【連載】アナリティクス賢者訪問 第4回:柳井隆道さん(Option合同会社)「私にとって分析とは、ビジネス強化の材料の一つ」 

アナリティクスに携わる人は多くいますが、それぞれに分析に対する考え方や思いは異なるもの。同連載は、アタラ合同会社コンサルタントの大友が、アナリティクス業界を牽引する著名な方々のもとを訪れ、それぞれの分析に対する考えや、魅力に感じる部分などをお聞きしています。第3回は渋谷泰一郎さん(株式会社ナンバー)にお話を伺いました。

アナリティクスに携わる人は多くいますが、それぞれに分析に対する考え方や思いは異なるもの。同連載は、アタラ合同会社コンサルタントの大友が、アナリティクス業界を...





第4回となる今回は、マーケティングテクノロジストとしてご活躍されている柳井隆道(Option合同会社)さんにお話を伺います。

話し手
Option合同会社
マーケティングテクノロジスト
柳井隆道さん



聞き手
アタラ合同会社
コンサルタント 大友直人


目次

・よりデータやテクノロジーを駆使できる環境を求めての独立
・ユーザーエクスプローラとマルチチャネル機能の衝撃
・分析する上でもっとも重要な手法、決定木分析
・媒体に依存するのではなく、自身でなんとかする力を身につける
・今後、Google アナリティクスはよりアプリ分野寄りになるのでは
・分析とは、ビジネスを強化する材料の一つ



よりデータやテクノロジーを駆使できる環境を求めての独立



大友:この連載は株式会社プリンシプルのRayさんから始まり、第2回は株式会社クロス・フュージョンの衣袋さん、第3回は株式会社ナンバーの渋谷さんにご登場いただきました。本対談の趣旨は毎回同じであるものの、皆さまがお話しされる内容はそれぞれ全く異なるため、私としても今回、柳井さんにお話を伺えることを楽しみにしています。柳井さんの場合、どのような形で分析業務に携わられているのでしょうか。

柳井:衣袋さんや渋谷さんはまさにGoogle アナリティクスの方ですし、Rayさんは分析だけでなく、その手前の部分にも携わられていらっしゃいますが、私は業界では異端な方だと思っていて、実は最近Google アナリティクスをあまり意識していないんです。どちらかと言うとGoogle アナリティクス 360のBigQueryを使うことの方が今は断然多いですね。

大友:柳井さんのこれまでのご経歴についても教えていただけますか。

柳井:学生時代から統計を勉強していて、データ分析のプロジェクトを行っていました。私が就職した2005年頃はデータ分析がメジャーではなく、ちょうど「これからはウェブの時代だ」という感じだったので、データと言うよりはよりウェブ、よりウェブサービス、よりマーケティング寄りに最初の会社を選びました。入社して1年経った頃、実は一回独立したんです。

大友:そうでしたか。

柳井:大学時代から業務委託で仕事をしていたのですが、独立後は知り合いと一緒にコスプレの衣装を売ったり、システム開発をしたりしていました。そんな折2011年に東日本大震災が起きたため、ちゃんと就職した方がいいと思いウェブサービスの会社に就職し、マーケティング業務に携わっていました。

ウェブマーケティング全般なので、Google アナリティクスや広告周り、SEOもやっていましたが、2011年頃もまだデータの時代ではなくて、DMPという言葉もありませんでした。その後、転職してクライアントワーク側となる、広告を売る会社に一時期いました。


大友:2011年の転職の前後で業務内容は変わりましたか。

柳井:変わりました。2011年以前はどちらかと言うと、新しくサービスを作る、企画をする側でした。それが再就職してからは、既存の事業をどうマーケティングで強化していくかを考えるようになりました。その後もいくつかの転職を経て、再び独立したのが2014年でした。

大友:2014年に独立されたきっかけは何ですか。

柳井:個人でもできそうな仕事の話をいただいたことを機に独立を決意しました。もともといた会社がウェブ系の広告代理店で、広告の運用を結構ゴリゴリやっていたのですが、それだけじゃ面白くなくて。よりデータやテクノロジーを駆使できる仕事がしたいという思いがありました。

大友:データやテクノロジーを駆使して分析を行うというのは、現在名刺にも明記されている「マーケティングテクノロジスト」という職種名がしっくりきますね。

柳井:まさにそうなんです。日本だとあまり聞きませんが、海外ではそういう職種があります。データサイエンティストと名乗るのとは、また少し違うのかなと思っていて。

大友:ご自身の業務領域に合う職種名は「マーケティングテクノロジスト」だと思われたのは、いつ頃からでしょうか。

柳井:仕事をする中でだんだん固まってきたというのもありますし、世の中の流れとしては2014年頃からではないでしょうか。広告やSEOもテクノロジーなので、2014年以前も必要なところはやっていましたが、2014年頃からみんながデータ、データと言うようになったと記憶しています。「それならば、データ周りを深掘ってみるか」と思いました。



ユーザーエクスプローラとマルチチャネル機能の衝撃


大友:アクセス解析ツール自体に初めて触れられたのはいつ頃ですか。

柳井:2005~2006年頃で、Google アナリティクスの前身であるUrchinの時代からです。それ以前も形式的にログ処理をすることはありましたが、ログとして見ているわけではありませんでした。ウェブのトラフィックとしてログをまともに見るようになったのは、その頃からです。

大友:Google アナリティクスとしてローンチされて以来15年間、様々な変遷がありましたが、柳井さんの中で衝撃的だったことはありますか。

柳井:徐々に変化しているため、特定の機能に関するインパクトはあまり感じられていないかもしれませんが、ユーザーエクスプローラやマルチチャネル化は衝撃的でした。1つのセッションで購買行動が終わるはずがないので、この2つの機能は従来のセッション分析を超える突破口になったわけです。

大友:ユーザーエクスプローラは確か4年程前でしたね。当初は、誰もが衝撃を受けた機能だと思います。最近だとITPや、「アプリ + ウェブ プロパティ」が出てきたりして状況が大きく変わりそうです。

柳井:データ上においても、セッションで区切る意味が乏しくなってきていると思います。セッション数から何かを見る精度はすごく悪くなってきており、それならば例えば、初回接触からの日数や時間で見たほうが変数としての威力が違いますね。

大友:そうですよね。

柳井:今後、どういう風にデータとして取得できるようになるのかというと、PVもあるとは思いますが、本当に見ていた時間というのも大事です。そのため、例えばページ離脱の際に、離脱トリガーで計測パケットを送るなどの工夫を最近は試みています。そうすると、サイトを離脱したときの滞在時間も分かりますし、どれだけの時間そのサイトを見ていたか、アプリの画面を見ていたか、そういった一番取りたいデータを取得できるようになります。

大友:「本当に見ていた時間」ですね。Google アナリティクスの基本的な集計仕様を知らずに様々な指標を見てしまうと、数字に振り回されることも多いと思います。

柳井:数字の定義と意味を考えないといけないですね。Google アナリティクスは滞在時間や1ページ当たりの閲覧時間もそうですし、目的の変数に何が一番相関するか、何が貢献しているのかを分析するのがいいと思います。それさえ分かれば、あとは例えばコンバージョンするに至るまでの心の動きを反映する新しい指標を作ればいいわけです。

Google アナリティクスであれば、デフォルト画面の数字の意味はどんどん乏しくなっており、きちんと分析している人はデフォルト画面の数字をどんどん見なくなっていて、逆にセグメントをたくさん作ってセグメントのサイズをひたすらカウントするようになります。



分析する上でもっとも重要な手法、決定木分析


大友:最近、コラムでも書かれていた決定木分析について非常に興味深かったので、概要を教えていただけませんか。

柳井:ちょっと難しいのですが、例えば、ウェブサイトでのコンバージョンがあるとしたら、まずはコンバージョンしやすいセグメントと、コンバージョンしにくいセグメントを、最も効率的に、インパクトの差が一番大きくなるように分けるためのアイデアが決定木分析です。

※参考リンク:




私のコラムで挙げた例は本当にごく一部を抽出しただけで、これならば人間が手集計できますが、現実には変数がたくさんあります。変数が多数あり、人間の手には負えない際にコンピュータが自動で実施してくれる、データマイニングの手法です。

大友:流入が少なくコンバージョン率が高いページと、コンバージョン率が低いけれど流入は多いページを見比べた際に、どちらの方がビジネスにインパクトがあるのかは、よく悩むケースではないでしょうか。



柳井:決定木分析を使えば、誰もが悩むそういったポイントを解決できます。ただ、ウェブ解析をしている人たちの間では、この手法はほとんど知られていないと思います。

しかし決定木分析は、構造化された(行と列がある)データの分析や予測向けとしてはとても重要な手法であり、より高度な機械学習を使った予測の代表的な手法はこの延長にあります。ディープラーニングはデータ分析のために使うのではなく、例えば画像の識別や音声認識、翻訳などで利用するものであり、データ分析や予測のためのものではないというのが主流の見方です。

大友:決定木分析は、基本的にはセグメントをいくつか作り、それをツリー状に分けて、どこに一番インパクトがあるのかを見ていくという分析手法だと認識しています。



画像提供:柳井さん


柳井:そうですね。上の画像のようにどんどん分岐していき、濃いセグメント、薄いセグメントができてきます。

大友:分析をする際にセグメントとよく言われますが、決定木分析に強く言及される方はそこまでいないのでしょうか。

柳井:同手法はウェブ以外にも広告の分析でも使えます。こういう手法を知っておくだけで出せるアウトプットのクオリティーが変わってくるので、知っておいた方が便利じゃないですか。




媒体に依存するのではなく、自身でなんとかする力を身につける


大友: AppleのITPについても伺います。2019年9月よりITP2.3へのアップデートが発表されましたが柳井さんが実務で苦労されることはありますか。

柳井:苦労はします(笑)。正直対策をしないサイトがほとんどだと思います。やったつもりになっているだけのところも実は多いと思います。リマーケティングタグなどの発火順番のコントロールなどが必要なのですが、1つの媒体だけならタイミングのコントロールもできますが、媒体が複数あると、全部やるのは難易度が上がりますし、複数のタグマネージャーを併用しているケースでは現実的ではないです。Appleが公式に発表していることと実際の挙動に違いがあると感じることも多いですね。

大友:私たちが寄り添っていくしかないのでしょうか。

柳井:寄り添うか、あえてケンカするか…。方針は決めておいた方がいいです。ビジネスにも依存するのでどちらもありだとは思います。コンバージョンという概念そのものが無くなればいいのかなという気もします(笑)。

大友:柳井さんはITP・Cookieについての記事も執筆されています。

※参考リンク:

ITPの仕様 次々と新しいバージョンがリリースされるITP。微妙にアップデートされ、仕様がわかりにくくなっているので現時点で最新のものを解説する。 ITPの目的と概要 ...




「技術編」の記事では、以下のように執筆されており、まさにその通りだと感じますが、柳井さんのお考えを改めて伺えますか。

現時点ではChromeではこれらの機能を使うことができますが、いずれできなくなります。


デジタルマーケティングにおいてこれらへの依存から脱却する必要があるのです。新規事業でもこれらにかかわるサービス(デジタルマーケティング支援ツール)を提供するのもNGでしょう。


インターネット広告ではオーディエンスターゲティングができなくなるので、それ以外のターゲティング、配信面を指定するものやページのコンテキストを指定したターゲティングの力が強まる。またブラウザに頼らない、アプリへの誘導が増加すると考えられます。


柳井:ITP2.1くらいまでは媒体の対応を待てばいいと思っていたのですが、ITP2.3になった今、自前で対応が必要なものに関しては、媒体には頼れないということを理解してもらいたいですね。理由として、1つ目に媒体が対応しないこと、2つ目に媒体間で巻き添えを食らうパターンが挙げられます。

例えばgclidの付いた流入Cookieが、他のCookieを巻き込んで全て有効期限が1日になることがあります。それは、Googleの対応の問題ではないですよね。

大友:お互いが巻き込み合っている。

柳井:ええ。だから今何が起こっているのかを正しく把握して、諦めるか、立ち向かうかを意思決定すべきです。今までの流れ通りに数字を見るのではなく、諦めるのもアリですが、見て見ぬふりはやめた方がいいと思います。



今後、Google アナリティクスはよりアプリ分野寄りになるのでは


大友:柳井さんがマーケティングテクノロジストとしてお仕事をされてきた中で、面白いと感じる瞬間はどんなときなのでしょうか。

柳井:例えば前述した決定木分析にしても、これを使うとよりよい世界が見えるんだろうな、と感じた瞬間など「こんなことができるようになるんだ」とこれまで見えなかった視点に出会う瞬間が好きです。

大友:新しい手法を試すときなどでしょうか。

柳井:そうですね。ちょっとハッカーに近いところがあるのかもしれませんが、チート探しの感覚で新しい方法を見つけたら試したくなります。

大友:反対に、Google アナリティクスやAdobe Analyticsを使われる上で、やりにくい、難しいと感じられたことはありますか。

柳井:ツールに必要以上に期待はしないので特にありません。どんなツールも、設計思想を理解して使うことが大事であり、そのツールが得意な仕事をちゃんとこなしてくれればOK。そう考えると、ツールに対する変な期待はなくなります。

私はいろんなツールを併用して使っており、海外のツールはAPIが充実しているので、APIを直接呼び出してデータを集めたりしています。

大友:今後5年、10年でアクセス解析ツールは変わると思いますか。

柳井:これまでよりアプリ寄りに変わると思います。Google アナリティクスでいうと、従来のウェブの、セッション単位分析が急になくなることはないと思いますが、「アプリ + ウェブ プロパティ」ではページビューもスクロールも動画再生も1つのイベントであり、Googleはそちらへのシフトをより進めていくのではないでしょうか。

大友:確かに「アプリ + ウェブ プロパティ」はまだまだ発展途上だと思います。

柳井:最初からBigQueryを使って分析することを前提にシステムを組んでいるのではないでしょうか。例えば「アプリ + ウェブ プロパティ」がBigQueryに吐き出せることを知っている人はどのくらいいるのかな。

大友:どうなんでしょうか。

柳井:Google アナリティクスの「アプリ + ウェブ プロパティ」では、微々たる従量課金でBigQueryにログデータが入る機能があります。これはAndroidのダミーアプリを作る必要があります。

※方法についての参考リンク:

Googleアナリティクスのapp+webプロパティがリリースされ、実はサイト訪問の行動ログをBigQueryに出力できるようになった。 app+webプロパティそのものの説明 これまで...


大友:「アプリ + ウェブ プロパティ」でBigQueryを使用してほしいというGoogle側の意思表示でしょうか。

柳井:そうですね。だから、徐々「アプリ + ウェブ プロパティ」のほうに移行していくのではないでしょうか。

大友:今後は「アプリ + ウェブ プロパティ」を使う人も増えるでしょうし、機能も充実していくと思いますが、最終的にはアウトプットできるものも変わってくるのでしょうか。

柳井:そうですね。「今月は何PV」といった単純なページビューなどの指標が、場合によっては今後減っていく可能性もありますね。そもそもPV数は、無限スクロールのウェブサイトなどでは意味がない数字ですし、シングル・ページ・アプリケーションなどウェブもアプリ化してきていますよね。





分析とは、ビジネスを強化する材料の一つ

大友:これまでさまざまな角度からデータや分析についてのお考えを伺ってきましたが、最後に柳井さんにとって「データ」とは、「分析」とはどういった存在かをお聞かせください。

柳井:効果的に使ってビジネスを強化していく材料の一つですね。データや分析がなくても、正解を見つけられるのであればそれでいいと思います。ただ、ある程度規模の大きな企業になると、データがないと皆を説得できないこともあります。データや分析に対する極端なこだわりはありませんが、当面は一番合理的な意思決定方法になるので、私自身も取り組んでいきたいと思っています。

人間が分析しない、分析の自動化の流れは今後ある程度出てくるので、アナリストとしてはその分野にも対応しながら業務分野を拡大させていきたいですね。

大友:ちなみに、同連載は今回インタビューさせていただいた方に「分析についての考えを聞いてみたい!」と思う方を教えていただき、私がインタビューに伺うという、リレー形式の連載になります。柳井さんが、分析について聞いてみたい方はどなたでしょうか。

柳井:佐野玄(はじめ)さんです。同業の飲み会で知り合い、以下のオープンソースプロジェクトなどでの交流があります。自身で「Ingestly」というウェブ解析ツールを作っていらっしゃって、既存のツールを使うだけではなく、自身で作るという視点が斬新です。このオープンソースに限らず、データとの付き合い方では新しい視点をもらえるはずです。

大友:本日は貴重なお話をありがとうございました!




※バックナンバー:

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