【連載】アナリティクス賢者訪問 第3回:渋谷泰一郎さん(株式会社ナンバー) 「私にとって分析とは、データを観察し隠れたヒントを探し出すこと」

アナリティクスに携わる人は多くいますが、それぞれに分析に対する考え方や思いは異なるもの。同連載は、アタラ合同会社コンサルタントの大友が、アナリティクス業界を牽引する著名な方々のもとを訪れ、それぞれの分析に対する考えや、魅力に感じる部分などをお聞きしています。第2回は衣袋宏美さん(株式会社クロス・フュージョン)にお話を伺いました。

アナリティクスに携わる人は多くいますが、それぞれに分析に対する考え方や思いは異なるもの。同連載は、アタラ合同会社コンサルタントの大友が、アナリティクス業界を...

アナリティクスに携わる人は多くいますが、それぞれに分析に対する考え方や思いは異なるもの。同連載は、アタラ合同会社コンサルタントの大友が、アナリティクス業界を...





第3回となる今回は、渋谷泰一郎さん(株式会社ナンバー)にお話を伺いました。

話し手
株式会社ナンバー
代表取締役 渋谷泰一郎さん

聞き手
アタラ合同会社
コンサルタント 大友直人



コンテンツ制作からスタートしたキャリア


大友:まずは、企業概要と渋谷さんのご経歴を伺えますか。

渋谷:私は大学卒業後、広告会社の代理店で紙媒体やWebコンテンツの制作からキャリアがスタートし、その後、ポータルサイトでニュース事業部のWebディレクターとして2年間在籍しました。そこではポータルサイトのPVを上げるための施策を考えることが多かったのですが、その時はSite Catalyst(現Adobe Analytics)を使用していました。アクセス解析ツールに触れたのは、その頃が初めてです。その後は広告代理店のグループ会社で全体のマーケティングプランも考えつつ、ウェブアナリストとしてデータ解析も兼任するようになりました。

大友:制作からキャリアがスタートしたのですね。

渋谷:はい、そうです。制作・ディレクション業務から、デジタルマーケティングの領域を広く浅く経験しつつ、ウェブアナリストを担当してきました。このバックグラウンドから、分析前後で施策関連の話をする際、デザイナー、エンジニア、担当者、責任者といった方々とスムーズに会話することができるため、通訳者として重宝していただくことが多々あります。広告代理店のグループ会社に数年在籍後、独立しました。


大友:独立時のエピソードについてお聞かせください。

渋谷:独立前に、当時、すでにアクセス解析業で独立されていた大先輩「運営堂」の森野誠之さんに相談しましたが、森野さんからは「儲からないからやめた方が良いよ」と。「もう会社辞めちゃいました」と伝えたら「ああ、もう終わったな」と(笑)。

大友:辛辣ですね(笑)。

渋谷:そう、でもそれぐらいの覚悟でやれよってことですよね。ですので、本連載で前回登場した衣袋さんもですが、森野さんも私のキャリアの中で大切な恩師の1人です。

大友:現在は「アナリティクス ディレクター」ということですが、具体的にはどのような業務をされているのでしょうか。

渋谷:もちろんアクセス解析も担当していますが、業務全体における比率としては少しずつ下がっていて、データ分析基盤の構築やダッシュボード作成のお手伝いをすることが増えています。さまざまなデータをGoogleスプレッドシートやBigQueryに格納し、データポータルやTableauにてクライアントと一緒に数値を確認しながら、事業収益を上げるためのコンサルティングを行っています。最近は「アナリティクス顧問」として、クライアント内の現場チームと伴走していくスタイルも多いですね。


余談ですが、「アナリティクス ディレクター」という肩書について。業務が分析そのものだけでなく、分析に関わること全てになるため、分析周りの責任者という意味で付けています。クリエイティブであれば「クリエイティブ ディレクター」、技術的なパートであれば「テクニカル ディレクター」という肩書がありますが、アナリティクスはそういったものが無かったため自分で作りました。

大友:渋谷さんのこれまでのご経歴からすると、支援できる幅が広そうに見受けられます。

渋谷:そうですね、自分自身アナリティクス以外は広く浅くですが、SEOならこの人、広告ならこの人というように、各方面に強力なパートナーがいるので、実務周りでお手伝いできる幅は広いと思います。


私は「アナリティクス ディレクター」として業務を担当しますが、前回の連載記事で衣袋さんもおっしゃっていたように、Google アナリティクスであれば指標の定義を理解しないままカスタムレポートを作ったり、データポータルに接続したりする方がよくいらっしゃいます。そのため、コンサルティングをする際には、まずGoogle アナリティクスの設定や実装状況を確認する作業=そのデータって本当に正しいの?必要なデータは取得できている?この指標の定義はこうこうこうで、というところからやらせていただくことが多いです。






謎解きのように分析する


大友:渋谷さんが現在担当されている業務で魅力に感じるところ、面白いなと感じるところはありますか。

渋谷:小さい頃からクイズやなぞなぞの謎解き系が大好きで、問題を解いてスッキリすることが好きだったので、今の業務に通ずるところはあると思っています。アクセス解析でもいろいろなセグメントを切って検証したり、そのデータから何かが見えてきたりして、それを答え合わせすることに楽しさを感じます。

また、データ分析は消費者行動を読み解く手段の一つでもあり、それらをもとにマーケティング全体あるいは事業戦略といった領域も含めて支援できることに魅力を感じています。

大友:前回の連載で、衣袋さんも「分析とは、人間の行動を理解するための礎です」とおっしゃっていました。

渋谷:人間の行動を理解するために分析を行うのであれば、その人間の心理などを知っていなければ難しいと思います。その周辺領域をカバーしつつ、マーケティングや事業戦略のお手伝いをしています。

大友:反対に、現在の業務でつまずいたり、難しいと感じたことはありましたか。

渋谷:アナリティクスに絞って言うと、やはり技術的な部分ですね。私自身エンジニアといったキャリアは無く、一方でアナリティクス界隈では技術的アプローチが必要なシーンが増えているため、私もできる限り理解しておくべく、常に学ぶよう心掛けています。

他には、事業戦略が無い、あるいは事業戦略に沿ったKPI設計ができていないケースで、データ分析からKPIの改善を行なったところで事業へのインパクトが少ない、といったことがあります。本来は事業が向かう方向があった上でサイトであればサイトの役割からKPIを設計し、今はどの指標を伸ばすべきかを考えて分析や施策を行う必要があるのですけどね。

大友:私たちも、広告運用に関するご相談をいただくことは多いですが、結局、お客さまにとっての課題って事業戦略やKPI設計が多いんですよね。そういう視点が無ければ、私たちからも広告に関する適切な情報を提供することは難しく、最終的な目標達成も難しくなります。

渋谷:そうですよね。



分析とは比較、データを観察し隠れたヒントを探す


大友:続いて、渋谷さんにとって「データ」とは「分析」とは何かについて、伺えればと思います。

渋谷:安宅和人さんのイシューからはじめよ――知的生産の「シンプルな本質」』という書籍のなかに、「分析とは」の定義について記載されています。そこには「分析とは比較、すなわち比べること」と書かれていて、続いて「対象同士をフェアに比べてその違いを見ること」と言及されています。僕はこの定義が一番シンプルで好きです。いつも分析を行う際にそこに立ち返っています。両者を「フェア」な状態にして比べて、その違いや差分を見る、と。この「フェア」というところが重要なのですが、そこができてなくて「アンフェア」な状態で比べているシーンも散見するので、案外落とし穴なのかなと思っています。「アンフェア」な状態で比べると、その後の意思決定や施策で皆が不幸せになってしまいます。厳密に「フェア」にできなくとも、せめて「そこそこフェア」ぐらいで比べる必要があるかと思います。

あとは、僕はシャーロック・ホームズが大好きなのですが、そこで必ず出てくるのが「観察」です。シャーロック・ホームズは「観察」をすごくしていて、そこから推測できることがたくさんある。データも同じで、さまざまな視点からよく観察することで、今まで見えてこなかったものが見えてくるようになって、そこから仮説が生まれたりするので、データは「ヒント」だと思っています。

大友:先ほど謎解きが大好きだとおっしゃっていましたが、そことつながりましたね。

『イシューからはじめよ――知的生産の「シンプルな本質」』では、「比較のない分析は分析じゃない」というくらい比較の重要性を説明していますが、「脳は、前と後で異質のものを見極めなくなると、脳の認知が低くなってしまう(脳が飽きる)」という文章もあって、まさにそうだなと思っています。例えばダッシュボードを作成されるときも、同じようなグラフを並べないとか、飽きさせない資料を作るとか、意識されていますか。

渋谷:そうですね。もちろん誰が何のために見るかを前提に、「データストーリーテリング」なダッシュボードを作ることは意識しています。

※参考リンク

ビジネス最適化ソリューション「Domo」を提供する、Domo社が主催するカンファレンス「Domopalooza 2019」が、現地時間の3月19~22日の4日間にわたり、アメリカのユタ州...


大友:ここまで渋谷さんのご経歴から、さまざまな考えを伺いました。 最後に、渋谷さんから読者の方に伝えたいことはありますか。

渋谷:今後は、「機械学習」がテーマになると思います。この領域はどんどん進化していて、データ分析で機械学習に任せられるところは任せるべきかと思っていますが、アウトプットの精度を上げるためのインプットデータの整備と、アウトプットから実際アクションにつなげられるかの可否や、実施するために必要な社内リソースの調整、といった部分は人間の仕事であり、ますます重要になると考えています。そのため、技術をきちんと理解し、また、ビジネスも理解し、貢献できる人の価値が増し、ニーズが高まると思っています。

また、これまで、私は衣袋さんや森野さんや小川卓さん、アナリティクスアソシエーション (a2i)代表の大内さんなど、多くの方にサポートしていただきながらここまでこれたので、今後は業界に対して恩返しというか「恩送り」みたいなのをしていかないといけないなって思います。


私ができることは限られており、そのレベルもたいしたことがないのですが、周りのプロフェッショナルに助けていただいているおかげで今の自分があります。以前大内さんに”「周りの人に助けてもらえる」という一つの才能だよね”といった主旨のことを言われたことがあり、そこで「ハッ」と。また、衣袋さんからもこのことについて「あなたの人徳だよ」と言われたことがあります。これまで、いろいろできない自分に劣等感を抱き自己嫌悪になることも多かったのですが、今ではポジティブに捉えることができるようになりました。

技術の進歩と周囲の強力なサポートを武器に、引き続きこの領域から少しでも社会の役に立ちたいと思っていますので、どうぞよろしくお願いいたします(笑)。

大友:渋谷さんが『「周りの人に助けてもらえる」という一つの才能』をお持ちということは、今お話を伺っていて感じていますし、渋谷さんのお人柄の良さからきているものだと思います。

渋谷さんのご経歴から培ったもの、考え方を深く知ることができました。本日は貴重なお話をありがとうございました。ちなみに、同連載は今回インタビューさせていただいた方が「分析についての考えを聞いてみたい!」と思う方を教えていただき、私がインタビューに伺うという、リレー形式の連載になります。渋谷さんが、分析について聞いてみたい方は、どなたでしょうか。




渋谷:Option合同会社の柳井隆道さんです。柳井さんは弊社の強力なパートナーであり、業界のトップランナーでもあります。普段あまり表に出るタイプではないので、この機会に是非お話を伺っていただければと思います。

大友:ご紹介いただきありがとうございました。次回もお楽しみに!

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