Appier が先行型マーケティング・オートメーション・プラットフォーム「AIQUA(アイコア)」を提供開始

2018年8月7日(火)、台湾のAI(人工知能)テクノロジー企業Appier(エイピア)は、AI主導の先行型マーケティング・オートメーション・プラットフォーム「AIQUA(アイコア)」の提供を開始することを発表しました。


Unyoo.jpでは、特別にAppierのCEO兼創業者のチハン・ユーさん(以下チハンさん)にお話を伺うことができましたので、チハンさんのこれまでご経歴を振り返りながら「AIQUA(アイコア)」について紹介していきます。


話し手:Appier CEO兼創業者 チハン・ユーさん
聞き手:アタラ合同会社 チーフコンサルタント 杓谷 匠


※このインタビューは英語で行われました。




AI(人工知能)との出会い


杓谷:チハンさんのこれまでのご経歴を教えてください。チハンさんがAIと最初に出会ったのはいつ頃のことでしたか?



Appier CEO兼創業者 チハン・ユーさん


チハン:もうずいぶん昔のことで、1997年のことだったと思います。私は台湾の大学院生で、コンピュータビジョン(大雑把に言うと「ロボットの目」を作ること)を学んでいました。今でもAIの難しい分野のひとつである「認識・識別」(Recognition)に取り組んでいて、様々な角度で撮影した画像から特定の人物を判別するAIの開発に取り組んでいました。


学部生時代にプログラミングに熱中していたので、自分で作った画像認識モデルを改良していく作業がとても楽しかったことを覚えています。これが私のAIとの最初の出会いでした。


杓谷:それからチハンさんは米国のスタンフォード大学に留学することになりますね? なぜスタンフォード大学を選んだのでしょうか?


チハン:台湾には兵役の義務があるのですが、この兵役の期間に将来自分は何をしていくべきなのだろうかを考えていました。学生のよくある悩みと同じですね。今でも覚えていますが、兵役の期間中にも私はAIに関する研究論文を読み漁っていました。兵役に就いた人間が普通はそんなことしませんよね(笑)。


そうした私の姿を見て、尊敬するメンターの方がスタンフォードに行ったらどうかと勧めてくれました。今ではアジアに優秀なAIのエンジニアがたくさんいますが、当時はとても少なかったので、AIについて本格的に学ぶには米国に行ったほうが都合が良かったからです。複数の大学を受験したのですが、幸運にもスタンフォード大学に合格することができてとても嬉しかったですね。2003年から米国に渡り、スタンフォード大学でAIを学ぶことになりました。


ちょうどその年は、著名なAI研究者のAndrew Ng氏( GoogleのAI研究部門Google Brainの創設者のひとり。ディープラーニングプロジェクトを統括。)が2002年からスタンフォード大学に籍を移しており、その2年目の2003年に私が入学したことになります。所属する研究所を探していたところ、彼がやろうとしていることが私のやりたいことと同じだったので、彼の研究所に所属することにしました。


ABOUT ANDREW NG Andrew Ng is VP & Chief Scientist of Baidu; Co-Chairman and Co-Founder of Coursera; and an Adjunct Professor at Stanford University.  In ...


杓谷:スタンフォード大学では具体的にどんなプロジェクトに携わったのでしょうか?


チハン:主に2つのプロジェクトに携わっていました。


1つ目は、四足歩行ロボットの歩行に関するプロジェクトです。今ではとても有名なボストン・ダイナミクスと共同で行っていたプロジェクトで、おそらく「BigDog」の前身となるロボットだったと思うのですが、その四足歩行ロボットが歩くためのAIを開発していました。最初はバランスを取ることから始め、次にゆっくりと歩くことを目指し、最終的には階段を登る、という動作を機械学習を使ってひとつずつ学ばせていきました。



チハン:2つ目は、自動運転カーのプロジェクトです。(のちにGoogleに買収され「Waymo」となる。)このプロジェクトでは、「視覚」や「レーザーセンサー」などといったように担当ごとに小さなチームに分かれていたのですが、私が担当していたのは「運転」の部分で、乗り物の進行方向を決めるステアリングなどの制御を担当していました。四足歩行ロボットのプロジェクトで私が担当していたのも動きを操作する部分だったので同じ要領ですね。



Waymoの自動運転カー


チハン:2018年7月に入社したAppierのチーフAIサイエンティストのSun Min(孫民)ともその頃に出会いました。おそらく彼はAndy Rubin(アンドロイドOSの生みの親)のアンドロイドプロジェクトに携わった最初の学生2人のうちのひとりだったと思います。後に彼はフェイフェイ・リー(スタンフォード大学の人工知能研究所の所長を務め、現在はグーグル・クラウドで主席研究員を務める)の研究所に行くことになりました。


その後、当時の私の婚約者がハーバード大学に行くことになったので、私も移籍できるボストンの研究所がないか探し始め、分散型人工知能(Decentralized artificial intelligence)で有名なRadhika Nagpalの研究所に所属することになりました。


Scientific American Guest Blog   The Awesomest 7-Year Postdoc or: How I Learned to Stop Worrying and Love the Tenure-Track Faculty Life.


チハン:当時のマシンは今と比べて処理能力が低かったので、計算にとても時間がかかってしまうのが課題でした。人間の体にはたくさんの細胞がありますが、私たちはその細胞ひとつひとつに意識を向けてコントロールをしていません。個々の細胞が自律的に働いているからです。


Radhikaはその生物学的な仕組みを人工知能の分野に応用することに取り組んでいました。これがうまく機能すれば、マクロレベルでの指示をあたえるだけで済むので、ミクロレベルのタスクの指示をひとつひとつする必要がなくなり、計算時間を大幅に短縮することができます。


この研究は私にとってとても大きな意味を持つものでした。これまでの四足歩行ロボットや自動運転カーのプロジェクトでは、いつもこの計算時間の問題と戦ってきたからです。だからこそRadhikaのもとで研究をすることを選びました。おそらく私は彼女が受け入れた最初の学生のひとりだったのではないかと思います。そこで、従来の中央集中型の人工知能の限界などを学ぶことができました。



ハーバードでは充実した研究生活を送っていましたが、卒業を間近にひかえた2010年頃のある日、ルームメイトがこんなことを言いました。「われわれはいつも”未来”に関するプロジェクトにばかりに携わってきた。どうして”今”に関することをやらないんだ?」その言葉が強く私の心をゆり動かしました。


その言葉がきっかけとなって、”今”の課題に取り組むために米国からアジアに戻り、大規模なAIシステムの開発を始めることになったのです。これがAppier立ち上げのきっかけです。


杓谷:Appierは今マーケティング領域を専門としていますが、どうしてこの分野を選んだのでしょうか?


チハン:私はAIを使って企業の課題を解決したいと思い、BtoBにフォーカスすることにしました。当時、スマートフォンの登場によってシングルデバイスからマルチデバイスという産業構造の変化が起こっていて、多くの会社がとても混乱していました。我々はAIを使ってそれぞれのデバイスをリンクできないかと考えました。


当時はこの考えはとてもクレイジーなアイデアでしたが、実際は多くの企業がそのようなソリューションを求めていました。我々は多くの時間を費やし、なんとか最初の成功をおさめることができました。2012年頃のことです。これはのちに「CrossX」と呼ばれる製品となり、Appierの製品群の核になっています。これが企業のマーケティング部門にとても喜ばれたのがマーケティング領域に進んだきっかけです。


当時は多くのサービスがモバイルにシフトしている時期だったので、企業がよりよいマーケティングが行えるように「CrossX プラットフォーム」という広告配信プラットフォームを開発しました。AppierのミッションはAIをビジネスで使いやすくすることなので、次の分野にチャレンジし、2017年にAIを使ったオーディエンス分析が手軽にできるデータサイエンスプラットフォーム「AIXON(アイソン)」を開発しました。そしてさらにユーザーのリテンションやエンゲージメントを高めるために今回「AIQUA(アイコア)」を開発したわけです。



モバイルデバイスの普及によるデータの断片化

杓谷:2017年に行われたインテージ社の調査によれば、ひとりのユーザーが保有するcookieは平均して7.0個だと言われています。モバイルデバイスの普及によって一人のユーザーが複数のデバイスを持つことが当たり前になったいま、デバイス、ブラウザ、アプリ間のデータの断片化(フラグメンテーション化)が進み、ユーザーに適切なタイミングで最適な広告を表示させることが難しくなっています。今後のIoTなどの流れを考慮すると、この流れは今後ますます進んでいくことが予想されます。



杓谷:こうした流れの中で、企業が適切にマーケティング活動を行っていくには、ユニークユーザーレベルで施策を行っていくことが不可欠です。Cookieベースでマーケティング施策を行うと、もうその広告は飽きたと思っているユーザーに広告を出し続けてしまったり、関連性の低い広告を押し付けてしまうなど、かえって企業のブランド価値を毀損してしまいかねないからです。


マーケティング・オートメーション・プラットフォームとは


杓谷:マーケティング・オートメーション・プラットフォームとは、企業が自社の保有する顧客データにもとづいて、ユーザー一人ひとりにあった内容、タイミング、方法によるコミュニケーションをとるためのプラットフォームです。


Appierの提供する「AIQUA(アイコア)」は、この基本的なマーケティング・オートメーションの機能に、Appierの強みであるAIによるクロスデバイスマッピングおよびオーディエンス分析・予測を活用することで、最良のチャネルとデバイスを選定してターゲットオーデイエンスに対して効果的・効率的にリーチできるようにしたものです。



杓谷:効果的な顧客ごとのマーケティング戦略を立案するためには、顧客のことをよく理解している必要があります。しかし、企業は自社のWebやアプリケーションの外に存在する潜在顧客の行動傾向、嗜好をほとんど知りません。つまり、マーケターは新規顧客を獲得するために多くの広告費用を投じているにもかかわらず、自社サイトへはじめて訪問した消費者のことはなにもわかりません。さらに、複数のデバイスそれぞれに使う時間と目的は多様になり、複雑になっているため、顧客エンゲージメントを強化することは非常に難しくなっています。



杓谷:「AIQUA(アイコア)」は、それらの課題を解決することにより、マーケターが顧客との関係性を強化・維持し、顧客のライフタイムバリューを高めることを可能にします。企業は、信頼性の高いAIモデルを使って、自社が保有するウェブサイトやアプリケーションの外に存在するターゲット顧客の行動傾向や興味を知ることができ、それらの外部データと自社が保有する顧客データを統合することができます。そして、統合したデータを使い、ターゲット顧客一人ひとりに合わせたコミュニケーションをとることができます。



杓谷:「AIQUA(アイコア)」はテンプレート機能を用意しているので、マーケターはターゲットとする顧客一人ひとりに適したメッセージや画像・映像を手軽に制作することが可能です。制作したコンテンツはウエブ、アプリ内プッシュ通知、Email、SMS(ショートメッセージ)ならびにLINEを含むメッセージアプリを通じて顧客に届けられます。





杓谷:競合製品の多いマーケティング・オートメーション・プラットフォームの開発を決めた理由を教えてください。



チハン:Appierのミッションは「AIを通じて企業の成長を支援すること」です。私たちは競合はあまり意識せず、顧客の要望に注力することを心がけています。



その上で、マーケティング・オートメーション・プラットフォームを選んだ理由としては2つあります。


1つ目は、現在あるマーケティング・オートメーション・プラットフォームが必ずしもAIフレンドリーではないこと。


2つ目は、現在のMAツールは広告主のCRMデータをもとにしていますが、顧客のことはすでに広告主であれば熟知しているはずです。Appierであれば、ユニークユーザーレベルでデータを整理しているので、自社のウェブサイトにいるとき以外のユーザーのデータを補完することができます。


だからこそ我々はより広告主に価値を与えることができると判断し、「AIQUA(アイコア)」を開発することに決めました。


杓谷:「AIQUA(アイコア)」はインドのQGraphという会社の技術をもとにしていると聞きましたが、マーケティング・オートメーション・プラットフォームの開発はいつ頃から計画していたのでしょうか?


チハン:私たちはAIを使ったオーディエンス分析ツール「AIXON(アイソン)」を開発したあと、自社でマーケティング・オートメーション・プラットフォームの開発を計画していました。


そんな中、幸運なことに既にインドでマーケティング・オートメーション・プラットフォームを開発して実績のあるQGraphの創業者の二人と会うことができました。我々はみなエンジニアでバックグランドが共通していたことと、目指すべき方向性が同じだったので、すぐに良いシナジーが生まれるだろうということがわかりました。それでAppierに参加してもらうことになったのです。


杓谷:インドではすでに多くの企業でQGraphのツールが使われていると聞きましたがどんな企業が利用されていますか?


インド最大のOTT会社(動画・音声などのコンテンツ・サービスを提供する事業者)やEコマース企業が多く使用しています。QGraphはプッシュ通知などの領域に強みを持っていましたが、われわれの持っているLINEなどのメッセージングアプリの領域や、ユニークユーザーの特定などの技術を足して、より良い製品が開発できたと思っています。



杓谷:ユーザーの興味や関心に合わせたメッセージを送るために不可欠なツールになっていきそうですね。今後の進化がとても楽しみです。詳しいお話をありがとうございました!



筆者は運用型広告に携わる者として、ユーザーに関連性のある広告が提供できるか否かに長い間注力してきました。運用型広告以外の領域でもユーザーにとって有益な情報を与えることのできる仕組みが整いつつあることに単純な嬉しさを覚えます。背景にあるAIの技術に今後も注視していく必要がありそうです!

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