ブランドサミット2016レポート:the Connected Age には、より戦略的で活発な議論を!

テレビ朝日が初参加した

さて、今年のブランドサミットの概要やプログラムについては、ウェブサイトを見ていただければ分かるので、ここでは、今回参加して私が感じたことや学んだことを書いてみたい。

まず、最初に特筆したいのが、テレビ朝日から5名も参加していたことだ。正直にいって、驚いた。そして、時代の変化を感じた。

じつは、テレビ朝日の知人から「今年から参加します」という話を聞いていたのだが、5人も送り込んでくるとは思っていなかった。1人や2人だったら、ちょっとネットに詳しい風変わりな社員がいて個人的な興味で参加したと考えてもいい。

でも、5人というのは組織的な決済がきちんとなされている規模だろう。テレビ朝日の意気込みを感じた次第だ。主催者の Comexposium Japan の話によると、いわゆる東京のキー局5社の中では、テレビ朝日が最初の参加らしい。

ブランドサミットではデジタルマーケティングやアドテクノロジーの話を中心に扱ってきたので、テレビ局にとっては縁遠いイベントだと考えがちであるが、完全に時代が変わったんだなと痛感した。

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AbemaTVなど先進的な取り組み

テレビ朝日は、テレ朝動画をやっているが、それに加えて、テレビ業界としては革命的なサービスである「AbemaTV」をこの春に開始した。インターネットTVの分野で他のキー局よりも一歩先を行っている感じだろうか。

また、民放公式テレビポータル「TVer」も昨年秋に始まっており、当然、テレビ朝日もTVerに参加している。そのため、これらのインターネットTVで流すCM枠を商品として持っている。そのサービス紹介、広告商品紹介などをブランド広告主に対して行い、セールスリードを獲得する目的で参加したようだ。

もう一つ驚いたのは、「favclip AD」というアウトストリーム型の動画広告アドネットワークを開始したと発表していたことだ。

詳しい話を聞く時間が取れなかったので詳細については次の機会に書きたいと思うが、「favclip」というサービスがあるらしく、「ちょっとコア」なジャンルの最新ニュースやコラム、動画コンテンツを提供しているようだ。これを使って、動画広告アドネットワークを展開するらしい。これ、ネット系のベンチャー企業の話じゃない。くどいようだが、テレビ局が、あのテレビ朝日が、動画広告アドネットワークをやる、というのが自分にはとても衝撃的なのだ。

また、テレビ朝日は、テレビ番組とCM、そして、SNSやウェブサイト、YouTubeなどの動画サービスなどを連携した企画にも力を入れ始めているようだ。私自身も縁あって企画段階で支援した番組「#モデる」プロジェクトについても、テレビ朝日が今回のブランドサミットのブースで紹介していた。

「#モデる」プロジェクトの詳細は、「コメ兵が仕掛ける、Dual AISAS Model® を活用したテレビxSNS連動プロジェクトの全貌」を見ていただきたいのだが、このような番組企画が成立する背景には、テレビ朝日がテレビ局にありがちな編成や制作、営業の垣根を超えて、会社全体としてデジタルに積極的に取り組んでいく意志を持っているからではないか。そうじゃなければ、このような番組企画が編成会議を通るのは難しいだろう。

テレビ朝日が全社的にデジタル対応し始めた!?

ブランドサミットの話からは少し脱線するが、この東京のキー局の一つであるテレビ朝日が全社的にデジタルに本腰を入れ始めているという事実は非常に重要な変化だと思う。

私と同じような感想をサイバーエージェント藤田晋社長も感じているようだ。「スマートフォンでマスメディアはつくれるか?〜AbemaTVについて、サイバーエージェント藤田社長にインタビュー〜」(有料会員制の記事)という記事がある。

ここで、AbemaTVに対するテレビ朝日の姿勢について、「テレ朝のスペシャルチームというよりは、全社あげて取り組んでくれています。出向してきてくれている人もいますが、関係部署の人もみなさんでAbemaTV体制組んでくれている」という手応えを藤田さんが自ら述べている。

他のキー局も参加して欲しい

今回のテレビ朝日の初参加が他のキー局を触発し、キー局5社すべてが参加してくれるようになれば、日本のマーケティング業界/広告業界の発展に役立つと思う。

既存のテレビCMとインターネットテレビCM、そして、その他のデジタル広告、マーケティングツールなどが有機的に連携したブランディングやマーケティングをおこなうには、マス広告側の知見も必要だし、もちろん、デジタル側の深い知識も必要だ。

特にテレビは依然としてメデイアの王者である訳なので、テレビ局が60年以上の歴史の中で積み上げてきた映像コンテンツに関する知見を踏まえて、デジタル側の人間とディスカッションすることによって、マスとデジタルが連携した効果的な施策を生み出していく一助になるのではないか。放送と通信の融合、マス広告とデジタル広告の融合、それは、テレビ業界の人間とデジタル業界の人間の融合によって生まれるはずだ。

さて、次に取り上げたいのは、今回もキーノートスピーチはとても素晴らしいものだったことだ。これは、ad:tech Tokyo も同様だが、主催者の Comexposium Japan が連れてくるスピーカーは本当に時代の最先端の課題を反映した選定になっていて、キーノートを聞くだけでも十分に価値がある。

R/GAのAgency Accelerator

その中でも、今回は、R/GAの Jay Zasaさん(SVP, Executive Creative Director, Campaigns)の「Designing an Agency for the Connected Age(すべてが”つながる”時代のエージェンシーのあり方)」が素晴らしかった。

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R/GAについては多くの人が知っていると思うが、いま世界で最も注目れているインタラクティブ・エージェンシーだ。

今回の Jay Zasa さんのスピーチでは、Agency Accelerator について紹介されていた。

これは、昨年のカンヌライオンズでも話題になった。

R/GAが 鮮やかに指し示した 次世代 エージェンシー像」(有料会員制の記事)などの記事で、R/GAの創設者/Chairman/CEOである Bob Greenberg のことを知っている人も多いだろう。

また、「the Connected Age」の背景にはやはりIoT(Internet of Things)がある。R/GA Acceleratorの「IoT Programs」についても、ご存知の方が多いと思う。

Jay Zasaさんは、Agency Accelerator を「Communication」 「Products/Services」 「Business Transformation」の3つにわけて紹介した。「Products/Services」の事例として Nike+ を取り上げたほか、「Business Transformation」の事例として Los Angeles Dodgers を、そして「Communication」の事例として、Beats と Samsung のケースについて話した。

Whole IdeaとR/GAの仕事

これらの個別の事例の詳細については触れないが、R/GAの仕事に共通する特徴的な視点として、Whole Idea を重視していることを紹介していた。Jay Zasaさんの説明によれば、伝統的な広告やマーケティングで重視されるトップダウンの Big Idea と、ボトムアップの視点で消費者の動きや声を分析する Digital Tactic、そして、その両方のアプローチを組み込んでいるのが、Whole Idea とのことだった。

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この Whole Idea を日々の仕事の中で実践するにあたって、R/GAのスタッフが意識していることとして、次の3つを挙げていた。

1:Advertising is not everything
2:Storytelling is still alive and well
3:Connecting your businesses can transform it

「1:Advertising is not everything」は分りやすいと思うが、すでに10年以上前からメディアニュートラルという概念が叫ばれ、いわゆるマス広告中心のコミュニケーションではなくすべてのメディアをニュートラルに捉えてコミュニケーションプランニングする必要があるということは日本の多くの広告関係者が理解していると思う。

R/GAはさらにその先を実践している。メディアニュートラルを過去のものとして、広告媒体だけをメディアと考えているのではなく、広告媒体以外も含めて「everthing」を対象にコミュニケーションプランニングしているということだ。IoT時代、あるいは、「the Connected Age」のコミュニケーションのあり方の基本として、このコンセプトを位置づけているようだった。

少し脱線するが、5月25日の Master Track で行われた Twitter Japan のプレゼン「How to generate buzz from marketing on Twitter with an MAU of 35 million」で、「Twitterはあらゆる瞬間をつなぐ「橋」である」という話を渡辺英輝さん(Twitter Japan, ヘッドオブブランドストラテジー)がしていた。ここでいう、「あらゆる瞬間をつなぐ」とは、広告媒体だけに閉じた世界ではなく、まさにすべての事象を対象にしてユーザーがつぶやく情報が Twitter に反映されてくるという意味だ。

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したがって、Twitter社が意識していることも、R/GAのいう「Advertising is not everything」に非常に近いものだと感じた。業界のトレンドは当然、この方向に向かっているということだろう。

「2:Storytelling is still alive and well」は、そのような「the Connected Age」には、Digital Tactic に目を奪われがちである。

当然のこととして、Digital Tactic は重要であり、すべての広告関係者が体得すべきものであるが、しかしながら、伝統的なトップダウンの Big Idea から生まれる Storytelling は引き続き不可欠なものであり、「still alive and well」だ。つまり、Storytelling は、いまでも効果的だし(still alive)、よく機能する(well)。

そして、「3:Connecting your businesses can transform it」は、これからの企業の生き残りのために非常に重要なコンセプトだと思った。

この話を聞いてすぐに思いついたブランドはまず、Netflix だ。Netflix は創業当初はDVDレンタル事業者だった。それが、いまは世界最大のストリーミング配信事業者だ。多くの人が知っていると思うが、Netflix は自社のもついくつかの事業やサービスをうまく組み合わせて(Connecting your businesses)、世界最大のストリーミング配信事業者として変革を成し遂げた(can transform it)。

また、富士フイルムもその好例だろう。私の知る限り、2005年ごろまでは写真フィルム事業者だったが、デジタルカメラの普及によってそのままでは生き残りが難しくなった。そこで、写真フィルム事業や関連する精密科学事業の R&D で培った成果を応用して、化粧品事業や健康食品事業に乗り出している。「Connecting your businesses can transform it」という訳だ。

R/GAの次のチャレンジ、Interactive Storytelling

Jay Zasaさんはプレゼンの最後に、「What’s Next for us」として、いまR/GAが取り組んでいる3つのチャレンジを挙げた。

「1:Interactive Storytelling」
「2:Campaign Systems – Media is Creative」
「3:Connected Spaces」

この3つのチャレンジはどれも野心的でR/GAの先進性とその意識の高さを表していると思うのだが、私が特に共感したのは、「1:Interactive Storytelling」だ。

この「1:Interactive Storytelling」は、「Data Driven Creative」と言い換えてもいいと思う。ちなみに、「データ ドリブン クリエイティブ」は小霜オフィスの登録商標だ。小霜オフィスは、博報堂から独立した小霜和也さん(クリエイティブディレクター/コピーライター)が作った会社だ。

小霜さんとは一緒に仕事をしたことがあるのだが、おそらく、彼の目指しているところは、R/GAのいう Whole Idea を作って Storytelling を実践し、かつ、データに基づいて、その効果を把握しながら、あるいは、消費者の反応を確認しながら、Story を変更したり、微調整したりすることだと思う。

Jay Zasaさんが話していることも、ほぼ小霜さんと同じ考えだった。リアルタイムで消費者の反応がわかる時代、つまり、「the Connected Age」になればなるほど、このような消費者の声を反映した「Interactive Storytelling」の実践が重要になるだろう。

ところで、小霜さんが書いた本「ここらで広告コピーの本当の話をします。」は、広告業界のみならず、すべてのビジネスパーソンが読んでもいいぐらい素晴らしい内容の本に仕上がっている。ぜひ、一度、手にとってみて欲しい。

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