広告運用の経験が、サービス設計に活きている。 -レモネード 石橋尚也氏 State of AdOps #21

「State of AdOps」は、現在急速に伸びている運用型広告の成長を支え、実際の現場で価値をつくりだしている広告運用(AdOps)のスペシャリストたちに焦点を当てるインタビューシリーズです。広告運用の最前線にいる方々が感じていることを語って頂くことで、運用型広告の輪郭を少しでも捉えることができればと考えています。


※第13回〜第20回はこちら

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第21回目は、「Influencer One」「INSTAMODEL」という2つのサービスを手掛けるスタートアップ、レモネード株式会社代表取締役 兼CEO の石橋尚也(いしばしひさなり)さんに、お話を伺いました。広告運用の経験が起業にどう活きているのか、忌憚のないお話を伺っています。


# インタビューは 2016年9月に行われました。
# インタビュアー:アタラ合同会社 岡田吉弘




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『渋谷ではたらく社長の告白』を読み2週間で退職


●まずは石橋さんのお仕事と、現在のお仕事に至るまでのキャリアを教えてください。

石橋:現在はInfluencer One(インフルエンサーワン)というインフルエンサーマーケティングのプラットフォームの運営、およびINSTAMODEL(インスタモデル)というオンデマンド写真素材サービスを運営するレモネード株式会社を運営しています。
 
設立が2015年12月なのでまだまだ1期目が終わっていない状態です。 INSTAMODEL がスタートしたのが2016年の2月、Influencer One が8月ですので、まだまだこれからです。


●すべてがカオスというか、非常にお忙しいフェーズですよね。起業や、このようなサービスを開発した背景を教えていただいてもいいですか。


石橋:すみません、少し長くなってしまってもよいでしょうか?


●もちろんです(笑)。


石橋:ありがとうございます(笑)。レモネードを起業する前は、10年間ほどメンバーズという広告代理業と制作業を行っている会社に勤めていました。その前は新卒で福岡の自動車ディーラーに入社しています。
 
今では考えられませんが、当時はずっと続けていた「バンドをやれれば仕事は何でもいいや」くらいに思って、就職も適当に決めていました。入社した福岡の自動車ディーラーがみんなダラダラと働いており、その様子を目の当たりにして愕然としました。音楽のためとは言え、仕事も全力でやりたいと思うようになってきたところ…当時出版されたばかりのサイバーエージェント藤田社長の『渋谷ではたらく社長の告白』が書店で平積みされているのを見て、表紙に惹かれて立ち読みしたんですね。


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大学生の就職活動時に広告代理店に行きたいという気持ちがあったのですが、難易度が高いと思い諦めていました。でも、この本を読んで、恥ずかしながら「インターネット広告代理店」という世界があることを初めて知りまして、「ここからなら僕もあの電通や博報堂に行けるかもしれない」という気持ちとともに「起業ってこんなに楽しいのか!」と安直な考えに至ってしまい、ディーラーを新卒入社から2週間で退職して再就職活動を始めました。


●早!(笑) でも、あの本で「起業って楽しい」と思ったんですね。私も発売当時に読みましたが、かなり生々しい起業本で、厳しいエピソードもたくさんありますよね。


石橋:そうですね。表紙もタイトルも重々しい感じで思わず手に取りましたが、中身はエキサイティングで気持ちが揺さぶられたのと同時に、やりたい職業について働くという事はこういう事なのかと腹をくくる事ができました。
 
それで、福岡は広告代理店が多くはなかったので、「大手企業の多い東京だ」と思って、東京にある親戚の家に居候しながら就職活動をしていたのですが、当時は「第二新卒」という言葉が全く浸透していなかったので就職活動しようにもどうしてよいか分からず、新卒採用と中途採用のサービスの両方に登録し、気になった会社があれば新卒中途構わず応募していました。未経験なので正攻法ではダメだと思って、求人を出していない広告代理店には「求人はないと思うんですけど採用してくれませんか」とテレアポして、「採用していない」と言われたら「新規ビジネスプランがあるんです、聞いてください」と言ってアポイントを取ったりしていました。当時私がよく使っていた音楽のソーシャルネットワーク Myspace の日本版を作りたいと、特に資料も持たずに(媒体社にはなりますが)当時のまぐまぐの社長だった大川さんにプレゼンしたこともあります。今から考えるとめちゃくちゃ恥ずかしいことをしていました(笑)。サイバーエージェントの確か第2回目のじぎょつくにも応募しました。

 
●いや、プレゼンの場まで行けるエネルギーがすごいと思います。


石橋:普通にやっては勝てないと思い、気合だけは誰にも負けないというつもりで頑張ったのが伝わったのか、3社から内定が出たんです。それで、悩んだ末に前職のメンバーズにお世話になりました。当時のメンバーズはテレビとラジオ以外すべての広告を扱っていたので、雑誌やタクシー広告など、インターネット広告以外も幅広く経験できて、「やりたい」と思っていたことに一番近い経験をさせて頂けたので当時の選択はとてもよかったと思っています。


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「広告を極める」から「起業」へ。


石橋:メンバーズに入社してからは、起業というよりは「広告の世界に入ったので広告を極めたい」というマインドに切り替わり、広告を極めるべくとにかくがむしゃらに働きました。日中は新規営業をやりながらリスティング広告のアカウントを運用していました。

当時はYahoo!スポンサードサーチの前身の Overture のシステムが DTC(DirecTraffic Center)というバージョンの最後の時期にあたってまして、管理画面が重く、サーバーが落ちたりするトラブルもありましたので、毎朝会社に着いたら予算を超過していないかを100アカウント分全部チェックして、それが終わったあとに新規営業していました。


●懐かしいですね。私もそのあたりは泣けるエピソードをたくさん持っています。ハンカチがないと話せないですが(笑)。


石橋:(笑)。それで、午前中が予算チェックだけで終わってしまうので、正直、今で言う「広告運用」という次元ではありませんでした。ただ、これも広告を極めるための修行だと思って黙々とやっていました。リスティング広告以外にも、アフィリエイトや純広告、当時盛り上がりつつあったアドネットワークも扱いました。雑誌や屋外広告などのオフラインも含め、とにかく何でもやるということを続けていました。


●広告を極めたいというマインドから、起業に至るまでにはどんな転換があったのでしょうか。


石橋:友人と久しぶりに話していた時に、そう言えば、『一緒にサイバーエージェントのじぎょつくに応募したよね』という話をして「そういえば起業したいんだった」と思い出したんです。一度思い出してしまうと止められなくて、休日を使って現在のINSTAMODELの原型になるプロダクトを作り始めました。でもやはり土日だけでは進まないので2015年末にメンバーズを退職し、退路を断ちました。先に辞めるのは結構大事なポイントだと思います。


●普通は逆というか、次がある程度定まってから辞める方が安全ですよね。


石橋:「辞めたらなんとかなるよ」という周りの助言もあり、信じてやってみたら退路がないのでやるしかなくなり、なんとかスタートする事ができました。


●みんな、人のことだから勝手なことを言うんですよね(笑)。


石橋:ホントそうです(笑)。路頭に迷ったら責任取ってくれるのか!と思いながら始めましたが、結果的にはよかったなと。もちろん決算もまだなので、これからが勝負なのですが。



個人のクリエイティビティに光を当てたい。



●覚悟が決まって起業するしかないという状態になりましたが、改めて、なぜこのサービスで起業されたのでしょうか。


石橋:今でこそ音楽は YouTube や Spotify で聴く時代ですが、私がバンド活動をしていた当時は Myspace で話題になってブレイクする、というような事例があったんです。プラットフォームがアンダーグラウンドをオーバーグラウンドに押し上げる推力というか、そういう可能性を一人のユーザーとして感じていました。
 
Instagram が流行りだして、自撮りしている子たちをたくさん見たときに、何だか当時と同じ空気を感じたんですね。中にはやっぱりすごくいい感じの子たちもいて、自分がバンドをやっていた頃と同じ感じで、こういう子たちに光を当てられないかと考えました。それで「オンデマンド写真素材」という企業向けのソリューションと、Instagram で活躍したい個人をマッチングさせる形でサービスを考えました。それが INSTAMODEL です。


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●YouTubeではなく、Instagramだったんですね。


石橋:メンバーズの在籍期間中に、会社が広告からソーシャルメディアへ経営リソースを徐々にシフトしていったこともあって、ソーシャルメディアの運用や広告に関わることが多くなってきました。ソーシャルのクリエイティブって、たかが写真1枚ではありますが、その1枚が多くの人たちに広まってしまいますから、企業が投稿するときにはどうしても慎重になりますし、写真を探したり撮るのに毎回苦労されている状況を見ていました。投稿を続けていくとネタもだんだん尽きてきますし、宣伝色の強いが画像はエンゲージメントが低くなってしまうため、写真選定がとても大変で場合によっては何時間もかかる事もあるんですよね。


●ソーシャルのクリエイティブは、広告バナーと比べると制作コストは低いと思いがちですが、実際の運用の現場では課題がたくさんあるということですね。


石橋:はい、実際に自身でもやってみるととても苦労したので、写真検索にとても時間がかかるという課題を解決したいと思いました。ちょうどその頃の Apple の CM で、美しい写真が何枚もスライドショーされたあとに、最後に 「iPhoneで撮影」 とテロップが出る広告があって、ああ、こういう流れだよなあと。



広告運用の経験が、サービスに活きている。



●それで2016年2月にローンチされました。反響はいかがでしたか?


石橋:すごく反響が大きかったです。広告主に「このサービスを待っていたんです」というようなことも言ってもらえましたし、こちらからお願いしたいような大手企業からお仕事をいただけて本当に嬉しかったですね。
 
一方で、Instagrammer を集めすぎてしまい供給過多になり Instagrammer の方々へ案件を定期的に提供できない、マーケットプレイスとしてはバランスの悪い状態になってしまいました。そんな中、企業からインフルエンサーのキャスティングをしてほしいという相談がきたり、企画のお手伝いをする話もちらほら出てきまして、いわゆるインフルエンサーマーケティングの仕事量が増えてきました。アメリカの状況を見ても、この分野が伸びると確信していたのでやってみたのですが、実際は非常に大変でした。


●具体的に何が大変だったんでしょうか。


石橋:INSTAMODEL は写真素材サービスでしたので、企業が「この写真がよい」となればそれで案件は成立しますが、インフルエンサーマーケティングでは、企画の立案からインフルエンサーのリストアップ、マッチングから納品まで、あらゆる工程が増えます。
 
案件が始まる前の下準備がかなり大変で、特にインフルエンサーのリストアップはAPIがないのでデータの収集だけでも一苦労です。加えて、Instagram のアカウントの URL と名前、フォロワー数、いいね数といった企業が参照する一次情報を目視で取得する必要があります。さらに、その方々と連絡が付くよう、別途連絡先を個別に用意しておきます。リストアップした後はクライアントに提出をして選定をしていただき、アサインしていきます。アサインのときに料金や条件についてインフルエンサーに打診をします。


●そのマネジメントも全部石橋さんがやっていたんですね。それは大変ですね。インフルエンサーマーケティングだと実際に扱う商品を届けたりしないといけないですよね。そこでも微妙にトラブルありそうですね。


石橋:おっしゃる通りです。商品の発送などはクライアントから直接送ってもらう形式にしていたのですが、よくあるのは「商品が届いていない」とか、「宛名が古い」とか「旧姓だったので返送された」などの配送トラブルですね。届いてからも、Instagramにアップする際に「指定のハッシュタグがついていない」とか「写真を加工したせいで商品が見えない」といったトラブルもあったりして、お金の支払いもありますし、とにかくマネジメントするのが大変でした。リスティング広告の運用の方がはるかに楽だ!と思ったことが何度もあります。


●その大変な点を Influencer One で解決を図ったということですね。




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石橋:そうです。解決するためのプラットフォームとして開発しました。開発にあたっては、メンバーズ時代に経験した広告運用のエッセンスを注入しています。


●具体的にはどういう点でしょうか。


石橋:まず最初に、入力項目を決めたことです。通常、広告には審査基準や広告フォーマットなどが決まっていますが、インフルエンサーマーケティングではまだそれがはっきりしていなかったんですね。だからまず入力項目を作り込みました。Instagrammerにもヒアリングしながら、トラブルの起きやすいハッシュタグや投稿時間など、企画の趣旨が伝わりやすいようなフォーマットにしました。「AdWordsやFacebook広告のようにインフルエンサーマーケティングを運用できる」といったキャッチコピーにしたいくらい、その辺りは意識しています。


●つまり、リスティング広告の方がケアするパラメータは多いのにインフルエンサーマネジメントの方が実務として大変になってしまうのは、フォーマットが決まっていないから実際のワークフローに落とし込みにくい、ということでしょうか。


石橋:おっしゃる通りです。なので、とにかくパラメータを入れる管理画面の入力項目には気を使いました。


●続けてお聞きすると、案件はオーディション形式ですよね。インフルエンサーが手を挙げても、企業側が承認しなければならないですから、このあたりの仕組みはアフィリエイト的でもありますね。


石橋:まさにそうですね。進行管理は非常に重要な部分の一つです。投稿したエビデンスをインフルエンサーに投稿してもらい、それを企業が承認して成立しますので、仰る通りアフィリエイトのエッセンスが入っています。単価も、フォロワー単価とエンゲージメント単価の二つの入札方法を採用して、広告主側の選択肢を増やすと同時に、フォロワー数はそれほど多くないけれど投稿のたびに高いエンゲージメントを示している人たちの活躍の場も作りたいと思って設計しています。


●Influencer One は、インフルエンサーマーケティングの便利ツールを越えて、プラットフォームを志向しているということですよね。プラットフォームには公共性が非常に重要で、広告の表記や審査なんかはまさに一番大事だと思います。審査がザルだとエコシステムが回らなくなり、二度目がなくなってしまいますしね。


石橋:PR表記は必須にし、キャプションにテキストで書くように徹底しています。案件の審査については、現状では案件がまだ少ないので明確な基準というのはこれからブラッシュアップしていかないといけないのですが、事前チェックを厳しくさせて頂いており、良いブランドでも依頼内容がインフルエンサーとの関係性を良好に保てそうにない場合は却下させて頂いていたりもします。あとは、企業側のチュートリアルで「インフルエンサーは消費者でもある」ということを啓蒙していったり、うまくブランドの味方に付けるための入力フォーマットになるよう工夫していきたいと思います。


●ステマっぽくならない、例えば RedBull や GoPro のように好意的に受け止めてもらえるスポンサードコンテンツが作れるといいですよね。


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一度思いっきりやってみよう。



●これ以上サービスのことを聞いてしまうとまさにステマっぽくなってしまうので(笑)、ちょっと質問を変えてみます。起業してみて改めて気付いたことはありますか。メンバーズ時代も含めて、色々な経験が活きているところなどがあれば。


石橋:メンバーズに入社した当時は、兎に角がむしゃらにやると決め、何かしら社内で一番にならないといけないと思っていました。とにかく気合だけは入っていて、入社式の自己紹介ときに、「同期で一番になります」と宣言して退路を経ちました(笑)。
 
そういう意気込みで、やらされるでも自分からやるでもいいのですが、まずは1つの事を一生懸命やり続けると何かしらの課題を発見できる嗅覚みたいなものがつくと思います。インフルエンサーマーケティングもリスティング広告のオペレーションの煩雑さで苦しんだ経験から、すぐにこの業務には大きな課題が存在すると気付くことができました。でも、日々の仕事をなあなあにしていたり、営業だけにとどまって実運用を経験していなかったら、この課題には気付くことができなかったと思います。なので、1つの事でもいいのでやり続ける事をお勧めします。


●嗅覚というのは大事な言葉のような気がします。俗に「鼻が利く」というのは、ビジネスマンにとっては非常に重要なスキルだと思います。誰でも最初から嗅覚バツグンというわけではないですから、経験によって鍛えられますもんね。


石橋:鼻が利いているということを証明できるように頑張りたいと思います。


●広告運用経験を持つ起業家も徐々に増えています。運用型広告に携わっていて、悶々としている若い人もいると思いますので、彼ら彼女らに何か一言あればぜひお願いします。


石橋:レポートの作成や入稿などの地味な作業を嫌う人も多いと思うのですが、必ず何かに繋がっていくと思います。「SEM」「純広」など縦軸で部署が切られていても、SEM なら SEM だけでいいと思うんですよ。
 
SEM であればむしろラッキーで、伸びている分野には伸びている理由や意義が必ずありますから、その意義を自分の仕事に結びつけることができれば強いと思います。ソーシャルであれば消費者の理解とコンテンツ力が養っていけると思いますし、一つの事を極めると課題が見つかり、その課題発見や解決施策のフレームが他にも当てはまることに気が付けるようになり、深い洞察の中で次の道が必然と見つかるのではないかなと思います。


●以前、「増大する役割の先にある、少し先の、広告運用の現在 〜A future state of AdOps 【第4回】 」 という記事で「T型人材」について書いたのですが、本当のプロフェッショナルは自身の得意領域の周辺も詳しいことが多く、「それしかできない」ということはあまりないんですよね。だからまずは縦を伸ばせという話かなと、今のお話を聞いて思いました。


石橋:そのためにも、まずは何か決めた事をがむしゃらにこなしてみるのが良いかもしれません。


●もちろん、心や身体を壊すまでやるのはナンセンスなので、「ここだ」と思ったら全力を尽くせ、ということでしょうか。何かしらやり切った人には自信もつきますしね。


石橋:前職でFacebook広告を扱っていた頃も、SEM を扱っていた頃も、運用があまり好きでない人たちがいました。「なんでこんな作業なんか」と思うと楽しめなくなってしまうので、好きでない理由を自分の中で掘り下げて解明して、その課題を解決するという考え方をすると楽しめるのではないかなと思いますし、楽しみつつやり切れるのではないかと思います。


●斜に構えてとか上から見ないで、ただひたすら取り組んでみることで全体が捉えられる瞬間というか、ブレイクスルーがあることも多いですね。一生懸命やっていると助けてくれる人も増えてきますし。本日はありがとうございました!




▶レモネード株式会社

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