2030年地デジの社会的役割は終わる:Netflix CEOの予言と5Gモバイルの衝撃

放送は何のためにあるんだろうか?

ところで、放送法は、「第三章 日本放送協会」の第十五条で以下のようにその目的を規定している。

(目的)
第十五条  協会は、公共の福祉のために、あまねく日本全国において受信できるように豊かで、かつ、良い放送番組による国内基幹放送(国内放送である基幹放送をいう。以下同じ。)を行うとともに、放送及びその受信の進歩発達に必要な業務を行い、あわせて国際放送及び協会国際衛星放送を行うことを目的とする。

これは、日本放送協会(NHK)の目的であるが、ここにある「あまねく日本全国において受信できるように」という点については、いわゆる民放テレビも同様らしい。

これまで仕事でお付き合いのあったテレビ局の人々からは、放送と通信(あるいは、インターネット)の違いとして、「あまねく日本全国において受信できる」サービスを提供しているのが放送の特徴であり、インターネットのようにインターネットに接続できる人にしか提供できないサービスとは異なるという話を聞かされてきた。

日本全国であまねく4K・8K映像を5Gモバイルで享受できるようになるとすれば、日本放送協会(あるいは、民放テレビの)の目的である「あまねく日本全国において受信できるように」豊かで良い番組を提供する役割は、AbemaTVなどのインターネットTVでも担えることになるのではないか。

そして、地上デジタルテレビ放送よりも高精細で綺麗な映像を5Gモバイルで流せるようになってしまうと、2Kしか流せない地上デジタルテレビ放送の存在意義がますます不明瞭になってくる。

また、通信(あるいは、インターネット)に比較して放送がすぐれている点として、不特定多数の人々が同時にリアルタイムに同じコンテンツを受信できることが挙げられる。

たとえば、1億2000万人が同時に集中して同じ動画を鑑賞するとしたら、おそらく、その動画コンテンツを提供するサーバーがその1億2000万人からのアクセス負荷に耐用できず、ダウンしてしまうことが想定される。放送の場合には、そのようなことは起こらないという話だ。

もちろん、Google や Yahoo! Japan、あるいは、YouTube などのサービスには大量のアクセスが毎日あるにもかかわらず、アクセスが集中してダウンしたというニュースは最近ではほとんど聞かない。大量のアクセスが発生した場合に、それを分散処理する技術、あるいは、ネットワークやサーバーの高負荷への耐用性や堅牢性も年々アップしているのは間違いない。

【5Gモバイルの破壊的な技術】

5Gモバイルは、これからのIoT(Internet of Things)の時代に対応した技術になるようだ。つまり、大量のデータが大量のデバイス間で相互にやり取りされるシステムを構築する。しかも、これまでよりも安定して、正確に、利便性もずっと高くなる見込みだ。

5GPPP( The 5G Infrastructure Public Private Partnership)という組織がヨーロッパで2013年に発足した。欧州委員会(EC:European Commission)が、第5世代(5G)携帯電話ネットワークの実現に向けて作ったコンソーシーアムのようだ。

5GPPPの資料「5G Visionには、「5G disruptive capabilities(5Gの破壊的な能力)」という項目で次のように書かれている。

5G will provide an order of magnitude Improvement in performance in the areas of more capacity, lower latency, more mobility, more accuracy of terminal location, increased reliability and availability. 5G will allow the connection of many more devices simultaneously and to improve the terminal battery capacity life.

つまり、5Gは、これまでの技術に比べて、圧倒的にパフォーマンスがよくなる。そのデータ容量もずっと大きく、データ伝送の遅れが少なく、これまでよりも移動性に優れていて、位置情報ももっと正確で、信頼性と利便性もずっと高まる。もっと多くのデバイスが同時に接続することもできるし、個々の端末のバッテリーも長持ちするようになる、という感じだ。

もう少し具体的に要点を分かりやすく言うと、

・2010年時と比較して1000倍の通信容量
・2010年時と比較してエネルギー消費量を10分の1に
・データ送受信停止時間( zero perceived )が感じられないような安全で信頼性の高いインターネットサービスを提供
・70億人以上が利用する7兆デバイス以上が接続する無線通信リンクの展開促進
・誰でもどこでもアクセス可能なユニバーサルで低価格なサービス
・Internet of Things(IoT)のプラットフォーム

5GPPP_x1000
(参照:「5G 第5世代移動通信システム 最新情報 東京オリンピック 世界に先駆けて実現へ」)

という感じになる。

まぁ、要するに、世界中の70億人が7兆デバイス以上で接続してきても耐えうる無線通信で、それは、IoTのプラットフォームになるということだ。

5Gモバイルは普及するのか???

さて、5Gモバイルが日本では2020年に実現して、ものすごいサービスになっていて、地上波デジタル放送を上回る技術的な優位性を持っていたとしても、結局、そのサービスが普及しなければ意味はない。

5Gモバイルは果たして、普及するのだろうか?
5Gモバイルは普及しないというシナリオもあるだろう。もちろん、あっという間に普及してしまう可能性もあるかもしれない。

先ほどの日経電子版の記事にあったように、内閣府の発表では2015年度のスマホの普及率は、67.4%(前年度比6.8ポイント増)だ。

また、総務省の資料で、平成26年度(2014年度)のインターネットの普及率を見ると、13歳〜59歳までの各世代別の数字は、すべて90%以上になっている。60歳〜69歳は75.2%、70歳〜79歳は50.2%だ。

internet-usage

59歳までの世代には、インターネットは「あまねく」日本人に普及していると言ってもいいのかもしれない。

その一方で、若者のテレビ離れがよく話題になるようになった。
内閣府の「消費動向調査」の数字をもとに、「ガベージニュース」がグラフ化している。

colorTV-usage

それを見ると、40歳代以下の単身世帯では、普及率が90%未満になっている。

また、NHK放送文化研究所の調査では、テレビを「ほとんど、まったく見ない」と回答した人が2015年に、20代で16%、30代で13%になっている。

NHK-away-TV

さらに、東京大学大学院情報学環の橋元良明教授の資料では、10代テレビの視聴時間が2005年に149.6時間だったのに、2015年には72.6時間と半減している。また、20代テレビの視聴時間も、2005年に162.8時間に対して2015年は111.3時間と大幅に減っているようだ。

TokyoUniv-away-TV

また、総務省の調査では、デジタルテレビをインターネットと接続している(つまり、結線されたテレビ=connected TV)世帯は23.9%(平成26年末=2014年末)ということだ。

connectedTV_JP

さて、このようなデータをみて、皆さんは、どのようなシナリオが最も妥当だと思うだろうか?

今後、テレビをインターネットにつなぐ世帯は増え続けるのだろうか?
それとも、増えないのか?

今後、スマホの普及率は67.4%からさらに伸びるのだろうか?
それとも、もう頭打ちなのか?

今後、若者のテレビ離れ、あるいは、日本人のテレビ離れは加速するのか?
それとも加速しないのか?

そして、果たして、5Gモバイルが実現したら普及していくのか?

さまざまなシナリオがあり得ると思う。

放送から通信に舵を切ったのか?

先日、一般社団法人放送サービス高度化推進協会(A-PAB)の2016年度第2回講演会(2016年6月15日実施)で、「テレビ/放送事業者の皆さまへの10のご提言 〜これからのトレンドを見据えて〜」というタイトルで講演したのだが、そのご縁で、会場に来ていた放送業界の方のご意見を何人か聞いてみた。その中には、次のような意見もあった。

「総務省の中にも、放送行政をやっている人もいれば通信行政をやっている人もいて、いろんな立場や意見があると思うけど、最近の動きを見ていると、放送から通信に移行する方向に舵を切ったんだろうなと感じるんですよ。残念だけど。」

2020年を目指して、世界に先駆けて5Gモバイルを実現し4K・8K映像に対応する。東京オリンピック・パラリンピックを最高の舞台と捉えて、世界に向けて日本の技術力の高さを示すショーケースにしたいと思っているのではないか?とのことだった。

また、2Kの地上デジタルテレビ放送は、4K・8K対応のテレビ端末を購入しない人向けに、しばらく残しておく必要がある。

衛星放送やインターネットTV、あるいは、5Gモバイルが4K・8K映像に対応したとしても、すべての人がすぐに4K・8Kサービスに移行する訳ではないだろう。なので、2Kの地上デジタルテレビ放送は4K・8Kに買い替えない人向けの抑えとして必要なんだという話もあるらしい。

ところで、ある放送業界の人は、NetflixのCEO、Reed Hastings の予言は、「日本には当てはまらないとは言い切れないのではないか?」と語った。つまり、2025年〜2035年ぐらいの間に、4K・8K映像と5Gモバイルが普及してしまうと、地上デジタルテレビ放送は不要になるかもしれない、と。

「デジタル教科書」世代がカギを握る

私自身は、2020年までに全国すべての小・中・高校に無線LANが導入されることがキーになるような気がする。

たとえば、2020年までに全国すべての小・中・高校に無線LANが導入されるとしよう。それが総務省の予算で(国の補助金で)5Gモバイルに対応してくるとする。そうすると、学校では4K・8Kで「デジタル教科書」を使うことになる。

そのような環境で育った子供達は、2Kのサービスに戻るだろうか?

たとえば、2020年に10歳の子供がタブレット端末やスマホに慣れ親しんで、そして、4K・8K対応ディスプレイの映像クオリティに目が慣れてしまうとする。それが、そのまま成長して、10年が経過して彼らが20歳になる。つまり、2030年だ。

2030年。
この20歳になった「デジタル教科書」世代は、4Gモバイルのスマホを買うのだろうか。いや、当然、5Gモバイルを買うのではないか?

もしかしたら、その頃には6Gモバイルになっているかもしれない。そして、おそらく、自宅のWiFiも、5Gモバイルになるのが自然だろう。当然、4K・8K対応のテレビ端末を使っているのは、言うまでもない。

「デジタル教科書」世代にとって、地上デジタルテレビ放送の役割は何なのか?

2030年。
地上デジタルテレビ放送の社会的役割は何なのだろうか? 「デジタル教科書」世代にとっては、過去のものになっているのではないか?

今後、若者のテレビ離れ、あるいは、日本人のテレビ離れが加速するとしたら、地上デジタルテレビ放送は「あまねく日本全国において受信できるように」放送するという目的、社会的役割を果たせるのだろうか?

皆さんは、どのようなシナリオが妥当だと思うだろうか?

もちろん、5Gモバイルが実現しないという可能性も否定できない。一般家庭には手が出ないほど高価なサービスになって普及しない可能性もあるかもしれない。

未来のことは何が起こるかわからない。予断は許されるべきではないだろう。
いずれにしても、今後、4K・8K、そして、5Gモバイルがどのように発展し普及していくのか、あるいは、普及しないのか?

2020年に向けての5Gモバイルの動向、そして、その後の10年、2030年ごろまでに、地上デジタルテレビ放送はどうなっていくのか?
Netflix のCEO、 Reed Hastings の予言は当たるのかどうか?
総務省の動きやNTTDoCoMoなど主要なプレーヤーの動向を注視していきたいところだ。

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