分断していくディスプレイ広告と、広告代理店の未来 〜Display Duopoly

「媒体」から「プラットフォームへ」

 
2016年の11月(事実上10月末)に、Facebook が DSP などのサードパーティに広告枠を開放する Facebook Exchange(FBX) を終了してから、すでに半年が経ちました。


FBX は、認定プログラムに参加しているサードパーティーが Facebook(主にPC/デスクトップ)へのリターゲティングの入札ができるアドエクスチェンジでした。2012年9月にサービスを正式に開始して以来、2014年頃までは順調に認定企業が増加していましたが、世の中に合わせてFacebook自体が急速にモバイルシフトしていくに伴い、サードパーティの開発スピードとのタイムラグによって疎結合が難しくなってきたことや、Facebook Audience Network(FAN) や 買収した Instagram への注力もあり、Facebook自らが「巨大な一つの広告媒体」ではなく、「Googleに比肩する巨大広告プラットフォーム」へと急速に変容していくことになりました。


そして現在は、外部からの入札を排除した巨大なクローズド・ネットワークとしての顔を持ちながら、FANの拡大によって広告を自分たちの外側へ配信していく広告プラットフォームとして君臨するようになっています。


同様に、「検索の巨人」という代名詞が付く Google も、非常に似た動きをしています。


検索のイメージが強い Google はディスプレイ広告の王者でもあります。しかしながら、近年は Facebook の猛烈な追い上げを受け、ソーシャルやモバイルではある意味で後塵を拝す状況に至っていることから、Facebook と同じような動きを先んじて始めていました。開発リソースや広告費の分散を避けるために、2016年からは DoubleClick Ad Exchange 上での YouTube 買い付けができなくなる(※)など、Googleの資産の中ではソーシャル色の強い YouTube を中心に対策を進めてきています。
※DoubleClick Bid Manager では可能です


それにより、現在の YouTube への広告配信は、予約型の広告を除き、 AdWords の動画キャンペーンからの配信が大半を占めています。あわせて、2016年5月に発表があったように、外部からの入札を受け入れるばかりだった Googleのディスプレイネットワーク(GDN)も、リマーケティング広告を足がかりに外部のネットワークへの入札を開始し始めています。こちらも、「媒体からプラットフォームへ」の流れが一層加速している事例と言えるでしょう。
※Googleはもともとプラットフォームではありますが…



複占化するディスプレイ広告と、反動



このような状況から、ディスプレイ広告市場は Duopoly(複占)と呼ばれます。これは、Google と Facebook の2社で市場規模の大半を占めており、他のプレイヤーが市場のルールに対して従属的な立場にいる状態を指している言葉です。


また、Google と Facebook のルールの中で進められる世界と、それ以外のプレイヤーで構成される世界が分断していることを、二層で成立している産業(two-tier industry)と呼んだりもします。現在のディスプレイ広告市場を端的に描写した言葉ではないかと思います。


参考:

二層化する産業を生きる 〜2017年の運用型広告
例年、米国のメディアでは、クリスマスも差し迫った時期になると、その年最後のポストとして翌年の広告市場の予測が識者から出てきます。(そして誰も振り返ったりはし...



Google や Facebook が外部からの入札受け入れを制限し、FAN や GDN による外部ネットワークへの入札を強化し始める流れは、この二層化・複占化をより一層推し進めるものです。


この2社を無視してオンラインで広告を配信することは現代では不可能なため、広告主もデータも、そして何より広告予算がこの2社へどんどん集まってきています。身も蓋もないですが、彼らを前にして外部の広告プラットフォームが単体で戦うことは(Criteoなどの一部のプレイヤーを除いて)かなり難しくなってきているのではないでしょうか。


もちろん、他のプレイヤーや広告枠を提供するメディアが現在の状況を手をこまねいて見ているわけではなく、様々な対策を打ってきています。Private Market-Place(PMP) や Header Bidding(ヘッダービディング) などのムーブメントはその顕著な例ですし、最近ではEコマース分野のめざましい発展に沿うかのように、 Amazon の広告プラットフォームへの注目度も高まっています。


参考:
Amazon Surges In The Crowded DSP Space, According To Advertiser Perceptions Survey | AdExchanger
The demand-side platform (DSP) category underwent expected consolidation in the past year, with The Trade Desk’s IPO and formerly independent players like Tu...




統合による「完全な分断」



「二層化する産業を生きる 〜2017年の運用型広告」でも触れましたが、2016年の頻出単語の一つに「統合(consolidation)」がありました。2つの巨人が外部から覗ける窓を狭めているのと並行して、Duopolyの外では統合を進め、お互いに連帯する動きが強まっているということです。


これは、以前のカオスマップで表現されていたような乱雑な状況から、統合によってプレイヤーがまとまっていくことを意味しますので、一見、広告を出稿するデマンドサイドにとっては効率的に業務をこなすことが可能になるように思えます。


ですが、実際には「煩雑さは以前よりも増すだろう」と予想する向きが大半を占めています。


画像:これまでの統合と、これからの統合(筆者作成)



上記は筆者が作成した図ですが、これまで(図の左側)は、プラットフォーム間の連帯、具体的には DSP に代表される配信側のプラットフォームが Google や Facebook といった巨大ネットワークへのアクセス権を持っており、他のアドネットワークや一部の直接在庫も扱うことで、ある程度の統合管理が1つのプラットフォーム上で実現できていました。
※もちろん、現実としてはそうではないケースの方がはるかに多かったですが…


しかしながら、2社の巨大ネットワークが以前にも増して成長し外部からのアクセス権を遮断するに至ると、図の右側のように1つのプラットフォームによる統合管理はできなくなります。統合管理はできなくなりますが、巨大な2つのネットワークを無視してビジネスを進めることはできないので、結果的に多くの企業では、Google と Facebook の個別管理を強化し、これまでの DSP も加えた運用管理が必要になってきます。


さらに、これまでは実績データもある程度統合して見れていたものが、個別管理によって集計と分析の2つの機能を別途実装する必要が出てきます。昨今のダッシュボードへのニーズの高まりは、APIによる疎結合の一般化に加え、広告プラットフォーム間の分断によって、集計側からの統合アプローチが必要になっていることも大きいでしょう。


付け加えるならば、この2社は他のネットワークに比べて進化のスピードが圧倒的に早く、毎週のように新しい実装が追加されています。これまでは(速度や実装のレベルは置いておいて)ある程度DSP側の対応でまかなえていた部分が、運用側で個別に対応していかないとどんどん間に合わなくなってきています。自動化や最適化の精度も明らかに向上しており、専門性の高い専任者を置かないとキャッチアップできないという状況は、ここ数年より一層顕著になってきていると言えるではないでしょうか。複占化による分断が、広告運用の業務をより複雑にしていると言えるのかもしれません。


なお、日本ではもう1つの巨人、Yahoo! の影響も大きいことは指摘しておかなければいけないでしょう。


広告の第三者配信に注目が集まるようになった頃から、Yahoo!ディスプレイアドネットワーク(YDN)への第三者配信の受け入れを望む声が非常に強くあったことは事実です。ですが、結果としては現在でも Criteo のような一部のプラットフォームへ部分的に開放するのみにとどまっています。


しかしながら、ここ最近の状況を鑑みれば、YDN は以前と比べて洗練されてきており、プラットフォームとしての体制が強化されているように見えます。インフィード広告のようなネイティブフォーマットへの対応も早く、世界的に見ても成功事例の一つでしょう。クローズドなネットワークを維持していることが結果的に奏功してきているように感じます。


日本の巨人がグローバルスタンダードに準拠しながらネットワークとしての独自性を貫いていることで、日本では歴史的に統合管理よりも個別管理に重きが置かれてきた、ということではないかと思います。



広告代理店の差別化が進む



分断が進み、専門性が増すほど、合理化へのニーズは高まってきます。合理化の一番分かりやすい例は「外部化」つまり、広告代理店の仕事です。


広告運用のインハウス化の機運が高まっている昨今ですが、分断と専門化によって、理想と実装との間の距離はますます広がっています。以前まではメディアコミッションのディスカウントが差別化要因の一つでしたが、広告のビューアビリティやブランドセーフティの問題が顕在化している現在では、安易な値引きは信用とのトレードオフにすらなりつつあります。


そうなると、価格競争に勝つために仕入れを強化する(メディアバイイングを肥大化させる)のではなく、請求する価格に見合うサービスを提供するために、本当の意味での差別化を実践していくフェーズに入るのではないでしょうか。大きな広告会社のここ数年の買収リストを見ても、それは明らかです。


デジタルエージェンシー Goodway Group の COO、 Jay Friedman が、

I believe agencies have more differentiators at their disposal today than in any other recent time period.

私は、広告代理店がここ最近で最も多くの差別化要因を持っている時期にあると信じている。

  - As The Facebook-Google Duopoly Fragments, Agencies Win


とコメントしているように、広告代理店にとって、変革が求められると同時に、多くの可能性に満ちている時代だと言えます。


代理店に向けられる多くの批判は、「何かを代理する」という商売の基本への疑念ではなく、理想と実情とが合っていないことへのフラストレーションのあらわれではないかと思います。提供するサービスや商品を更新し続け、差別化しながら生き残っている企業がたくさんあることを、歴史は証明しています。変革の時期は苦しいものですが、マーケットが変わっていく潮目に身を置けるということは、幸せなことでもありますね。

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