もう宣伝部は時代遅れ!?あなたのブランドは大丈夫ですか?カスタマー・エクスペリエンスの重要性が高まっている

※この記事は、アタラフェロー / 電通総研カウンセル兼フェロー/ 電通デジタル客員エグゼクティブコンサルタント 有園雄一さんからご寄稿いただきました。

クライアントの宣伝部長と打ち合わせしている時だった。
「広く伝えればいいってもんじゃない。リーチした後が問題なんだよなぁ」
「宣伝する」「広告する」「広報する」。これらの言葉は、企業が生活者に広く伝える。そういう意味だと思う。


彼は続けた。「リーチした後に、その人がどう動くのか知りたいんですよ。認知して、それから、どうやって店舗に誘導して購買してもらうのか?」 「リーチした後に、その人がどう動くのか知りたい」。どう動くのか、この言葉がキーだろう。「動的な」生活者像だ。


例えばマス広告の代表であるテレビCMは、テレビの前に座ってジーッと観ている人をターゲットに情報を流している。新聞広告は、新聞を読んでいる人(おそらく座ってジーッと読んでいる人)がターゲットになる。「静的な」固定された的に弓で矢を放つイメージだ。


「宣伝する」「広告する」「広報する」。その結果、その情報を認知した生活者がいる。その認知率が高いとマスマーケティングは成功だった。 でも今は、多くのクライアントの宣伝部が認知した後の動きを知りたがる。認知した後、どのようなコンタクトポイントで店舗に誘導し、どうやって棚にある自社の商品を買ってもらうのか。カスタマー・ジャーニーやGoogleが提唱するマイクロモーメントが重要視されるようになったのは、「動的な」生活者を捉えて施策を実施したいからだ。ただ、単純に「宣伝する」「広告する」「広報する」ではダメだ。認知を取るだけではダメなのだ。いま、おそらく企業の宣伝部や広報部の人は、みんな分かっている事だ。




「宣伝部」の看板を外す企業

2017年10月1日付の組織改編で、ライオン株式会社は「宣伝部」の看板をおろした。部署名を改称して「コミュニケーションデザイン部」として新しく生まれ変わった。

宣伝部/宣伝部の機能を再編し、傘下の組織を変更するとともに「コミュニケーションデザイン部」に改称する。▽「CXプランニング室」を新設し、宣伝部直下とデジタルコミ...


記事によれば「CXプランニング室」を新設し、これまでの宣伝部とデジタルコミュニケーション推進室を集約してブランド育成機能を持たせ、生活者へ体験価値を提供するコミュニケーション戦略を立案・推進するらしい。 私は、このニュースに衝撃を受けた(まぁ「衝撃」はちょっと大袈裟だけどね)。ついに、「宣伝部の看板をおろしたのか!」と私は思った。


いや別に、そんなに驚く事でもないよ、と思う人もいるだろう。「コミュニケーションデザイン」という単語も新しくないし、CX(カスタマー・エクスペリエンス)プランニング部などの名称は、ほかの会社にもある。私の知る範囲では、ソニー損害保険株式会社にも、「CXデザイン部」がある。 それはそうなんだけど、でも、歴史と伝統のあるライオンという企業が「宣伝部」という名前を捨てた事、そして「CXプランニング室」を新設した事、この二つの事実が示すことは、「宣伝部は時代遅れだ」という事だ。


おそらくかなりの議論の末に、ライオンでは「宣伝部」ではもうダメだ、という結論になり、役員会などでも決議されての事だったと思う。


生活者視点に移ったって事だ

「宣伝部」「広告部」「広報部」。これは、企業視点の言葉だ。企業側から生活者に一方的に情報を送る。認知してもらう。ここには生活者視点が欠落している。「静的な」点として生活者を捉えて、「認知してもらって以上、終了」という一方的な態度・発想が露骨に分かる言葉だ。誰が宣伝するのか?企業が主語になっている。


カスタマー・エクスペリエンスという単語は、顧客あるいは生活者のエクスペリエンス(経験・体験)なので、生活者視点の言葉だ。認知も体験の一つだが、それは一つの点に過ぎず、時間的な拡がりや空間的な拡がりの中で体験は発生する。なので、「認知して、その後、時間的に空間的に生活者はどう動いたのかなぁ?」という素朴な疑問に答えようとする。 体験するのは誰か? 生活者が主語である。

最初の接点で認知して、その後の接点でどうしたのか?その点と点をつないで体験を線にしていく。カスタマー・ジャーニーを描いていく。細かな瞬間ごとに(マイクロモーメント)生活者のコンテクストを考えて、適切にメッセージを送ろうとする。




ブランドを分散学習してもらった方がいい

人間の学習・記憶プロセスの解明とモデル化をテーマに研究活動している中部大学教授、水野りか氏は『学習効果の認知心理学』(https://www.amazon.co.jp/dp/4888488142/)の中で、「分散学習」の方が「集中学習」より効率的な学習法だとしている。 期末試験前日に、集中して徹夜。試験終了と同時に、すっかり忘れる。私は、そういうタイプだった。あの「集中学習」は、脳のメカニズム的にダメなのだ。まぁ、誰もが合点のいく話だろう。


ニューヨーク・タイムズ紙サイエンスレポーター、ベネディクト・キャリー著『脳が認める勉強法 ――「学習の科学」が明かす驚きの真実! 』(https://www.amazon.co.jp/dp/447802183X/)でも、同様の記載がある。


「このテクニックは、分散学習や分散効果と呼ばれている。一気に集中して勉強するのと、勉強時間を『分散』するのとでは、覚える量は同じでも、脳にとどまる時間がずっと長くなるのだ。(中略) 今日少し勉強し、明日また少し勉強したほうが、一度に全部するよりいい。そのほうがはるかにいい。場合によっては、後から思い出す量が2倍になることもある」
(『脳が認める勉強法 ――「学習の科学」が明かす驚きの真実! 』より引用)


さて、あなたのブランドは、生活者から「分散学習」してもらっているだろうか? マス広告やプレゼントキャンペーンなどは、年間を通じてずーっと実施されることは稀だ。どちらかといえば、短期的「集中的に」投下されるイメージだ。


それはそうなると思う。生活者をテレビの前に座っている「静的な」固定された的だと思って、一点を目がけて弓で矢を放つ。そのイメージは、どうしても集中投下と相性が良い。打ち上げ花火的で、大きなのを1発、ボーンと打って目立ちたくなる。 でも、的を狙っているつもりでも、的外れなのだ。だって、「集中学習」の効果は低いのだ。一過性で盛り上がって、忘れ去られてしまう。あなたのブランドは、同じ失敗をしていませんか?




このタイミングで、さとなお、すごい

元電通の著名クリエイティブ・ディレクター、佐藤尚之氏(さとなお)は『ファンベース — 支持され、愛され、長く売れ続けるために』(https://www.amazon.co.jp/dp/448007127X/)という本をこの2月に出した。さすが!業界の第一線で長く活躍している人は違うな、と思った。このタイミングで、つまり、「宣伝部」という看板をおろす大手クライアントが出てきたタイミングで、その第一章のタイトルが「キャンペーンや単発施策を、一過性で終わらせないために」だ。


単発施策、点で攻めてはいけない。長期的に点と点を線にして顧客体験を管理し、「ファンベース」を作っていく。それをカスタマー・エクスペリエンス・マネジメントと呼んでもいいし、佐藤尚之氏のように「ファンベース・マーケティング」と呼んでもいい。


一点集中ではない、単発キャンペーンではない、打ち上げ花火ではない。だって学習効果が悪いからね。すなわち、複数の点をつないで(connected)線にして「動的な」(active)生活者とのつながり(connected)を前提にし、短期集中ではなく(decentralized)、時間をかけて分散した(distributed)施策を継続的に実施する。その結果、「ファンベース」という顧客のかたまりを作る(clustered)。その「動的な」かたまりを「ハブ」としてファン以外の人たち、ある意味で、ブランドからみると末端の「ノード」的な人たちとつながっていく(node/hub)。


これがうまく機能すると、好循環が生まれてグルグルと回り出す。循環型の「始まりも終わりもない(no-start/no-end)」のような情報伝播が可能になる。それはテレビの場合のように、放送局が情報発信の「始点」で、家庭のテレビ端末が情報の流れの「終点」になって、結果的に、一方向になるようなコミュニケーションではない。この仕掛けに、つまり、ファンベース施策を軸に、短期・単発施策を組み合わせていく事ができれば、開放的で解放的(open/liberal)なコミュニケーションを実現できる可能性が高まって、たくさんの人にグルグルと情報が開放されてリーチできるようになっていくのではないか?




ライオンの嗅覚は「リゾーム」を嗅いだのだ

私は先日、MarkeZineの連載で、「リゾームマーケティング」「リゾーム化社会」という言葉を使った。


 AI、ロボティクス、IoT、音声認識……テクノロジーの進化が止まらない。ソサエティー5.0という言葉も生まれるなど、社会のあり方が急速に変わりつつある。その中で企業...


できれば記事に一度目を通していただきたいのだが、佐藤尚之氏の「ファンベース」もカスタマー・エクスペリエンス・マネジメントの動きも、社会がリゾーム化するからこそ、起こっている事象だと考える。私が考える「リゾーム」の特徴、あるいは、「リゾーム化社会」の特徴、それは、以下の7つだ。


1「つながりがある(connected)」
2「動きがある(active)」
3「中心がない(decentralized/distributed)」
4「ノードがある、ハブがある(node/hub)」
5「かたまりがある(clustered)」
6「始まりも終わりもない(no-start/no-end)」
7「開放的で解放的(open/liberal)」


私の勝手な理解では、佐藤尚之氏はご自身の仕事を通じて、「大衆化社会」が「リゾーム化社会」に変容している事、それを本能的に直感的に分かっているのではないだろうか。 また、ライオンの話でいえば、「宣伝部」という呼称は、マスマーケティングの時代、つまり、「大衆化社会」のものだった。それは「リゾーム化社会」に変容しつつあり、そして「マス(塊)」という大衆は、つながり動く「リゾーム(根茎・地下茎)」という対象に変わった。


「マスからリゾームへ」。ライオンはこの時代の変化を敏感に察知し、「宣伝部」を廃して「コミュニケーションデザイン部」として新しく生まれ変わった。そして「CXプランニング室」を新設した。百獣の王の嗅覚は、鋭いのだ。

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