カンヌ・ライオンズは、広告業界の内輪の賞か? 白雪姫の「魔法の鏡」か? 「表現の自由」の祭典か?

その魅力は世界中の人々を惹きつける

そして、カンヌ・ライオンズの「魔法の鏡」の力は、広告クリエイター以外にも波及し、世界的な著名人をも引き寄せてしまう。その結果、その登壇者の顔ぶれも豪華になる。

たとえば、冒頭に取り上げた Ban Ki-moon 国連事務総長が登壇するかと思えば、ハリウッドスターの Will Smith、BBCの「HARDtalk」で司会を務めるStephen Sacker、CNNの「360°」のアンカーである Anderson Cooper、CNNの「Parts Unknown」のホストの Anthony Bourdain、そして、オスカー受賞歴のある映画監督の Oliver Stone などなど、他にも多数の著名人が集まってくる。

私は、このようなセミナー登壇者の顔ぶれを見たとき、「あ、これは、「表現の自由」のお祭りなんだなぁ」と思った。ここにエントリーしてくる作品の面白さと同時に、この多方面にわたる「表現の自由」に関わるビジネスをする人たち。

このイベントの中心にある価値は、「表現の自由」以外には思いつかなかった。

私は幸いにして、Will Smith、CNNの Anderson Cooper と Anthony Bourdain、そして、Oliver Stone のセミナー会場に入ることができた。それぞれ、超満員だったため、長蛇の列に並んで席を取った。

Will Smith がゲストとして登壇したセミナーは、インタビュー形式で話が進められた。Will Smith の話はその内容もさることながら、純粋にトークショーとして最高に面白かった。自分としては、これまでで一番面白い(笑った)内容で大いに楽しませてもらった。そして、聞いた後の感想は、「想像以上に、よく考えている人なんだ(失礼ながら)」と思った。

Will Smith は、彼の娘との旅行の話などプライベートなオリジナルの話題をしながら、聴衆をとにかく笑わせつつ、いつの間にか、マーケティングの話をしていた。

2-Will_Smith

Will Smith 自身が商品であり、映画などの作品を通して、彼自身を売り込む、つまり、マーケティングしてきたことが伺えた。その際に「People」(消費者)をとても意識して大事にしてきたことがよく分かる話だった。

消費者が求めているものを考慮しつつ、自らの Originality (独創性)を発揮することを重視している感じだった。さすがに、世界的なスーパースターになるには、色々なことを考えているんだなぁ、と感心した。

CNNの Anderson Cooper と Anthony Bourdain のセッションでは、様々な取材先でどのようなことに注意しているかという話が私の興味を引いた。

特に、Anderson Cooper が地震などの被災地でレポートする際に「ジャーナリズムというか、素直にありのままを表現する」という話をしたのが印象的だった。Anderson Cooper はセッションの中で、「ジャーナリズムじゃないんだよなぁ」という趣旨のことを2回言ったと思う。そして、ジャーナリズムというよりも、自分の心で感じたことを、Real (現実をそのまま)に伝えることにこだわっているようだった。

3-CNN

Oliver Stone の話は、エドワード・スノーデンを主人公にした映画を近日公開するようで、まるでその映画の宣伝なのか?と思わせる内容だった。

が、しかし、Oliver Stone の言いたかったことは、Truth(真実)に迫る表現にこだわるということだろう。映画なので、ときには大げさな表現をしたり、面白い演出をしたりはするけれども、リアリティのある作品にすることを意識していると話していた。そして、Truth(真実)が持つ力、Truth(真実)を暴く表現を信じて生きてきた Oliver Stone の信念を感じるセッションだった。

4-Oliver_Stone

この Will Smith、CNNの Anderson Cooper と Anthony Bourdain、そして、Oliver Stone の話を聞いた後で、UNIQLO / Fast Retailing の President of Global Creative である John C Jay という人の話を聞いた。私は知らなかったのだが、Nike の「Just Do It」キャンペーンなどを手がけた有名な人らしい。

Be authentic

John C Jay は、彼のセッションの最後に若いクリエイターに向けて「10 lessons for young designers」というのを紹介してくれた。彼は、この一番最初に「1. Be authentic.」を掲げている。

5-John Jay 10 lessons

– Be authentic. The most powerful asset you have is your individuality, what makes you unique. It’s time to stop listening to others on what you should do.

じつは、この「Authentic」や「Authenticity」という言葉を、このカンヌで繰り返して聞いた。

この John C Jay 以外の人も頻繁に使った単語だ。「Authentic Food」などのフレーズでよく耳にしていた単語だったので、「本物の」「本物のような」ぐらいの意味だろうと思っていたのだが、本当に何度も使われていたので、改めて辞書を引いてみた。

「Longman Dictionary of Contemporary English」によると、「authentic」の意味は「done or made in the traditional or original way」、「authenticity」は「the quality of being real or true」とあった。

この意味を確認して私は、ハッとした。

つまり、「Authentic」とは、「Original、Real、True」というのがキーだと思うのだ。

Will Smith の話は、その Originality(独創性) で厳しいショービジネス業界を生き抜いてきた経験談を面白おかしくマーケティング的な視点で語ったものだった。

CNNの Anderson Cooper は、自分の心で感じたことを Real (現実をそのまま)に伝えることの重要性を語った。

Oliver Stone は、Truth(真実)に生涯をかけている感じだった。

カンヌ・ライオンズの主催者は、「Authentic」を意図してゲストを呼んだのだろうか。こんなに綺麗に並ぶものだろうか。

「表現の自由」の祭典、それは、Be Authentic

そして、私は、「Authentic」とは、「表現の自由」の別の謂であると思った。

第二次大戦中の日本やナチスドイツのような全体主義国家では、自分に忠実に Originality を発揮することはできないだろう。国家全体の方針に沿わない表現、つまり、個人の Original な思いを隠すことなく表現することは、検閲の対象になりかねない。Real (現実をそのまま)に伝えることも難しいだろう。Truth(真実)を暴くこともできそうにない。

このカンヌ・ライオンズが「表現の自由」の祭典であると私が直感した理由は、広告業界が「Authentic」な表現、そして、「Authentic」なクリエイティブを大事にしているからではないか。

「表現の自由」がなければ、「Authentic」になれないし、面白い広告表現もできなければ、革新的なクリエイティブもできないだろう。

そうか、そういうことか、と思った。「Be Authentic. Just Do It!」と、John C Jay から言われている気がした。

さらに、John C Jay は、「Be friends with data and technology.」として、クリエイターにもっとデータとテクノロジーを重視して欲しいと訴えていた。

6-John Jay_2

データからは、消費者のインサイトを読み取ることができる。だから、もっともっと制作過程で活用すべきだという主張だったと思う。そして、テクノロジーを駆使して様々な新しい表現にチャレンジすることを推奨しているようだった。

このようなデータ、あるいは、テクノロジーに関する話は、今回のカンヌでもかなり取り上げられていた。今回は特に、AI(Artificial Intelligence)やVR(Virtual Reality)、AR(Augumented Reality)に関するセッションが多かった。たとえば、Googleがホストした「Adventures in Virtual Reality」というセッションなどが行われていた。

本当にクリエイティブな人間とは?

これは、デジタル化が進む世界の流れを反映しているという側面もあると思う。先ほど書いたようにカンヌ・ライオンズは世界を映す「魔法の鏡」だからだ。

ただ、優秀なクリエイターは新しい表現を追求しているからこそ、自然と新しいテクノロジーに敏感になるし、データの中に埋もれる新しいインサイトを抽出してしまう習性があるのだと思った。

つまり、それが本物のクリエイターの性なんだろう。John C Jay の話を聞いて改めて思ったのだが、本当にクリエイティブな人間は世界に対して敏感なんだと思った。

データやテクノロジーにも敏感だし、社会的な問題にも敏感だ。そして、それらを対象にして、グローバルに通じる普遍的な価値を介して「Authentic」に表現する。そして、私たちの心を動かしてしまう。

そんなクリエイターたちを映し出す「魔法の鏡」が「Cannes Lions International Festival of Creativity」だ。

そして、その背後には「表現の自由」を軸にした人類の普遍的価値「自由・平等・友愛」を背負う業界としての自負やプライドが見え隠れしていた。

「表現の自由」の祭典であり続けるだろう

この「Cannes Lions International Festival of Creativity」は、おそらく、これからも「表現の自由」の至高の祭典であり続けるだろう。

人類の普遍的価値「自由・平等・友愛」を大事にし続けるだろう。なぜなら、グローバル・ブランドがそこにアイデンティティを求めるからだ。

そして、電通や博報堂をはじめとして、日本からも数多くのクリエイターが今後も挑戦するだろうし、もちろん、世界中のクリエイターが挑戦し続けるだろう。なぜなら、「表現の自由」を軸とした世界を映す「魔法の鏡」の力が、とてつもなく魅力的だからだ。

これが、初めて参加した私の感想だ。私自身も非常に刺激を受けた。来年もぜひ、参加したい。

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