【著者インタビュー】『「数字指向」のマーケティング データに踊らされないための数字の読み方・使い方』丸井達郎氏 緻密なプロセスマネジメントでマーケティングの成果を証明する!

マーケターは日々様々な施策を実施し、色々な指標を追いかける必要があります。デジタル化が進む中で、チャネルは増え続け、見るべき指標も多様化する一方。あの手この手でリードを獲得しようと試みますが、自身が実施している施策がどう売上に繋がっているのか、きちんと整理できていますか?


日々奮闘しているマーケティング活動が、究極目標である自社の利益に貢献していると理論立てるためには、「正しい数字」を用いたマーケティングの戦術設計が不可欠となります。


2019年2月に出版された『「数字指向」のマーケティング データに踊らされないための数字の読み方・使い方』(翔泳社)は、戦術設計のためのヒントになりえる一冊。著者である丸井達郎さんは、現在、アドビシステムズ株式会社においてMarketo Engageの戦略コンサルティング業務に従事しています。遡ること5年前、マルケトが日本に上陸し、マーケティングオートメーション(以下MA)分野が日本に導入され始めた頃から、丸井さんはMAに関わってこられました。


※参考

現在、企業のマーケティング活動の効果をより高く、効率化できるソフトウェアとして注目をあびているマーケティングオートメーション。その中で運用型広告メディアとの...


同書には、日本におけるMAの課題、すなわちプロセスマネジメントの戦術設計方法や、効果測定法、適切な数字の提示の仕方までが平易な言葉でわかりやすく網羅されています。同記事では、デジタル化が加速したことでマーケターや運用者に求められるようになった数字感覚や、知っておくべき戦略設計の重要性やプロセスマネジメントの日本の現状と課題、そしてマーケターは今後どのような力を身につけておくべきかを丸井さんに伺いました。


目次

・日本人は戦術設計が得意
・マーケティングはマーケターだけで完結しない
・宝の山は、マーケターの机の中に眠ったまま?
・数字を見せる相手を意識する





日本人は戦術設計が得意

井谷:丸井さんは4年前よりマルケトのコンサルタントとして導入支援や活用に携わってこられたそうですが、この4年間で日本におけるMAの課題感などは見えてこられましたか?


丸井:日本のお客様は、実行する施策は非常に高度なレベルで作っていらっしゃいますが、ではその施策によりどのくらいの売上が出たかと問われると答えられない方が非常に多いと感じています。アメリカ本社のコンサルタントから色々と学ぶ中で、戦術設計への時間の掛け方や体系化されたフレームワークに違いがあることに気づきました。


もちろん日本のお客様もマーケティングを高度化させたいという目標はあるのですが、MAはまだ新しい分野ですし、Googleなどで日本語で検索しても、MAの戦術設計のためのノウハウが決定的に少ないのです。一方で英語で検索すると様々な戦術設計のノウハウが公開されています。


井谷:ちなみに、丸井さんのおっしゃる戦術設計とは具体的にどういったことを指しますか?


丸井:例えば測定計画や人員配置、役割や責任、目標設定といったものです。これらを土台とし、その上に戦術に沿ったオペレーションがあります。戦術設計をしっかりやらずに闇雲にオペレーションばかり行っても、結果がわからないのは当然です。



例えば、過去データや経験則から、商談~受注までの確率が30%だったとして、これを10%上げるには有望な見込み顧客が何件必要で、新規獲得する必要のあるリードは何件、そのためには広告運用で何件獲得する必要があるかといった具合にゴールから逆算する形でプロセスを整理していきます。


最終的に売上につながるロジックを説明すれば、経営層も同意するはずです。その説明や合意がないままにバラバラに動くから、効果を問われた際に説明ができないのです。だからマーケターは、「バナークリック経由のセッションが今月は2万件ありました!」といった数字を見せてもそれが売上にどう繋がっているのかを経営層に問われた時に窮してしまいます。


井谷:曖昧な回答だと、経営層もマーケティング活動の意義に疑問を持ちますよね。だから予算が縮小されていくという悪循環にはまるわけですね…。


丸井:はい。そこで私は、初期導入のお客様に戦略立案をする際には、まずはセールスチームに来てもらうようにしています。まずはセールスの受注件数や売上の目標を立て、マーケチームと合意する。さらにそこで合意したものを経営層にもきちんと合意してもらう。ここまでコミットしていると、うまくいく確率はぐんと上がります。


最初に経営層やセールスサイドに結果の合意を得た上で、途中のプロセスを分解していき、「この広告で獲得したものは商談に繋がるっているのか」「商談につなげるにはどういう施策を打つか」といった話ができる地場を整えておく必要があります。


井谷:でもその戦術設計のノウハウを学ぶための術が日本には少ないと。今回、同書を書かれたきっかけはそこにあるのでしょうか?


丸井:はい。私自身もノウハウが少なかったため、USチームとコミュニケーションを図り、戦術設計を学びました。学び始めて数年経つと、マルケトのシステムについて、よりよく分かるようになりました。なぜこの機能があるのか、このレポートはどの指標を見るためにあるのか。戦術設計についてしっかり理解しておけば、マルケトのレポートってめちゃくちゃ優秀だなと、改めて気づいた瞬間でした。


その話を弊社の専務執行役員 マルケト事業統括の福田にしたところ興味を示してくれて、定期的に1on1でマルケトのレクチャーや戦術設計の勉強会をするようになりました。それを続けるうち、ある時福田から「これまで教えてくれたことを体系的にまとめて本にしてくれないか」と言われました。


福田の後押しもあり具体的な構想を考えてみた時に、MAの手順書であり、かつ読者の方が読了後に「なんだ、そんな簡単なことだったのか」と思ってくれるような本であれば、書いてみたいなと思いました。どうしてもMA、マーケティングの戦術設計って難しく考えがちですが、実はとてもシンプルなものなのです。そして本来日本人は、戦術設計が得意だと思います。


井谷:どうして日本人は戦術設計が得意だと思われるのでしょうか?


丸井:本書に書かれている戦術設計はマーケティングとセールスの生産性を高めるプロセスマネジメントの設計とも言い換えられます。


マーケティングとセールスの全体プロセスをデザインし、測定計画を立案し、重要な数字のマネジメントを行い、セールスやマーケティングのボトルネックや成長ドライバーを発見をします。そして、より高い生産性を目指す為に、マーケティング施策実行をオートメーション化します。これがマーケティングオートメーションの提供する本質的な価値です。


マーケティングオートメーションはモノづくりの世界に強い影響を受けています。モノづくりの世界でも緻密なプロセスマネジメントを行い、ボトルネックや成長ドライバーを発見し、生産性を高める改善を日々繰り返しています。その中で自動化して改善余地が高いエリアをオートメーション化していきます。ファクトリーオートメーション(工場での生産工程自動化)とも呼ばれますが、改善効果をシミュレーションし、数値的な根拠を元にオートメーション化を実施をしていきます。これらは緻密なプロセスマネジメントが基盤となっています。


この緻密なプロセスマネジメントのノウハウは営業の世界ではSFA(セールスフォースオートメーション)で応用され、マーケティングの世界ではMA(マーケティングオートメーション)に応用されています。


トヨタのかんばん生産方式を代表とするように、日本人は緻密なプロセスマネジメントが得意なはず。トヨタのかんばん生産方式を代表とした日本のプロセスマネジメントのノウハウがアメリカで体系的な学問になり、あらゆるITシステムに応用されています。もちろんMAもそれに影響を受けています。


MAを使わせたら世界一優秀なのは日本人なのではないかといつも思います。だから私の本を読んで、今まで自分たちがやってきた事と何も変わらないと気づいてもらえればいいなと思っています。




マーケティングはマーケターだけで完結しない

丸井:しかもデジタル化が進む中で、今後ますますマーケターには戦術設計の力が求められるようになってきます。


井谷:チャネルは増える一方、見るべき指標も複雑多様化していますね。


丸井:実際のところ、オフラインの集客チャネルはもう取り尽くしている企業が多いと思います。やはりこれからはデジタルで集客チャネルを探す流れになる中で、効果を証明する必要があります。その際に、戦術設計やプロセスマネジメントは絶対不可欠となるでしょう。


プロセスマネジメントについても、難しく考えすぎるきらいがありますが、工場での製造工程に置き換えると理解しやすいと思います。例えばマーケティングからセールス、売上に至る一連のプロセスでKPIを作るというのは、工場で言うベルトコンベアーの設計図です。まずその全体の設計図があり、その中で組み立てや梱包といった各作業カテゴリーがあります。マーケティングに置き換えると、これがチャネルです。


そして工場では、各カテゴリーにおいて、人の手やロボットを使って作業を進めます。これがキャンペーン施策のことです。この施策を自動化して次のプロセスへ進めるワークフローを提供するロボットの役目をしているのがMAで、検品作業がスコアリングにあたります。全体設計があり、プロセス、チャネル、施策、とドリルダウンする中でボトルネックを見つけ、改善させていく。ファクトリーオートメーションとMAは、考え方としては何ら変わりありません。



井谷:ご説明の中にセールスという言葉が出てきましたが、プロセスマネジメントはマーケティング部署だけでは完結しないのがミソですね。戦術設計を行う上では、組織のあり方も変える必要があるということでしょうか?


丸井:これはグローバル共通ですが、対人の営業が絡むビジネスにおいて、現在マーケとセールスの協業が課題となっています。例えばセールスサイドはマーケが渡したリードはくだらないと考え、マーケサイドからすると一生懸命集めたリードをセールスがフォローしてくれないと思い敵対関係に陥る、といった問題は少なくない数のマーケターが経験しているのではないでしょうか。その中間に入り、橋渡しの役割をするのがMAの仕組みなのです。


井谷:セールスに人材をどんどん投入して人海戦術で売上増加を図るのは、今の世の中では描きづらいですよね。だからこそマーケとセールスが協力する必要があり、その橋渡しをMAが行う。


丸井:企業としては、同じ営業リソースで受注数を上げて売上を伸ばしたい。そのためにマーケチームは有望な見込み顧客を営業チームに対して引き継ぐ必要があります。


製造の世界に例えると、10個のパーツを使って1つの製品をどれだけ早く組み立てられるかを徹底的にトレーニングし、これまで1人あたり3つしか作れなかったものが同時間で4つ作れるようになったとします。でも組み立てに必要なパーツが3個しか必要なくなったら、もっと劇的に効率はアップします。


有望な見込み顧客をマーケが見つけてリードスコアに戻し、ホットな状態でセールスに渡すと、セールスが組み立てる(受注する)までの時間が短くなり、生産性が高まります。この仕組みに投資する企業は増えてきていますが、ストーリーの中には常にセールスが存在します。ウェブ完結の事業でない限り、セールスチームにもその気になって協力してもらわないと、MAの仕組みを潤滑に回すことはできません。そのセールスチームを突き動かすのは、数字でもなんでもなく、マーケターの「人となり」だと私は考えています。マーケターにとってのお客様は、セールスチームなのです。


井谷:セールスチームとの対立構造を作るのではなく、お客様だと思うくらいの姿勢でいたほうが良いのですね。


丸井:下手に出る必要はまったくありませんが、これまでセールスチームは自分でマーケティング的なことからカスタマーサポートまでをこなしていた部分があるので、そこへいきなりマーケチームから「宝の山ですよ。ほらあげますよ」と言ってリードを渡されても、良い気はしませんよね。


常に協業する姿勢、セールスチームをサポートするという目線で対応したほうが、うまくいくケースが多いです。数字指向とタイトル付けしていますが、最後はやっぱり人なんです。デジタルがわからない人に対して、どうやって分かりやすく説明するのか。それを愚直に頑張れる人だけが、DX時代においても成功するのではないでしょうか。





宝の山は、マーケターの机の中に眠ったまま?

井谷:プロセスマネジメントを行う上で、同書では「残高」というユニークな思想についても触れられていました。


丸井:我々の言う残高とは、それぞれのプロセスに使える資産をあとどのくらい保有しているかを把握するための指標です。意外と、残高を意識している人は少ないです。例えば100件リードがあるとして、限られたリソースの中で、まだ検討の浅い段階にある人に対してマーケティングコストをかけるよりも、あと一歩で受注に結びつく人に対して働きかけた方が効率は良いですよね。それを「リード客のデータ」とひとくくりにして同様のマーケティング施策を行うケースが非常に多い。


井谷:リードの重み付けという意味では、運用型広告で言うリマーケティングの思想についても書かれていましたが、対面の絡むビジネスのマーケティングにおいては、あまりリマーケティング思想は浸透していないのでしょうか?


丸井:我々は「リサイクル」と呼んでいますが、ある一定のスコアまで上がったけれど案件化しなかった(将来有望となる)リードはずっと溜まっていくばかりで、それを無視して新規獲得ばかりをKPIにしているケースも多いと思います。一生懸命展示会などで見込み顧客を獲得するけれど、データ化しただけで誰かの机の中に眠ったままになっている経験ってありませんか。ふと思い出して、思いつきでメールを送ってみたり。


そうではなくきちんとプロセスマネジメントをし、使えるアセットを理解して適切なマーケティング活動をオートメートすることで、少ない人員でも多くのタッチポイントを作っていく仕組み作りが今必要とされていると、強く感じます。




数字を見せる相手を意識する

井谷:これまで、戦術設計とプロセスマネジメントの重要性についてお話いただきました。設計に基づいて実施した施策の効果として計測された数字をどう見せるのかも、重要になりそうですね。


丸井:そうですね。すべては収益に繋がっていると説得力を持たせられる数字の提示が求められています。でもそれって、ある意味マーケターが初めて売上に責任を持つ瞬間になります。初めて自分たちが結果を出すことにコミットする瞬間。だからとても怖いことだと思います。でもなんとなくの数字でお茶を濁していられる時代はもう終わり、マーケターが数字的な責任を求められています。


井谷:マーケターって様々な指標を追いかけているから、データをコレクションするのがある種職業病のような面があるんじゃないかと思うのですが、それに踊らされずに「何のためにその指標を追っているか」をまずは整理する必要がありそうです。


丸井:色々なデータが取れる時代だからこそ、見るべき指標は絶対に絞ったほうが良いと個人的には思っています。多くの指標を測定することに価値を置くより、少ない指標で売上に対して影響がどれくらいあるかがわかるくらい研ぎ澄まされた方が良いです。その方が分析工数も下がり生産性も上がりますよね。そのためにはやはり、設計図が必要になってきます。


井谷:ただ、普段施策部分にフォーカスして業務にあたる現場のマーケターは、近視眼的になりがちなのかなと思います。


丸井:そうですね。マーケターや運用者の方の目線で考えると、先程お話した設計図全体を見渡す力をつけていただくことと、見せる相手を意識することをおすすめします。


井谷:見せる相手とは?


丸井:例えばメルマガの開封率が15%上昇し、ウェブサイトの直帰率が10%下がったとします。マーケターにとっては喜ばしい成果ですが、経営者にそれを報告しても「俺のわからない数字を使ってうまく丸め込もうとしているだけじゃないか?」と思われてしまいます。


要は、売上やパイプラインにどう影響を及ぼしたかが説明できないものは、指標として経営層に見せないほうが良いケースもあります。また、セールスチームにSNSのアクション数を見せても「だから何?」と思われてしまいます。見せる相手を整理し、見せるべき指標を整理することが重要です。


ついついエクセルなどで細かいレポートを作りたくなってしまいますが、見せる相手にとってどの数字が必要なのかを整理し、どの領域で見せるかを考えた上でレポートの画面設計をする必要があります。


井谷:私もついつい、日々追いかけている指標を伸ばすことに躍起になってしまい、手段が目的化することが多々あります。今日のお話を肝に銘じて、「何のための、誰のための数字か」を意識して整理してみます。貴重なお話をありがとうございました!


※この記事は、2019年7月に取材したものです。



【丸井さんの著書】
『「数字指向」のマーケティング データに踊らされないための数字の読み方・使い方』(MarkeZine BOOKS)
著者:丸井達郎/発売日:2019年2月21日/価格:2,160円(ソフトカバー版)、1,944円(Kindle版)





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