。

メディアとしての土台を構築した上で、自社枠の広告メニューが売れるようになっていけば、小売店さんももう少し大きな収益を上げることができますし、利益ベースでもしっかり土台を確保していけるだろうと予測しています。

杉原:自社枠を自分でつくるといってもいきなりできることではないので、時間をかけつつもアドインテさんが伴走しながら一緒につくっていくということですね。

稲森:そうですね。小売企業さまだけでは難しいと思いますし、われわれも小売企業さまと組まないとつくり上げることはできません。

少しもったいないと感じるポイントは、店舗のリアルな顧客接点と、SNSやアプリなどのデジタル接点もまとめて運用することはできていないので、部署ごとに扱える資産が違うのは機会損失につながります。

販促メニューがバラバラなので、そもそもメディア特性が違いすぎるもの同士を比較対象として、売れるか売れないかを判断していることも違和感があります。

杉原:Walmart、Targetも小売の利幅が少ない分、広告事業が利益の部分で全体の売上高を引き上げてくれていると言っていて、それはそうだと思ったのですが、オープンネットワークの外部メディアにデータを投げている段階で利益が減ってしまうわけだから、早くオウンドメディアの自社枠開発に取り組んだ方がいいということですよね。

稲森:そうですね。コロナウイルスが流行したことによって人の流れが止まり、顧客とのつながりの弱さを感じた小売企業も多かったはずで、デジタル上のつながりの弱さという課題について、直近でデジタル領域を強化することによるメリットの多さを実感しているからだとも思います。

杉原:日本の小売店さんも実感をつかみ始めているのですね。

稲森:そこもやはり、良くも悪くもコロナ禍という出来事がDXやデジタライゼーションを加速させた一つの出来事だったと感じました。

杉原:それは間違いないですね。本日はありがとうございました。


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