電通「日本の広告費」は、信頼できるのか!? 2020年9月からの日本を考えよう。

※この記事は、アタラフェロー / 電通総研カウンセル兼フェロー/ 電通デジタル客員エグゼクティブコンサルタント 有園雄一さんからご寄稿いただきました。


「あの数字、ネットの広告費、少なくなってない?」


毎年、電通が発表する「日本の広告費」、2017年の数字が先日、発表された。


2017年 日本の広告費
株式会社電通(本社:東京都港区、社長:山本 敏博)は本日、わが国の総広告費と、媒体別・業種別広告費を推定した「2017年(平成29年)日本の広告費」を発表した。


インターネット広告費は、4年連続の二桁成長、1兆5,094億円(前年比115.2%)だ。


この数字をみて、実感値より少ない。電通は、相変わらず、マス広告重視で、意図的に操作して、ネット広告費を少なくみせているのではないか。そう考える人たちがいる。


ネット広告業界などデジタル側の業界の人たちから、よく聞かれる声である。


今年(2018年1月)から電通総研の仕事もお手伝いをさせていただくことになった。そのご縁もあって、「日本の広告費」作成に関わる人々とも話をする機会がある。


私の所感としては、電通に、あるいは、この「日本の広告費」作成スタッフの方々には、数字を操作しようという意図はまったくないと感じている。



では、なぜ、少なく見せているように感じるのか? 特に、ネット広告業界側からみると、そう見えるのか?


おそらく、その主な理由は、我々の日々の業務がネット広告以外の領域に拡張してきているからではないか。私はそう感じる。


私たちの日常業務の中でやり取りしているお金のすべてが、この「日本の広告費」に反映されている訳ではない。




広告以外の領域の仕事の影響

デジタル・トランスフォーメーション。デジタルシフト。私の周辺でも、毎日のように耳にする言葉になった。


この言葉と併せて、DMPの導入やマーケティング・ダッシュボードの導入、あるいは、マーケティング・オートメーションやカスタマー・エクスペリエンス、それらに関わるツールの導入、そして、そのようなデジタルシフトに対応した企業の組織改編、そして、そのコンサルティングなど。


思いつくだけでも、自分の仕事の領域がネット広告の出稿や運用に関する領域だけではないことはあきらかだ。


そして、このようなネット広告以外で動いているお金についてその全てが算入されている訳ではないようだ。「日本の広告費」を読む限り、算入されていないと感じる。広告費ではないのだから、算入する必要はない。


しかし、実感値としては、ネット広告業界の仕事は、その「算入されていない」領域に関わることが多くなっているので、「日本の広告費」の数字とズレて、「なんか、少ないなぁ」と感じるのではないか?




「radiko」って、ネット?放送?

他の理由もあるかもしれない。


たとえば、ラジオ。
「ラジオ広告費:1,290 億円(前年比 100.4%)」。2年連続で増加した。いわゆる、4マス広告の中で、増加したのはラジオだけだ。


「地上波テレビ:1兆 8,178 億円(前年比 98.9%)」「新聞広告費:5,147 億円(前年比 94.8%)」「雑誌広告費:2,023 億円(前年比 91.0%)」。


ラジオ以外の他の4マス広告費は、軒並み、前年比下落である。


「日本の広告費」は、冒頭で、こう記載している。


「2017 年(1~12 月)の日本の総広告費は、継続する景気拡大に伴い、6 兆 3,907 億円、前年比 101.6%となり、6 年連続でプラス成長となった」。


景気拡大局面では、広告費は増大する。それが、業界の常識だったはずだ。それが、4マス広告は、ラジオ以外、すべて低下している。


これは、一体、どういうことなのか? 逆に、なぜ、ラジオ広告費は、持ち堪えているのか?


じつは、数年前に私は、「radiko.jp(ラジコ)」のDMPの導入プロジェクトを手伝ったことがある。その頃の radiko アプリの普及速度をみて、もしかすると、ラジオ広告は底を打つかもしれない、と感じていた。


今回の「日本の広告費」にも記載されている。


「『radiko.jp(ラジコ)』は、認知の向上とともにプレミアム会員数が堅調に増加している。また、2017 年にラジコ搭載のスマートスピーカーが発売されたことに伴い、利用者が増加しており、今後も接触者数の増加が期待される。」


ここで、ネット広告業界で働く人は、「あれ? radikoってラジオだっけ?」と感じるだろう。技術的には、どう考えても、インターネットである。であれば、その分の広告出稿金額は、インターネット広告費として扱うべきなんじゃないか?


このように、ラジオ広告費は、放送技術で送信されている音声メディアだけでなく、通信というインターネットで配信されている音声メディアも含んだ数字になっているようだ。つまり、「放送+インターネット」が、ラジオ広告費だ。


ラジオ広告費とは、ラジオ局という企業が稼いだ広告費であって、放送なのかインターネットなのかは別の話ということになっているようだ。





広告費の仕分けの問題

今後、このような仕分けがどうなっていくのか分からない。だが、私自身は些細なことだと思っている。ただし、気にする人は気にするようなので、電通の「日本の広告費」とは、そのようになっているものだ、と理解しておいた方が誤解しなくて済むと思う。


たとえば、「本広告費には含まれないが、キャッチアップ広告をはじめ動画配信型広告が増加するなど、『テレビ×デジタル』の取り組みが加速している。」と書かれている。つまり、TVerなどの広告費の数字は、まだ含まれていないようだ。


同様に、AbemaTVの数字をどうするのか? そのような議論もこれからであろう。


雑誌の場合は、以下の記載がある。


「紙の出版物推定販売金額は、前年比 93.1%と 13 年連続でマイナスとなった。一方、電子出版市場は同 116.0%と前年に引き続き拡大したが、紙市場の落ち込みをカバーしきれず、全体は同 95.8%にとどまった。」


電子出版も含んで、雑誌の販売金額になっている。同様に、雑誌の販売だけでなく、雑誌広告も同じ流れにある。


「前年に続き、出版社によるデジタルメディアのローンチが活発化した。また、電子雑誌での広告事業が開始されるなど、出版コンテンツとデジタルメディアの協業が急速に深化している。」(「日本の広告費」から引用)


つまり、アプリなどの電子雑誌の広告収入は、雑誌広告という扱いになる気配がある(なっているかもしれない)ということだ。


おそらく、新聞もそうなっていく。


「新聞各社によるデジタル施策の取り組みが急速に進む中、PMP(プライベート・マーケット・プレイス)などの運用領域や、コンテンツマーケティングの新聞社扱い案件が伸長した。また、デジタルと連動した紙面企画をはじめ、他媒体との協働も加速している。」(「日本の広告費」から引用)


今後、各メディアの広告費がどのように仕分けされていくのか?それは分からない。


おそらく、「ラジオ放送+インターネット」のように、「テレビ放送+インターネット」「新聞+インターネット」「雑誌+インターネット」という仕分けになっていくのではないかと思う。


ただ、ここで一つ明らかになってきたことは、インターネットはすべてのメディアに算入されていく可能性があるということだ。つまり、インターネットはすべてのメディアに関わるようになってきた。




2020年9月以降の日本をどうするか?

ところで、私は、今回の電通「日本の広告費」をみたとき、2020年9月以降の日本をどうするか? それについて、考えなければならないなぁと思った。


2020年8月までは、東京オリンピックのお陰で堅調なテレビ広告出稿など、4マス広告領域の需要の目処が立っている。問題は、そのあと、2020年9月以降だ。


2020年の段階では、いまのデジタル・トランスフォーメーションやデジタルシフトの勢いは、さらに増しているはずだ。つまりは、4マス広告を扱う媒体社のビジネスも、多かれ少なかれ、遅かれ早かれ、いまよりもデジタル領域でのビジネスを増やしているだろう。


それは、必然的に、広告の領域において、「テレビ放送+インターネット」「ラジオ放送+インターネット」「新聞+インターネット」「雑誌+インターネット」という性格を色濃くしていく。


これまでは、「テレビ 対 ネット」「新聞・雑誌 対 ネット」というような文脈で語られることが多かった。でも、もう、そういう時代ではないと考える。




既存の4マスメディアに敬意を

日本全体のメディアや広告、コミュニケーションやマーケティング、その全体を、2020年9月以降に、どうしていくのか?


日本は少子高齢化も進む。その一方で、IoT/IoE、AIやロボティクス、量子コンピューター、VR/AR、5Gなどの最先端技術も、我々の生活に徐々に浸透し始めている。そんな2020年9月だろう。


私たち日本人の中で、テレビを見たことがないという人は、ほぼいないだろう。おそらく、新聞・雑誌もそうだ。紙の新聞に触れたことがない人、紙の雑誌を読んだことがない人、そんな人は、あまりいないだろう。


私たちは、この4マスメディアのお陰で、暮らしに役立つ情報や日々のビジネスに活用できる情報を得てきた。その恩恵を受けてきた。それは、マスメディアが日本の情報や文化を支えてきたということだ。少なくともその一翼を担い、大きな役割を果たしてきたと考える。


そのことに思いを馳せるとき、そのマスメディアの広告費が、年々、低下してきている事実を、とても残念だと思う。



これは、時代の流れであり、受け入れなければならないこと、仕方ないこと、だとは思う。しかし、マスメディア業界で仕事をして、人々の役に立つ情報を作り続け、日々発信してきた方々への努力と苦労に感謝し、敬意を忘れてはならないと考える。


インターネット業界だけ、一人勝ちすればいいというものではない。「ネット広告費が少なく算出されているのか?」。そんな些細なことを考えるのは無意味だ。radiko がどっちに算入されるのか? AbemaTVがどっちに算入されるのか? そんなこと、電通の然るべき方々がきちんと判断してくれる。


私たちが、いま、考えたいのは、2020年9月以降の日本をどうしたいのか、だ。メディアや広告、コミュニケーションやマーケティングのビジネスを、2020年9月以降に、どっちの方向に持って行きたいのか、だ。




ラジオ、新聞・雑誌を買ったことがない?

先日、電通の20代前半の若者と話をしていた。彼は、「ラジオって買ったことがないんです。でも、最近、アプリで、radiko のアプリで、初めてラジオを聴きました。意外と、面白いんですよ」と言った。


「この人は、20歳を超えるまで、ラジオを聴いたことがなかったのか?」とショックだった。そして、よく考えてみると、いま聴いているのも、radiko だということは、ラジオ放送(アプリじゃなくて)には、彼の20年以上の人生の中で、一度も接触していないということか?


これは、ラジオだけの話なのだろうか。いや、私は、今後、ほかのマスメディアにも同じようなことが起こるのでは?と懸念している。


デジタル版、正式教科書に 学校教育法 改正案を閣議決定 」というニュースによれば、日本政府は、小学校で次期学習指導要領が全面実施される2020年度に備えて「タブレット端末などで利用できる『デジタル教科書』を正式な教科書と位置付ける学校教育法改正案を閣議決定した」とのことだ。


これにより、日本中のすべての小学生が、タブレット端末を日常的に教科書として使うことになりそうだ。


すると、ここから先は、イマジネーションだ。あなたは、小学生のときから教科書をタブレットで読み勉強した場合に、プライベートで新聞や雑誌を読むときに、どうするのだろうか?


その小学生たちは、紙の新聞とデジタルの新聞、紙の雑誌とデジタルの雑誌、どっちの方が使いやすいのか?どっちの方が読み慣れているのか?


私は、いずれ、20歳を超えるまでに、紙の新聞や雑誌を自分で買ったことがない、という日本人が登場すると危惧する。





5Gの影響力は大きい

5Gモバイルも、2020年には徐々に普及している可能性が高い。「5G 世界で来年一斉に 日本も前倒し検討、IoTや自動運転に応用」というニュースもある。


2019年、5Gが前倒しで世に出るかもしれない。ますます、動画視聴が便利になる。そして、小学生は、2020年から、タブレット端末を教科書として使っている。すぐに、インターネットに接続できる状態だ。


そのような小学生が大人になったとき、自分でテレビ受信機を購入するチャンスがあるだろうか。


いや、おそらく、大画面のテレビを買うだろう。しかし、それは、放送も見られるが、ネットフリックスなどインターネット配信を視聴可能な端末であろう。


私は、いま、ご縁があって、テレビ局の方々のデジタルシフトのお手伝いをする仕事もしている。また、新聞社や雑誌社の方々と、決して多くはないが、お仕事をすることもある。


彼らに共通する悩みが、いま、電通や博報堂など総合代理店の媒体局(テレビや新聞・雑誌の向き合いをする局)の人々のデジタル知識が、決して、高くはないということだ。


したがって、サイバーエージェントなどのネット専業代理店の方々に相談する案件が増える。しかし、ネット専業代理店の人々は、マス広告側の知識不足で、総合的俯瞰的な視野で話ができる人が少ないらしい。


どちらも、帯に短し襷に長し。そういうことらしい。


そのようなことが理由だと思うのだが、いま、テレビ局や新聞社、出版社には、デジタル系のIT企業やネット広告業界からの転職組が増えている。


総合代理店やネット専業代理店の力だけではなく、自分たちでデジタルの知識を身につけてマス領域とデジタル領域を組み合わせたソリューション提案をクライアントにしていきたい、そう聞いた。




電通「日本の広告費」は、日本経済の先行指標に

2020年9月以降、その流れは、もっと加速するのではないか?
「テレビ放送+インターネット」「ラジオ放送+インターネット」「新聞+インターネット」「雑誌+インターネット」という視点で考えることができる人々が媒体社の中にも増えていくだろう。


電通・博報堂などの総合代理店は、さらに、「4マス+インターネット+デジタル・トランスフォーメーション」の組み合わせの中で、ソリューション提案していく人材が、もっと必要になるだろう。


そして、電通「日本の広告費」が、景気に連動する。
それは、デジタル・トランスフォーメーションやデジタルシフトが進む世界の中で、インターネットだけが一人勝ちするのではなくて、すべてのメディアの金額が連動することで、「日本の広告費」全体が押し上げられていく。そんな、日本にすべきだと思う。


さらに、できれば、電通「日本の広告費」が景気に連動するだけではなく、景気の先行指数として機能することを望む。


広告費やマーケティング関連費用が増大することで、あるいは、コミュニケーション領域のデジタル・トランスフォーメーション関連費用が成長することで、それが投資的な役割を果たし、日本経済を牽引し、GDPを押し上げていく。そんなシナリオがいい。


電通「日本の広告費」は、日本経済の先行指数であって欲しいのだ。そのような社会を、2020年9月以降に作ろうではないか。そのために、広告業界で働く一人一人の人が、デジタル・トランスフォーメーションに尽力し、日本のメディアやマーケティング・コミュニケーションのビジネスを変えていくことができればと願う。

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