三井物産 芹澤さん、南原さんに聞く:Drawbridgeが可能にする人ベースのマーケティング

杓谷:まずはじめに、三井物産さんのこれまでのデジタルマーケティングへの取り組みについて、教えていただけますか。



芹澤 新さん


芹澤:ICT事業本部デジタルマーケティング事業部の芹澤と申します。我々の所属する部署はICT事業本部(Information and Communication Technology)と言い、三井物産にある16営業本部のうちのひとつです。


商社なので、金属資源やエネルギー、鉄鋼製品等のほか最近だとヘルスケアサービスやファッション系などのコンシューマービジネスにも力を入れています。その中でICT分野にも取り組んでおり、我々の部署であるデジタルマーケティング事業部ではこれまでリンクシェアやEfficient Frontier、AOL等を扱ってきました。


弊社のデジタルマーケティングの取り組みとしては、2001年にリンクシェアとの事業を立ち上げ(2005年にJV設立)、2006年にはEfficient Frontier とも提携を結び、日本での展開を行っていました。


私自身はICT事業本部に2008年に入りIT関係の各種ビジネスに携わっていたのですが、中国駐在時にAOLの中国事業(アドコムチャイナ)とローカル企業とのアライアンス支援等に取り組み、そのあたりからデジタルマーケティングの世界にどっぷりと浸かることになりました。


日本に戻ってきてからはAOLと三井物産のJVであるAOLプラットフォームジャパン(現OathJapan)の株主として同社経営支援を主に担当していました。


杓谷:自動入札がようやく当たり前になった今から振り返ると、あの当時すでにEfficient Frontierが自動入札を開発していたというのは先進的でしたね。


芹澤:当時、三井物産と三井物産ヴィクシア(現、ヴィクシア)と共同でEfficient Frontierの本邦展開を行っておりましたが、10年以上前だと考えると非常に先進的でした。


また、2006年に米国Advertising.com(その後、AOLが買収)と三井物産で設立したJVが提供するアドネットワークも当時は先進的でした。当社は2016年9月までAOLとのJVの株主でしたが、設立してから10年の間にAOLのM&A戦略によりDSP、SSP、Videoなど色々なソリューションが日本にも導入されました。


さらに、AOLはカルチャー&コードといって、テッククランチなどのメディア事業から得られるデータを使ってレバレッジを効かせながらプラットフォームでマネタイズしていく両輪戦略をとっており、我々は、Google、Facebookに次ぐ第三極となりうるプラットフォーマーだと期待しておりました。


杓谷:Googleの北米地域のセールスの責任者だったティム・アームストロングがAOLの代表になったことをきっかけに様々な動きがありましたね。アドコムはダイナミックリマーケもありましたし、SSPも非常に強かったなという印象があります。




Drawbridgeと出会ったきっかけ




芹澤:Drawbridgeについては、資本業務提携を行ったのが2017年の7月です。私自身がまだAOLを担当していた2016年2月にはじめてDrawbridgeのCEOと会い、その頃から目を付けていました。



というのもAOLしかりですが、デジタルマーケティング分野では今までCookieだけを追いかけていればユーザーの理解ができていました。ところが、スマートフォンが出てきてデバイスが増えてきたことや、そもそもCookieとアプリは生態系が異なるので、同じデバイスでもそこが紐づけできないといった問題があり、格段にユーザー理解が難しくなったという問題がありました。


その対応策を模索していた時に、Drawbridgeを知り、良いアライアンスパートナーになるのではないかと着眼していました。AOLとも話しながら検討する中でAOLとのJVから撤退することになり、今後我々としても引き続きこの分野に注力したいと思う一方で、完全にアドテクに寄るよりは、マーケティングテクノロジーも一体で取り込めるような領域の方が将来的に伸びるのではないかと思いました。


かつ、ファンダメンタルにエグゼキューションチャネルだけでなく、より、そこの土台になるようなソリューションということで、Drawbridgeが提供するクロスデバイスがいいのではないかと思いました。


特に「人ベースで追える」というのがキーワードになり始めてきた中で、現在のエリアで取り組むのが面白いのではないかと思い、Drawbridgeと本格的に交渉を始め、一緒に日本展開をする運びとなりました。


杓谷:2016年頃からお付き合いがあったわけですね。


芹澤:そうですね。その際にクロスデバイスというキーワードで他の事業者をいくつもあたったのですが、すべて一通り調べたうえで、Drawbridgeに決めました。2017年1月頃からは、本当に日本で市場性があるのかを確認する意味で、資本業務提携を行う前にいくつかの事業者さんと先行的にお話しをし、プレマーケティングを行いました。やはりかなり引きが良く、皆さんクロスデバイス対応が課題なのだなと感じ、日本でもいけるなという確信を持ちました。


杓谷:DrawbridgeのCEOのカマクシ・シバラマクリシュナンさんについて教えてください。


芹澤:彼女はもともとスタンフォードでPHDを取り、そのあと宇宙ロケットのNASAのプロジェクトでエンジニアとして参加していたような人です。彼女がアドモブのデータサイエンティストのヘッドをやっていたのですが、結局アドモブがGoogleに買収されて、しばらくはいたようですが、結局彼女自身クロスデバイスに目を付けて、会社を作ったという経緯があります。


彼女は本当にバリバリのエンジニアなのでテックへのこだわりが非常に強く、彼女の人脈を使いながらデータサイエンティストやエンジニアなどの育成開発に相当なお金をかけているような会社ですね。




三十数億台のデバイス情報をユニークユーザーレベルに整備




杓谷:様々なサービスを見られたとのことですが、Drawbridgeさんが一番優れていると思われたポイントは何だったのでしょうか?


芹澤:まず、データ量のリーチが非常に多いところです。Drawbridgeでは三十数億台以上のデバイスの情報を保有しており、競合といっても桁がひとつ違うようなレベルです。さらにデータサイエンティストも非常に多く在籍しているので、豊富なデータに基づいてデバイスを推定する技術が非常に高い



特にCookieとアプリの紐づけは難しい技術だそうですが、それも相当高い精度で実現できているということも、Drawbridgeのクライアントにヒアリングした結果コメントとして聞くことができました。


そういったクライアントさんたちはもともと自分たちで特定型のログインIDでクロスデバイス対応をしていたそうですが、結局それだとスケールしない。Drawbridgeのように推定型でスケールさせたいということで、他の事業者含め評価した結果、もっとも優れているのではないかと思いました。


さらに、網羅率(デバイスとデバイスの正解率)の高さもあります。そもそも自信のあるデータだけ持ってきて精度評価をしても精度が高くなるのは当たり前です。本当に多くのデータを見た時にも高い精度を誇っているという、再現率(Recall)と適合率(Precision)のバランスが優れている点に惹かれました。


杓谷:日本ではユニークユーザーを特定する技術をOEMしていくという流れになるのでしょうか?


芹澤:技術のOEMというよりは、Drawbridge自体のサービスがクロスデバイスのマッチングされているデータベースを持っていて、それをライセンスするというイメージです。月額で対価を頂戴するモデルなので、技術自身をOEMするのではなく、お客様からCookieデータやアプリの広告IDをシェアしてもらったものを人単位に名寄せして、かつ他の事業者さんからも許可を得てシェアしてもらっている広告IDなどの情報も拡張する形で紐づけ、それをお渡しするというサービスをやっています。


データ提供に特化していますが、あまりそういったサービスは今まで日本になかったので、現在は人ベースのマーケティングやソリューションの土台となるDrawbridgeのデータを日本で普及させようと奮闘しています。


杓谷:今年はいよいよCRM元年といった様相を呈してきていますね。Drawbridgeのサービス内容について教えてください。


南原:芹澤と共にDrawbridgeの日本事業を担当しております南原と申します。Drawbridgeの特徴について説明させていただきます。Drawbridgeは2017年に我々と提携して日本に進出する以前に、中国にも進出していたのですが、クロスデバイスを推定型でマッチングする分野においてはIPアドレスがキーになってくるのですが、中国はそのIPがころころ変わります。


そんな中で、いわゆるローカライズが難しい市場でもDrawbridgeは進出成功しているし、現地の事業者にも使われていることを考えると、ローカライズもできるということがわかりました。


また様々な賞を受賞しており、一番最近だと、CNBCのディスラプターにも選出されており、選出企業を見ると、LIFTなど、名だたるBtoC系の企業が並んでいる中で、Drawbridgeも選出されていて、いわゆるアドテクノロジーやデジタルマーケティングの分野だとDrawbridgeが唯一、この50位の中で選出されています。


選出の背景も、FacebookやGoogleといったプラットフォーマーがアドテク業界での存在感を高める中で、Drawbridgeが、共通IDという概念がディスラプティブであるということで、マーケティング業界を問わず、評価いただいているようです。



左: 南原さん 右: 芹澤さん


芹澤:Drawbridgeは、土台を提供するので各事業者さんが自分たちでアプリケーションを入れてフレキシブルに使ってくださいという発想がオープンでユニークだと思います。


南原:三井物産と提携して日本で展開しているわけですが、商品名は「Connected Consumer Graph」という名称のデータサービスです。事業者さんとデータを連携させていただいた後に、PCだったりスマートフォン、タブレット、インターネットテレビといった端末のCookieだったりデバイスIDを紐づけてデータを提供するといった形になります。


杓谷:クロームキャストなどのデータも特定できるのですか?


南原:できます。米国ではセットトップボックスがついており、その端末のIDの紐づけも行っているのですが、日本だとまだその環境が整っていませんが、今後はテレビとの紐づけ等も進んでくるかと思います。


Drawbridgeの主な特徴として、特許を取得している独自の技術を使っている所、ニールセンの検証による業界ナンバーワンの精度を誇っている所、データの規模においても業界ナンバーワンを誇っている所が挙げられます。日本の事業者さんでもいくつか導入いただいているのですが、そうした事業者さんでの検証においても、データ精度の高さが実証されていました。また、網羅率も高く、かなりのデータで精度90%を超えています。


芹澤:例えば、顧客企業様からCookieを100個送っていただいたとすると、それが人単位に名寄せされると本来50人×2個=100個というペアの結果が返ってくるのが正解だったとします。これが事業社によっては、Cookieのペアを見ると90%程度の高いマッチング精度は実現するものの、50人分では無くわずか10人分のペアしか返ってこないケースがあり、これだとなかなかボリュームが出てきません。


それがDrawbridgeですと100個もらった場合に、高いマッチング精度でのCookieの紐づけ(正確性)と、50人分に近いカバー率(網羅性)を同時に実現するためのバランスに力を入れてチューニングされています。現在同社技術により紐づけられている人数は、グローバルで13億人分になっています。日本では7000万人強のデータの紐づけができています。



杓谷:スマートフォンの日本での普及率がだいたい70%くらいと言われているので、人口を考えるとほとんどが紐づけできていると言えそうですね。


南原:ここは概念的な所なのですが、マッチングを行っているアルゴリズムは大きく3つのフェーズを経ています。



1つ目がペアリングです。主にIPアドレスをキーにしてCookieやデバイスIDの紐づけを行っています。


ただそれだけですと同じ会社や家庭の人を同一人物として認識してしまったり精度に限界が出てしまうので、2つ目の所としてIPで紐づけたペア同志にどのペアが確からしいかというのを複数のパラメータを使って重み付けをしていきます。この部分がDrawbridge独自のアルゴリズムと言えます。


パラメータは約10程度あり、何時何分にどのIPに繋がっているかなどから、ユーザーの行動を推測して、どのID同士が同じ人であるかの精度に重み付けをしていきます。


最後にクラスタリングとして、重み付けでランクをつけているので、Drawbridge側で、顧客企業様の使用用途に合わせて、二十段階の精度と網羅率を調節することができます。例えば精度を重視するのであれば信頼度の高いデータのみを提供して、網羅率を重視するのであれば若干精度に自信がないものも提供することができます。ここのバランスが、我々も、ご提供を開始するまでニッチすぎるのではないか?との懸念もあったのですが、調整や精度と網羅率のバランス性が、実際にデータをお使いになる顧客企業様からしてみるとかなり重要なポイントのようです。


杓谷:広告の世界でいうと、例えばEC事業者が提供するアプリで商品を閲覧した時に、そのアプリでの閲覧履歴をもとにウェブで閲覧した商品を広告として見せる、といった事が現在はできないんですよね。Google、Facebook、CriteoなどはログインIDなどのCRMデータを入れればそれでデバイスを繋げることができますが、それでも限界がある。そこの課題感は皆が持っていた所だと思いますし、そこを補うところをDrawbridgeさんがやられているので素晴らしいなと思います。


芹澤:デバイスフィンガープリントと呼ばれる、よりハードウェアに近い部分のパラメータを使ってデバイスを特定するというサービスも調査しましたが、それだとデータの継続性に課題があったり、そもそもデバイスを跨いでしまったら推定ができなくなるという問題がありました。そこも含めて、Drawbridgeは対応できるので、そこが優れている点だと思います。


また、日本事業を開始する前に法律事務所を起用し入念にチェックしましたが、利用しているデータはCookieなどのリセット可能なデータであり、かつ提供推定しているデータもあくまでも推定結果であることから、個人情報保護法等には抵触していないことは確認済です。


芹澤:Drawbridgeは本国では広告配信(DSP)事業も行っており、さらにデータのライセンスの両輪でやっているのですが、日本ではデータに特化して逆にDSP企業様にお使いいただくというスタンスを取らせていただいています。


南原:日本だとアドテク系のプレイヤーさんにもお使いいただいているので、そうした方にお使いいただいて、クロスデバイスのファンクションを実現していただくような立場でやっています。


杓谷:国内ですと電通も「People Driven Marketing」を提唱して人ベースのマーケティング基盤を独自に整備されていますが、このあたりはどうお考えですか?


芹澤:電通PDMのDMPパートナーとしてSupership様のSupershipDMPやCCI様が提供するPrediXが採用されており、両DMPでは保有データをデバイス横断で人ベースに分析可能ですが、そのクロスデバイス化のファンクションについては、Drawbridgeが活用されております。


また、Treasure Data 様とはどちらかというとCRMユースでDrawbridgeを使っていくときに、CDPやプライベートDMPの事業者さんとのパートナーシップが必要となるケースが多く、そういった観点で連携に取り組んでおります。



南原:実際にDrawbridgeは、米国ではクロスデバイス広告配信事業を行っており知見がたまっているのですが、クロスデバイスでリターゲティングできるので、ゲームやマンガなどのアプリに来ているユーザー様をPCであったりスマートフォンのWEB面にリターゲティング配信することができます。


また、DMP系の事業者様にお使いいただく際のケースとして、PC Cookieベースで例えば車好きといったセグメントを持っている事業者様に、Drawbridgeのデータをあてれば紐づけデータができるので、そこからスマートフォンやアプリといった面に拡張していくとデータがエクステンションされて、より配信のボリュームを担保できます。


さらに、位置情報を提供する事業者様との提携も進めております。GPSベースで捕捉するのに、アプリにSDKを入れて、ユーザーさんのGPS情報を入手するのが一般的な形になっているので、位置情報としてはかなり有用なオフラインのデータを取れるものの、紐づいているデータがIDFAだけですので、出面が限られてくるという課題があります。


そのアプリの情報をDrawbridgeが紐づけすることで配信であれば位置情報に基づいたウェブ面への配信、分析の観点でもオウンドメディアに来たユーザー様のCookieとオフラインのIDFAを紐づけることで自分たちのページに来たユーザー様が、実際には裏側でどういう行動をとっているかが分析に繋げられるようになります。


杓谷:そういった分析ツールも提供されているのですか?

南原:米国だと、分析というよりもアトリビューション計測するようなツール等も提供しているのですが、日本ではまだ分析機能はDrawbridgeでは提供しておらず、あくまでデータの提供だけです。逆に、分析できるようなプラットフォーマーさんにお使いいただくようなイメージです。


スマートフォンとPCで広告配信をしていて、もともと効果がないと思われていたスマートフォンの広告が実はPCではコンバージョンしていたことがわかれば、スマートフォンを強化することも想定できます。


杓谷:米国ではテレビの視聴時間の30%以上がインターネット経由という調査結果もあるので、今後は日本でもDrawbridgeさんの活躍の場が増えそうですね。


南原:今後としては、Drawbridge自身がもともと広告配信事業をやっていたということもあり、アドテク、広告の分野にこれまで注力していたのですが、今後は日米含め、マーケティングやCRMの部分にも様々なパートナーさんを通じて広げていきたいと考えていますし、ゆくゆくはセキュリティにも利用していただけるのかなと思っています。CRMでしたら、クロスデバイスでサイトをパーソナライズしていくにあたってデバイスを跨いで、ログインIDを取っていなかったとしても、共通のDrawbridgeIDで管理ができるようになります。


芹澤:アプリIDもDrawbridgeから紐づけができるので、ウェブ面に来ているユーザー様の、SNS系への訴求にもお使いいただけるかなと思っております。


南原:セキュリティでいうと、不正ログイン検知にもお使いいただけるかなと思っています。



芹澤:この広がり感が、我々も投資を決めたひとつの決め手になっていて、今まずはデータアライアンスを作るという意味でもアドテクのエコシステムから入るのがもっとも有効だと考えて今は進めていますが、そこからマーテクやセキュリティなどにも汎用的に共通IDが使えるので、そこが面白いんじゃないかと思います。今後IOTデバイスの種類が増えていけば、それもクロスデバイスのターゲットになるので、さらに広がるのではないかと思います。


杓谷:デバイスが多様化したこれからの時代のマーケティングのインフラを共通IDが担っていくことになりそうですね。今後の進化がますます楽しみです。本日は貴重なお話をどうもありがとうございました!

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