【著者インタビュー】『Webマーケターのためのテクノロジー入門』山田良太さん

昨今、アナリティクスやタグマネージャ、データフィード広告の登場などにより、広告運用者やマーケターにもエンジニアサイドのスキルが求められる場面が増えてきました。専門知識があることで、より詳細な分析や踏み込んだ設計が可能になるため興味はあるものの、どこから手を付けたら良いか分からないという方も多いのではないでしょうか。


そこで今回は、エンジニアサイド・マーケターサイドの両領域を経験してきた株式会社プリンシプルの山田良太さんに、広告運用者やマーケターに必要なエンジニアサイドのスキルとは何か、またどの程度まで学ぶ必要があるのかについてお伺いしました。




話し手:株式会社プリンシプル 山田良太さん
聞き手:アタラ合同会社 井谷麻矢可




Webマーケティングの世界にはテクノロジーで解決できることがまだまだある


井谷:まずは、山田さんのご経歴について教えてください。


山田:株式会社プリンシプルのソリューション ディビジョン テクノロジーチームのマネージャーを務めている、山田です。前職ではERPのパッケージ開発を行ったのち、マーケティングチームに転身、現在はプリンシプルでGoogleアナリティクスの高度な設定や、お客様の持つマーケティング・データやオフラインデータをBigQueryなどのデータベースに上げ、Tableauで可視化するための基盤開発に携わっています。


もともと高校時代から数学が好きで、自分で解くだけでなくコンピュータにも問題を解かせてみたいと思ったことから、プログラミングやエンジニアサイドのスキルに興味を持ちました。その後、約10年間プログラミングに携わり、4年前からはWebマーケティングにも関わってきました。2つの領域に携わったことで、Webマーケティングの世界には本来ならばテクノロジーで解決できることがまだまだたくさんあるということに気づきました。


井谷:具体的にはどのような気づきがあったのでしょうか?


山田:わかりやすいところで言うと、運用者の方が日々行っているレポートの作成です。プラットフォームの管理画面から出力したものをエクセル集計して資料にまとめる人が多いかと思うのですが、APIを使えばもっと手軽にレポートが出せます。Googleアナリティクスでデータを取得する部分においても、例えば単にGoogleアナリティクスのタグをウェブサイトに貼っただけでは取得できる情報はごく一部に限られますが、JavaScriptを使ってカスタマイズすることでより多くの情報を取得でき、それをもとにレポートのデータを拡充させれば、より高度な意思決定に繋げることができます。



井谷:Webマーケティング担当の方で、プログラミングを使いこなせる方はやはりごく少数なのでしょうか?


山田:私がWebマーケティングの世界に飛び込んだ4年前の時点では、技術まわりの知識を持ち合わせていない状態でWebマーケティングを業務としている方が多かったです。前職は代理店ではなく広告主側の立場だったので、特にそういう状況に陥りやすかったのかもしれませんね。


井谷:そうした状況は変わりつつあると思われますか?


山田:Webマーケティングとエンジニアサイドのスキル、両領域を理解できている人は最近徐々に増えてきたなという印象があります。弊社の中でも徐々に増えてきています。しかしそれはごく一部の代理店や広告主に限られたことで、業界全体で見るとまだまだ多くないと思っています。


同時に、Webマーケティングを取り巻く環境自体にもエンジニアサイドの知識が求められる状況が増えてきていると感じています。例えばGoogleのショッピング広告や動的リマーケティングはこれまで主にECサイトなどで使われてきましたが、今では様々な業種に対応できるようになってきていますし、アクセス解析においても拡張EコマースのようにECサイト向けにより強化されたレポートが使える機能も増えてきています。そのあたりの機能を使いこなすために必要な一通りの技術力を持っていると、一歩進んだことができるようになります。


井谷:広告運用者やマーケターが関わる範囲が広くなったからこそ、より高度な設計ができる知識も求められているということですね。


山田:技術的な力は、マーケティング以外の部分でも使えます。例えば、業務の様々な場面でGoogleスプレッドシートを利用している人は多いと思いますが、毎回手で処理するのではなく、G Script(旧Apps Script)でプログラムを書くことでスプレッドシート上の処理を自動化できたりします。さらに、G Scriptの場合は、他のGoogle製品と繋げることもできます。例えば、プレッドシートの情報やGoogleカレンダーの情報をもとにGoogle広告を更新することができます。現在、こういったことが従来よりも簡単にできるようになってきています。


もしかしたらGoogleやFacebookが進化することによって今後マーケターにとってエンジニアサイドのスキルが必要ない時代が来るのかもしれないと思う一方で、個性を持ったベンダーの数自体も増えてきているため、すべてをプラットフォームに頼ることは難しいでしょう。エンジニアサイドのスキルは広告を運用するにあたって必ず身につけなければいけない知識ではありませんが、業務効率化の意味でもぜひ挑戦してみてほしいと思います。




運用者が学習すべきエリア


井谷:では、Webマーケターや運用者はどの程度の知識を身につけておくべきなのでしょうか?


山田:まずは、勉強する必要がないところを明確にすることが重要だと思います。運用者の方はプロダクトそのものを作る必要がないことを考えると、ソフトウェア・エンジニアの持つ知識のうち、多くの知識がいらなくなります。残るものでまず大前提として身につける必要があるのは、Webの全般的な基礎知識。


例えばURLの構造や、Cookieの仕組み、IPアドレスの知識、よく使われるデータの基本的構造などです。日々の業務の中でなんとなく概念を理解している方は多いかと思いますが、根本から理解して素養を高めておくことが重要です。ありがちなのが、Googleアナリティクスでページ単位のユーザー数を取り出そうとして思っていた数値が取れずに運用者が悩むシーンです。そもそもページビューとセッションは単位が異なるので、誤った組み合わせで取り出そうとしても正しく取り出せません。データベースの単位や概念をしっかりと理解していないと、そういった間違いが起こります。


次のステップとしては、HTML、CSS、JavaScriptの知識をつけることです。とはいえエンジニアレベルの素養が求められるわけではなく、要点さえ押さえておけば充分です。この3つであれば、それぞれの役割が何なのかはとても重要です。私はこの3つを「本」でイメージすればわかりやすいと考えています。例えば、HTMLは原稿そのもの。その原稿の見た目を整えて、製本するのがCSS、さらに今まで本だったものに動きをつけて動画にするのがJavaScriptといったイメージです。


またWebマーケターにとっては、JavaScriptであれば、サイトに動きをつけるための技術が必要なのではなく、必要なタイミング(例えば、ボタンのクリックや、ページのスクロール)で、Webページ上から何ら等かの情報を取得し、処理することができれば充分です。CSSであれば、ページの見た目を改修する必要はなく、Webページ上の要素(ボタンやリンクなど)を取得するために用いられるCSSセレクタの書き方を覚えることができれば充分です。


SQLの知識については、自社の体制によってすぐに活用できる人とすぐには活用できない人に分かれると思います。というのも、SQLの場合はデータベース上にデータが入っていないと分析も何もできませんが、データベース上にデータを入れるためには高度なエンジニアスキルが求められ、難易度が高くなります。そのため、業務分担としては、データベースにデータを入れる部分はエンジニアが担当し、マーケターはデータベースから欲しいデータを取り出す部分を担当するのがおすすめです。


しかし、自社にデータベースがない状況では、データを取り出すためのSQLを学ぶことすら難しく、何らかの方法でSQLを学ぶことができたとしても、もととなるデータベースを構築できなければ、業務で活用することはできません。そのため、自社に構築されたデータベースがあるのであれば学んでもいいと思いますが、そうでなければすぐには必要のない知識です。




習得する方法とは?


井谷:そういった知識は、どのようにして身につければよいのでしょうか?


山田:CSSやJavaScriptなどそれぞれに関する専門的な技術書はたくさん出回っていますが、そのような技術書はプロダクトを作りたい人を対象としており、運用者が学ぶ必要のない情報も多く掲載されており、どれが必要でどれが不要かを運用者自身が区別する方法がありません。運用者に必要な情報のみに特化した本がない…ということに気づき、2017年5月に『Webマーケターのためのテクノロジー入門』という書籍を執筆・公開しました。同書は、先ほどお話したWebに関する基礎知識や、マーケターに必要十分なプログラミング技術について入門者でもわかるように記載しています。


井谷:確かに、専門的なWebサイトや書籍は多々ありますが、運用者がそこから自分に必要な技術のみを選別するのは難しそうですね。必要な情報だけがまとめられているのは学ぶ上で効率がよさそうです。社内でもエンジニアサイドのスキルを学ぶための啓蒙はなさっているのでしょうか?


山田:広告データをBigQueryに入れ始めたことで、広告チームのメンバーも積極的にAdWords Scriptを書き、スプレッドシートに最新のデータを落とし込んで予算状況のチェックなどができるようになりました。そういう意味では、自然とプログラミングに触れる機会は増えています。


井谷:他にも、プログラミングとWebマーケティングの両領域を知っていることが活きた事例はありますか?


山田:例えば前職では、ネットスーパーの企業様でGoogleアナリティクスのデータ(オンラインデータ)と天気データ(オフラインデータ)を組み合わせて分析をする試みが非常に面白かったです。その際はAPIから天気データを取得し、Googleアナリティクスにインポートできる形を整えました。天気はその都度変わるため、その日の天気とアクセス状況を連動させた相関分析を行いました。


また、先ほどお話したGoogleカレンダーとの連動では美容室や歯医者、飲食店などのローカルビジネスにおいて、予約状況をGoogleカレンダーに入れることで、空席がある日に合わせてAdWordsスクリプトで広告を強化配信することがようなプログラムを組むことができます。このような運用は、Google広告のプラットフォーム自身の最適化では手の及ばない範囲であり、かつ手動で行うことは現実的ではありません。


井谷:色々な事例を教えていただきありがとうございます。すべてを網羅する必要はありませんが、運用者に必要なレベルでプログラミング・テクノロジーについて知っておくことで、運用業務の幅が広がりそうですね。また、実際には開発者サイドが作業をするにしても、知識を持っているだけで作業をお願いする際のすり合わせにおいて齟齬が少なくなりそうです。


山田:はい。一方で運用者側が技術面の知識を身につけるだけでなく、エンジニア側もマーケティングについて知っている人が増えると、よりスムーズにコミュニケーションが取れるようになると思います。まだまだ数は少ないですが、私のようにエンジニアから運用者やマーケターに転身する人も増えていってくれれば嬉しいですね。



【山田さんの著書】
『Webマーケターのためのテクノロジー入門』
著者:山田良太/発売日:2017年5月10日/価格:1200円(Kindle版)



Webマーケターや運用者にとって必要十分なプログラミング技術を網羅した、巷に存在するプログラミングの専門書とは一線を画した一冊。Web全般に関する基本的事項、HTML/CSS/JavaScript/jQueryについての基礎と、Webマーケターが身につけるべき内容をピックアップして取り上げている。各章には演習問題もついており、入門者~中級者に最適な内容となっている。

Top