二層化する産業を生きる 〜2017年の運用型広告

例年、米国のメディアでは、クリスマスも差し迫った時期になると、その年最後のポストとして翌年の広告市場の予測が識者から出てきます。
(そして誰も振り返ったりはしません。みんな前だけを見続けています ^^;)


予測記事というのはその性質上、大抵ふわふわとしていて無責任な論調が目立つものですが、一方で、「うーん、たしかにそうだよねえ」と読みながら首肯せざるを得ない、後から振り返っても正鵠を射た表現を見つけることもあります。自分のマーケットに対する現状認識と照合するためだけに記事を追いかけてしまう、個人的にはそんな年末の風物詩だと思っています。



「壁に囲まれた庭」と「統合」

 
2017年の予測記事の中で象徴的なキーワードを抜き出すとすれば、「壁に囲まれた庭(walled-gardens)」「統合(consolidation)」の2つではないかと思います。どちらも以前からメディアに頻繁に登場している言葉であり、特に目新しいものではないにも関わらず、2017年の予測に使われる単語として何度も登場しているあたりに、これまでよりも切実な印象を与えます。


この2つの言葉はまったく別のようでいて、相互に密接に関係しています。


「壁に囲まれた庭」は、Facebook が FBX(Facebook Exchange) を閉じたことによって巨大なクローズドネットワーク化していることや、Google が 世界最大の動画インベントリである YouTube の外部からのバイイングを事実上不可能にしているような状況を揶揄する表現です。


この、Facebook と Google という2つの巨人がデジタル広告の分野であまりにも巨大なネットワークとして力を持っており、そのネットワークへの入口が徐々に閉じつつある、つまり「大きな箱庭」と化しつつあるがゆえに、それ以外のプレイヤーは、自らの生き残りのために、以前のカオスマップで表現されていたような乱雑な状況から、短期間で急激に「統合」へと舵を切り出しています。(とはいっても市場もプレイヤーも増えているので乱雑さは増しているのですが…)


2つの巨人は、自らのネットワーク内でエコシステムを完結させ、さらに外側へと進出するために、2016年も激しいアップデートを繰り返しました。


参考:

Facebookの大型アナウンス・アップデートまとめ【2016年版】
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それに対抗するかのように、Criteo や Adobe などを始めとして、この数年の企業間買収や事業統合は、速度も激しさもどんどん増しています。「壁に囲まれた庭」の肥大化が、否応なしに庭の外側の「統合」を加速させたと言えるのではないかと思います。



二層の産業

 
Rakuten Marketing Europe の Rakhee Jogia女史は、ExchangeWireのインタビューで、以下のように答えています。(※太字は筆者による)

We are seeing the emergence of a two-tier industry, where ad tech giants such as Facebook and Google are effectively able to play by their own set of rules, while the rest of the digital word needs to be increasingly transparent and accountable to earn the trust of advertisers.
 
我々は、FacebookやGoogleのようなアドテクの巨人が効率的に自分たちの設定したルールの上で運営し、それ以外のプレイヤーは広告主への説明責任と信頼確保のために更なる透明性を求められるような、二層で構成された産業の出現を目の当たりにしています。



参照:Experts Predict How the Advertising Industry Infrastructure will Change in 2017 | ExchangeWire.com


デジタル広告が、Google と Facebook のルールの中で進められる世界と、それ以外のプレイヤーで構成される世界の二層で成立している産業(two-tier industry)であるという認識は、予測ではなく既に目の前にある事実を端的に描写したものではないかと思います。


なぜなら、IAB の Internet advertising revenue report と、上場各社の Annual Report を突き合わせてみれば、以前から世界のデジタル広告費の大半がその2社で(もしくはその2社を経由して)構成されていることが一目瞭然だからです。


Digital Content Next の Jason Kint CEO は、2016年11月の IAB による上半期レポートの発表に際し、自身でかんたんなチャートを作成し、その事実を伝えています。
 

※「2社抜いたら前年割れやんけ!」と仰ってます





二層の産業で、我々はどう生きるか

 
では、「統合(consolidation)」が進んでいく二層の産業の中で、広告運用を始めとしたデジタルマーケティングに関わる我々は、どう生きればいいのでしょうか。


以前、「少し先の、広告運用の現在 〜A future state of AdOps」というシリーズでも書いたとおり、統合によって複雑さが減免されるわけではなく、市場の拡大とともにそれは増大していきます。そして、管理コストとともに雇用も連動して増えていくでしょう。そのインフレに対する回答の一つが、「自動化」ではないかと思います。


参考:

増大する役割の先にある、少し先の、広告運用の現在 〜A future state of AdOps 【第4回】
少し先の、広告運用の現在 様々な分野で「当時には想像しにくかった未来でも、振り返ってみると足元では静かにその萌芽が見えていたんだな」と気づくことがあると思い...



ただ、ここで繰り返しておきたいのは、「自動化によって人手が機械に代替される」ことが問題なのではなく、少なくとも短期的な未来においては、自動化によって人間の仕事が高度化(上流工程へシフト)し、「仕組みの理解を前提とした創造性が必要な仕事の重要性が一層高まってくる」ということだと思います。職務によっては、高まってくるというよりは、「それにしか価値がない」というケースも出てくるのではないでしょうか。


つまり、上流工程へ自分の仕事をシフトさせることが、二層の産業において、従事者の生き方の一つのモデルになるのではないかと思います。仮に自分のタイトル(役職)が同じだったとしても、数年前と数年後では、仕事の中身がきっと大幅に変わっているはずです。逆にまったく変わってなかったらそれは危ないサインだとも言えます。自動化は敵ではなく、炭鉱のカナリアのような、変化を表す象徴だと言えるかもしれません。


変化の萌芽は、目を凝らせば現場のあちこちで起こっていることが確認できるはずです。一つひとつは地味でも、確実に世の中を前に進めていく、そんな変化にどれだけ敏感でいられるかが問われています。Unyoo.jpは、2017年もその敏感さを可能な限り保ちながら、ニュースやコラムとしてお届けできたらと考えています。


というわけで、2016年、Unyoo.jpにお付き合い頂きありがとうございました。2017年も引き続きどうぞ宜しくお願い致します!

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