2020年は「Google アナリティクス 4(以下:GA4) プロパティ」が発表されたり、Google アナリティクス のヘルプ コミュニティが試験的に復活したりなど、Google アナリティクスまわりで大きな変化のあった年でした。そこで、現Google アナリティクス コミュニティ シルバー プロダクト エキスパートである、株式会社プリンシプルの木田さん、山田さん、Rayさん、株式会社JADEの村山さんに、アタラの大友がこれまでのGoogle アナリティクスの変遷から、GA4 プロパティの実情、今後どのように変わっていくのかまでを伺いました。本記事は後編です。
※前編はこちら
座談参加者
株式会社プリンシプル
取締役副社長 木田和廣さん(シルバー プロダクト エキスパート)
チーフテクノロジーマネージャー 山田良太さん(シルバー プロダクト エキスパート)
Google アナリティクススペシャリスト Rayさん(シルバー プロダクト エキスパート)
株式会社JADE
コンサルタント 村山佑介さん(シルバー プロダクト エキスパート)
アタラ合同会社
コンサルタント 大友直人
目次
Google アナリティクス コミュニティの廃止と復活
大友:2020年のもう一つの話題としては、数年前に突然廃止されたGoogle アナリティクス コミュニティの、突然の復活がありましたね。
※参考リンク:
山田:廃止されたのは 2019年4月ごろでした。そのタイミングでGoogle 広告やマイビジネスのコミュニティが今までのプラットフォームから、Google ヘルプページに統合移行されました。
大友:これまでGoogle アナリティクス コミュニティに質問していた方々が、廃止に際して広告カテゴリーにて質問しはじめたのですよね。
Ray:同じ広告主コミュニティで展開されていた、広告とマイビジネスのコミュニティそれぞれに、アナリティクスの質問が投稿されるようになりましたね。広告とマイビジネスのコミュニティエキスパートの方々が、その都度注意を促してもアナリティクス関連の投稿は減らないですし、唯一残された英語版のアナリティクス コミュニティに投稿されるケースも非常に少なかったように思います。コミュニティ外だと、個人のSNSのDMに質問が送られるようにもなりました。
山田:復活したのはやはり、GA4 プロパティの登場が大きいと思います。
村山:最近は、その質問ばかりですね。
大友:コミュニティの質問も多そうですが、GA4 プロパティはマイナーアップデートが多く、ユーザーが追いつけていない印象があるのですが、皆さんはどのようにして情報を集めているのでしょうか。
村山:私たちもアップデートについていけないときがありますね(笑)
山田:まだまだ開発途上すぎて必死についていっても結果、無駄になってしまう部分はあるかもしれません。クロスドメイン設定や内部トラフィックの除外など最近になって出てきたものもあるなど、今後もどんどん変化していきそうですね。今のところ、実際に使う頻度を増やすようにして、その中で気になったところを調べたり試したりするという状況です。
木田:公式ドキュメントもまだ充分に揃っていないこと、またレポートのUIも今後変わると思うので、今は見守る段階だと思っています。
今後、Google アナリティクスはどこへ向かうのか。10年後の未来は?
大友:本日の座談会で皆さんに伺いたいことの一つに、GA4 プロパティが今後どのように進化するか、ということがあります。例えば来年や10年後、Google アナリティクスはどのように変化していると思われますか。
木田:中長期的にはプライバシーを守る流れが大きくありますよね。技術だけであればどこまででもデータは取得できますが、例えば検索キーワードを渡さなくしたり、特定ユーザーのデータをリクエストに応じて消せるようにしたりなど、世界的なプライバシー保護の流れはやはりGoogleも尊重せざるを得ない感じだと思います。もう一つ、やはり機械学習は進むのだろうと思います。
皆さん、今はどちらかというと懐疑的ですが「全体の1%の開発が完了したら、残りの99%を開発するのに、1%を開発するのにかかった時間の99倍はかからない」という議論があります。つまり、使える度合いが指数関数的に上がっていく可能性は大いにあるということです。
例えば2025年には「機械学習使えるよね」とか「うちのサイトに決定的な問題があれば、人間が先に気が付くよりもGoogle アナリティクスが教えてくれるよね」という世界になっていてもおかしくないと思います。Google アナリティクスがアドバイスまで出せるような世界です。
山田:2025年にもなれば、おそらくGA4 プロパティがかなり普及して機械学習も回ってくるだろうという気がします。ただ、10年後を考えるとその頃にはGoogle アナリティクス5が出ているのではないかという気もしています(笑)
大友:Google アナリティクス5はどのような世界か気になります(笑)
山田:Google マーケティング プラットフォームまわりで一つ足りていないと思うのが、マーケティングオートメーション(MA)機能だと思います。Google マーケティング プラットフォームにマーケティングオートメーションの機能が追加され、プッシュ通知やDMを送ったりなど、ウェブやメール以外のさまざまなアクションを行えるような未来を想像しています。
木田:面白いですね。それが機械学習につながって最適なタイミングでアクションできてしまうような。すごく怖く面白いです。
Ray:確かにGoogle アナリティクス 360とSalesforce Marketing Cloudが連携でき、現状はMAだけ外部ツールを使う流れなので、今後、何かしらの開発をして人が直接的に分析することはなくなり、自動で改善ポイントや数値アラートなどを出すような仕組みになっていくのではないかと私も想像しています。
そのため、解析業務に関わる人の需要は今後減り、逆に機械学習を円滑に遂行するための設計に関わる人材の需要が高まるのではないでしょうか。今後は、今とは異なるポジションを中心にデータ解析の世界が回るのだと思います。
村山:短期、中期的にはユニバーサル アナリティクスで使えるようなメニューをGA4 プロパティにも導入するというのは、当然Googleも目指していると思いますし、中期的にはそれをGoogle BigQueryに与えたときに出力先のBIとしてTableauやGoogle データポータル、Google データポータルはダッシュボードの定点観測の側面が強過ぎるので、深掘りした分析をするためにLookerなどを使うということになっていくと思います。
ただしBIを使って分析をするときには、SQLなどの知識が必要になります。そうすると、分析目的のユーザーのパイを広げられなくなるのでで、SQLを使わなくてもデータを取り出すことができるような方法が出てくると思います。
大友:「分析」が自動化されていくのでしょうか。
村山:個人的には、あまり自動化に対してポジティブな感情はありません。なぜなら過去にも「インテリジェンス」という機能が出たにも関わらず、なかなかそのアウトプットが改善されていないからです。また、ここ一年いろいろなサイトを高頻度で分析したところ、ウェブサイトでもアプリでもコンテンツがないと、そもそもデータが溜まらず分析ができないと強く感じました。
機械学習はデータのボリュームが必要になりますが、例えば一、二回しか見られていないコンテンツでもコンバージョンにはすごく寄与している場合もあります。そのため、コンテンツを考えたり、ボリュームは少ないけれど重要なコンテンツを探り当てる分析をしたりという業務はまだまだなくならず、人の脳が考えていくべきところだと思っています。
アップデートの激しい今、求められるのはスキルではなくマインドセット
大友:最後になりますが、Google アナリティクスに精通されている皆さんが、どのような人材を求めているか気になります。
今後、Google アナリティクスにとっても「機械学習」が一つのポイントになりますが、その一方で「考える」部分は人間が行わなければいけないという点では皆さんも同じ考えだと思います。そういった環境の中で、どのような人材が今後求められていくのでしょうか。
木田:この業界は流れが早いので、Google アナリティクスに詳しいといった具体的な固有スキルというよりも、例えば漠然とした課題を具体化し、解決策を見いだせる仮説構築力といったような、学習能力の高い人が求められるのではないでしょうか。我々の採用要件としても、ブルドーザーのようにダイナミックに学習していける人を求めています。強いてスキルに関して言えば、SQLを書けるというのは強力なスキルだと思います。山田さんの書くSQLはとても勉強になります。
村山:弊社も採用は続けていますが、求められている人材を具体化するのは難しく、やはり抽象度が高くなってしまいますね。例えば素直であったり、誠実であったりすることは重要だと思います。データに対して自分自身の考えを押し付けず、仮説が間違っていたとしてもそれを素直に受け入れられる、そういったマインドセットが大事だと思います。
山田:私の考えでは、なんらかのことを深くやり込んだことのある人は、領域が変わっても同じようにやり込むことができると思います。また、抽象的に考えることと具体的に考えることを往復できる人は大きく伸びると思っています。
例えば、Google アナリティクスで複雑なアドバンス セグメントを作るときを考えると分かりやすいです。抽象的な視点でしか考えていない場合、さまざまなユーザー行動パターンを網羅することができず、いざアドバンス セグメントを作成したとしても、思っていた通りのデータが抽出できないことがほとんどです。前半で村山さんが「セグメント作成は結構間違いが多い」と言っていたことにもつながります。
また、具体例だけで考えていき、それを抽象化することができないと、どのような条件のアドバンス セグメントを作ればよいか分からず、手が進められなくなります。これは、アドバンス セグメントを作成するとき以外でも同じことがいえると思っており、どちらか一辺倒ではなく、うまく交互に考える力が求められるのではないでしょうか。
Ray:この業界で一緒に働くという目線で考えると、本日の話でも出てきたような直近のアップデートなどを、他責ではなく自責で、当事者意識を持って能動的に情報収集できる力、トライアンドエラーを繰り返してでも何かを作り出す意欲のある人が向いているのではないかと思います。マーケティング自体、非常に変化が早い分野のためアンテナは常に張る必要がありますし、自分自身で試行錯誤しながら高めていく努力が問われます。
大友:今回の座談会では、Google アナリティクスを主軸に2020年以前と今年、そしてこれからについて伺いました。アップデートも激しく、なかなか先の読みづらい状況に不安を覚える読者の方もいらっしゃるのではないでしょうか。ここで最後に、Unyoo.jpの読者に向けて、メッセージをいただけますか。
木田:Unyoo.jpの読者さんは、広い意味での同僚だと思っています。ここにいるメンバーは、これまでGoogle アナリティクスに深く触れてきましたが、GA4 プロパティも出てきてデータ粒度も細かくなり、どういったものが計測しやすいのか、ベストプラクティスは何なのかが流動的になっていると思います。なので同僚の皆さんも頭角を現していただくチャンスはたくさんあると思います。この記事が、その刺激になると嬉しいです。
山田:広告プラットフォームは細かな機能のアップデートがたくさん行われているものの、プラットフォームそのものが大きく変わることはこの数年なかったのではないでしょうか。一方でGoogle アナリティクスは今変革の時期に差しかかっています。もしかしたら、この先、広告側でも大きな変更があるかもしれません。
Unyoo.jpの読者の方は広告運用者が多いと思いますが、広告だけでなくその周辺のプラットフォームがどう変化しているかを見るのは、今後の流れを追う上でも重要だと思います。
Ray:今回ここで話題にしたアップデートのみならず、Google アナリティクスのアップデートは他プロダクトへ大きく影響を与えるケースが多いです。そのため、GA4 プロパティは今後Google 広告やA/BテストツールのGoogle オプティマイズなど、別の分野にも徐々に影響が波及していくと思います。
影響が及ぶことにより、Googleがさまざまなアップデートを行ったとしても、実際どのように実装や運用を行えばよいのかという点に関しては、ここにいるメンバーだけでは絶対に情報量が足りないと思うのです。Unyoo.jpの読者さんは広告を得意とされている方が多く、領域は異なりますが重なる部分も多くあります。ですので、皆さんといろいろと研究しながら情報共有し、より使いやすいものにユーザー自らしていけたらいいなと考えています。
村山:広告運用者の方でGoogle アナリティクスを使う方も多いと思うので、ぜひGoogle アナリティクスを使って広告を最適化していただければと思います。また、広告にもヘルプ コミュニティは存在するので、ぜひ回答していただいて活性化させてください。Google アナリティクスのコミュニティも試験版とはいえ復活したので、こちらもぜひ回答してもらえると助かります。
ここにいるメンバーも最初から知識があったわけではなくて、前述のコミュニティに書かれた質問を見て、自分で調べたり、検証して回答したり、自分で学習したりといったサイクルを経て知見を広めています。今後、世の中的にも自身をブランディングしていくことを考えたときに、ヘルプ コミュニティでの回答や、そのときに得た知見をブログなどで共有することで、どんどんプロダクトを支える、ひいては自分に返ってくるというよいサイクルを回せると、インターネット全体がよくなっていくと思っています。
大友:皆さんそれぞれのご意見が伺えて、とても興味深かったです。本日はどうもありがとうございました!