内部リークを受けてもユーザー数増で帝国は揺るがず、ATTの影響で売上高は苦戦した一年に
2021年も大いに紙面を賑わせた Facebook(Meta社)ですが、元従業員による内部告発から社名変更までの一連の流れが最もインパクトがあったかと思います。
内部告発の内容はユーザーの信頼を失いかねないものでしたが、Faceboook ファミリー(Instagram や Messenger 、WhatsApp などを含む)の総ユーザー数は順調に増加しており、SNSの覇者としての立場が危ぶまれるような事態にならなかったどころか、逆に、存在を強固にする成長を見せました。

一方で、売上高の97.4パーセントを占める広告売上はATT(App Tracking Transparency)によるトラッキング規制により苦戦し、第3四半期の決算で前期比割れする結果となり、これは創業以来、初めてのこととなりました。

Google に次ぐ巨大広告プラットフォームとして、ソーシャルメディアの雄として、その存在感をより強固なものにした一年であったと思いますが、本稿では Facebook ファミリーの主要なアップデートをまとめています。
Unyoo.jp では取り上げていない内容も含めていますので、2021年のおさらいとして、しばしお付き合いいただければ幸いです。
目次
- Facebook から “Meta” へリブランド
- ニュースフィードのトピック除外コントロールのテスト開始
- Facebook Analytics がサンセット
- Instagram ショップの専用タブ内で広告を提供開始
- レストラン予約機能のパートナーを拡充、ヒトサラ・TableCheckと連携
- Oculus コンテンツの広告、ヘッドセット内におけるVR広告のテスト開始
- クリエイター向けの多数アップデート、収益化サポートを全面的に強化
- Instagram に近隣の人気スポットを検索できる地図検索機能を導入
- リール広告の提供開始を発表、ブランドコンテンツ広告もリールで配信へ
- アクションボタンを美容サロン予約にも拡大
1. Facebook から “Meta” へリブランド
まず、2021年で最大のニュースはなんといっても、創業以来初となる社名変更だったかと思います(exの筆者としては大変な衝撃でした)。
2021年10月28日(米国時間)に開催されたカンファレンス「Connect 2021」にて、CEOのマーク・ザッカーバーグ氏が、提供するプラットフォームとテクノロジーを全て包括した新しいカンパニーブランドとして Meta を発表しました。
「物理的な世界ではできないことも実現が可能になる、相互に接続されたデジタル空間」と定義するメタバースから由来する新社名への変更と、現在の仮想現実(VR)や拡張現実(AR)を向上させる取り組みなどについてキーノートで講演し、メタバース分野へ積極的に投資していくことを言及しました。
Connect 2021 の前月にはスマートグラス「Ray-Ban Stories」を発表していますが、メタバースの実現に向けた取り組みは、今後ますます活性化していくことでしょう。
2. ニュースフィードのトピック除外コントロールのテスト開始
2021年1月29日(米国時間)、広告主のためにニュースフィードのトピック除外コントロールのテストを開始することを発表しました。発表の中で「犯罪や悲劇などのトピックを選択し、広告の配信先から除外できるようにするソリューションをテストすることを計画している」とコメントしています。
発表の内容そのものは派手さにかけるニュースではありましたが、これまで配信先の除外は「インベントリーフィルター」の機能で Facebook インスタント記事、Facebook インストリーム、Instagram インストリーム動画、Audience Network のみでコントロール可能にしていたものを、ニュースフィードにも適用しはじめたというのは、社としての方針が垣間見れたものでした。
Facebook 広告を利用中の方はご存じのことと思いますが、ニュースフィードは配信先の中でもインプレッション比率が大きく、いわば売れ筋の配信先です。
そして、日本国内は特にその傾向が顕著ですが、ニュースフィードの広告枠は決して潤沢ではありません。Facebook における広告在庫の少なさについては過去の記事でも言及したことがありますが、広告主にとってはマストで押さえておきたい配信先である一方、目に見えて広告枠が増えるとユーザーの体験を損ねるためです。
そうした状況下で、なんとか広告在庫を増やそうと Messenger や Audience Network、WhatsApp などにも広告枠を拡げて収益化を図っているわけですが、本アップデートは逆で、売れ筋商品にある種の販売制限をかけ、ブランドセーフティを重視するという姿勢が見て取れたものでした。
※ちなみに、広告枠を拡大する取り組みの中で、もともと買収した企業(かつ広告によるマネタイズを好まない)の Instagram と WhatsApp の創業者らは辞任・退職し、そのたびちょっとした話題になっています
- WhatsApp創設者が退職へ–個人データ利用めぐり親会社Facebookと対立か | CNET Japan
- 5つの警告 ── インスタグラム創業者「辞任の挨拶」を読み解く | BUSINESS INSIDER
広告の配信先をより厳密にコントロール可能にするという動きは、2020年8月に公式ブログで「Our Commitment to Safety(安全への取り組み)」を公開しましたが、この内容に基づいた取り組みといえます。
1. Create a Safe and Welcoming Community(安全で居心地の良いコミュニティを作成する)
2. Maintain a High Quality Ecosystem(高品質のエコシステムを維持する)
3. Collaborate Proactively and Collectively with the Industry(業界と積極的かつ集合的に協力する)
3. Facebook Analytics がサンセット
2015年に「Facebook Analytics for Apps」という名称でローンチされた、無料の解析ツール(2017年に Facebook Analytics へリネーム)が、2021年6月30日をもって提供終了となりました。
ローンチのプロセス(当初は名前の通りアプリのみ対応、後にウェブサイトもサポート)から、国内でも利用する事業主は限定的だったかと思いますが、およそ6年の歴史に幕を下ろしました。
他の解析ツールと異なり、ローンチ当初から「人」をベースにした分析を基本とする当時ではユニークな仕様で、ユーザーの属性や行動などを分析することが可能であり、特定の条件に合致するオーディエンス郡をカスタムオーディエンスとして生成し、広告アカウントへそのままエクスポート、といった機能も備わっていましたので、Facebook 広告の重要性が高い広告主の中にはコアなユーザーもいたことと思います。
また、IDベースのトラッキングならではの機能として、Webサイト、アプリ、Facebook ページ、オフラインイベントなどチャネルを横断した計測も可能で、ユーザーのカスタマージャーニー全体を把握したり、インサイトを得ることができました(Facebook プロパティ以外のトラフィックソースが多いと使い勝手としては微妙でしたが)。

サンセット後は Facebookページ / Instagram インサイトに加え、Facebook Business Suite、広告マネージャ、イベントマネージャを代替ツールとして推奨しています。
上記ヘルプページでは提供終了の理由として「ビジネスツールの整理統合に向けた取り組みの一環です」とのコメントがありますが、ATT(App Tracking Transparency)によってこれまで100パーセントに近かった計測精度は維持できなくなっていました。
データの虫食いが増え「人」にフォーカスを当てた分析が不可能になったことにより、ツールのアイデンティティが保てず、存在意義が薄れたことは少なからず影響したのではないかと思います。
4. Instagram ショップの専用タブ内で広告を提供開始
2021年8月24日(米国時間)「Instagram ショップ」の専用タブ内で広告の提供を開始したことが発表されました。
アップデート以前の Instagram における広告の配信先は、フィード、発見タブ、ストーリーズ、IGTV、リール の四つでしたが、Instagram ショップの専用タブが利用可能な全ての国(日本を含む)でアップデートが適用されています。

Instagram ショップは2020年7月に発見タブ内の機能としてローンチし、同年11月にアプリ画面のデザインを一部変更した際、専用タブ(アプリ下部に表示されるショッピングバックアイコン)が導入されました。
ユーザーの興味関心に合わせた投稿やブランドが表示されるほか、ショッピングをテーマにした Instagram による公式アカウント「@shop」のエディターがおすすめする商品も紹介するなど「アプリの中でウィンドーショッピングのような体験を楽しめる場所」として提供されています。
2019年の前半あたりから Instagram は純粋な SNS の枠を超え、ショッピング投稿やオンラインストア機能、アプリ内決済を実装するなど、すでにコマースプラットフォームとしても利用されていますし「この前見たあの◯◯を買おう」といったモチベーションで Instagram アプリを訪れるユーザーも一定数存在します。
そういったユーザーのマイクロモーメントを捉える方法として、Instagram ショップの専用タブ内への広告配信は大きなポテンシャルを秘めたアップデートかと思います。
次ページ:「5. レストラン予約機能のパートナーを拡充、ヒトサラ・TableCheckと連携」