2023年テレビCM崩壊 ー 博報堂生活総合研究所の暗示

オリンピックはテレビの分水嶺だ

とくに、2020年の東京オリンピック開催が決まって以降、よく聞くのは、「オリンピックまでは大丈夫だ」という話だ。「アベノミクスと東京オリンピックで、景気の上昇傾向が2020年までは続くだろう。そう考えると、テレビCMが崩れるようなことは考えにくい」と。

ただし、「オリンピック以降は分からない」という話も聞く。
そして、このオリンピックを境にして、テレビが大きく変わるのではないか、と考えている人も多い。

ここでいう、テレビが大きく変わるとは、スマートテレビ化するということを指している。
総務省は、「スーパーハイビジョン(4K・8K)とスマートテレビを一体として普及」させることを考えているようだ。

歴史的に、オリンピックの年に合わせてテレビの買い替え需要が増加する傾向がある。
たしか、1964年の東京オリンピック前にメーカーがカラーテレビの宣伝に力を入れ始めてカラーテレビが普及したと記憶している。
同様のアナロジーで考えると、2020年の東京オリンピックに向けてスマートテレビやスーパーハイビジョンの宣伝に弾みがつき、2020年を境にして一般家庭に普及すると総務省は考えているのだろう。

総務省が主導する政策が功を奏すとは限らない。
しかしながら、スマートテレビが普通になる時代は遠くないだろうと感じている。

たとえば、パナソニックの新型テレビ「スマートビエラ」のCMが2013年に放送局から放映拒否された(問題のCMはこちら)。拒否されたことで却って有名になった感もあるが、このようなスマートテレビがさらに進化したものが2020年には普通になるようだ。

スマートテレビ化の話は枚挙に暇がない。
たとえば、アメリカの動画配信「Netflix」が日本進出するというニュースが先日出ていたが、さっそく日本のテレビメーカー各社は対応する。日経電子版(2015/2/12)によると「東芝が12日、ボタン1つでネットフリックスに接続するリモコンを備えた新製品を発表したほか、ソニーやパナソニックも年内をメドに同様の新機種を売り出す」。

また、NHKの「Hybridcast」が2013年9月2日から開始されている。対応端末は現時点では限られているが、民間放送局もこの「Hybridcast」のプラットフォームを採用する可能性もあるらしい。

Apple TVやGoogle Chromecast をスマートテレビと考える人たちもいる。このようなセットトップボックス型やドングル型のスマートテレビも含めると、どのサービスが主導権を握るかは分からないが、スマートテレビ化に進む流れは止められないだろう。

スマートテレビが普及すると、テレビ画面の争奪戦が始まる

英語でConnected TVという単語がある。日本では「結線されたテレビ」と訳される。
インターネットに繋がっているテレビ端末のことだ。この結線率が日本では現在、10%とか20%らしい。

2020年には、結線率が何パーセントになっているだろうか? 仮に50%を超えて来るようだと、テレビCMを柱とする放送局のビジネスモデルは大きな危機に直面することになる、と考える人が多い。

それは何故か?
私の自宅ではApple TVを使っているのだが、Apple TVを導入してから、地上テジタルテレビ放送を見る頻度が格段に落ちた。
つまり、テレビ画面で見ているコンテンツは民放の番組ではなくなったのだ(かろうじて、NHKはたまに見る)。

たとえば、5歳の娘は、Apple TVで「Hulu」にアクセスして、「アンパンマン」「妖怪ウォッチ」などを見ている。
一度、Huluで見てしまうと、普通の地上テジタルテレビ放送には戻れない。
なぜなら、HuluではCMが入らないからだ。CMで番組が中断されるのは嫌いだ、と5歳の娘ですらはっきりという。
つまり、Huluの方がよいらしい。その結果、彼女はほとんど民放の番組を見なくなってしまった。

Apple smart-tv-02

Netflixであれ、Huluであれ、民放と同レベルか、あるいは、それ以上の品質のコンテンツが提供されてしまうと、テレビ画面でみるものは、地上テジタルテレビ放送からインターネットで提供されるものに、簡単に、移行してしまう可能性がある。

これまでは、地上テジタルテレビ放送専用端末だったテレビが、インターネット経由のコンテンツも楽しむためのディスプレイになってしまうということだ。
つまり、テレビ画面の奪い合いが起こる。既存の民放の番組も面白いものは見てもらえるだろうが、面白い番組がなければすぐにNetflixやHuluに切り替えられてしまうのだ。

ボタン1つでNetflixに接続するリモコンを備えたテレビ、あるいは、それと同じようなテレビが、2020年に一般家庭に普及してしまったとしたら、民放の番組はどのくらい見てもらえるのだろうか。

それでも、『テレビCM崩壊』は、そんなに簡単じゃないだろう

このように、2020年の東京オリンピック、そして、スマートテレビの普及によって、テレビ局のビジネスモデルが破綻するという意見もよく耳にする。
しかし、私は、スマートテレビの普及が2020年に起こったとしても、それだけでは、テレビCMの出稿金額はそれほどガタ落ちしないのではないかと見ている。

とくに、2020年は東京オリンピックがあるが故に、広告主企業の宣伝意欲は旺盛な可能性が高い。仮に結線率が50%を超えていたとしても、そう簡単には落ちないのではないだろうか。

広告主企業の宣伝意欲が2020年までは続くだろうという見込みに加えて、そもそもテレビCMの効果をきちんと測定しているケースは少ないという現実もある。測定していたとしても、認知や態度変容までしか計測していない。売上への貢献度まで測っている広告主企業は少ない。かつ、認知効果などもアンケート調査でかなり遅れて分かる程度だ。

つまり、売上に貢献しているか、していないのか、が明確でない以上、「売上に貢献しているはずです」「ブランドイメージの向上に役立っているはずです」という主張を否定する決定的な材料もないというのが現状だ。テレビの結線率が50%を超えてしまって、民放の視聴率が落ちたとしても、そのことが原因で広告主企業の売上が落ちたのかどうかを判断できないということだ。

実際、はっきりと測ってはいないが、ある程度は貢献しているはずだから、会社の経営が順調な時や景気が上向いている時などには、テレビCMに多額のお金を投下すること自体、それほど問題にはならないのだ。

また、景気が順調であれば、大きな失敗など特別な理由がない限り、日本の広告主企業の場合、テレビCMに対して前年度と同程度の金額を予算化する傾向が強いと聞く。

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