動画広告はユーザーに寄り添わなければならない

これは動画広告?

突然ですが、まずは下の動画広告をご覧ください。



こちらの動画は、P&Gのおむつのブランド「パンパース」の動画広告です。2016年5月30日~6月2日に開催されたアドバタイジングウィーク・アジアに参加した際に、動画に特化したアドテクノロジー企業であるアンルーリー(Unruly)のセッションで動画広告の成功事例として紹介されていました。感動的なストーリーで思わずひきつけられてしまいますが、動画の最後でパンパースのロゴが出てきて初めて動画広告だということに気づく人が大半だと思います。

ここで、また別の動画をご覧ください。



こちらの動画はタカラトミーの「人生ゲーム」の動画広告で、2016年6月2日に開催されたTwitter Japan主催イベント「#AgencySummit」に参加した際に、ソーシャル動画のクリエイティブ成功事例として紹介されていたものです。キャンペーン開始からたった2週間で再生回数1,000万回を突破したことで話題になりました。

2つの動画広告に共通すること

「パンパース」と「人生ゲーム」の動画広告をご覧頂きましたが、この2つの動画には共通することがあります。

まず、動画の長さです。パンパースは3分49秒、人生ゲームは4分13秒と、両動画ともに約4分です。テレビCMではなく、動画広告だからこそ実現できる長尺の広告となっています。

次に、製品そのものが一切出てきません。人生ゲームに関しては動画冒頭で企画の説明がされるため何の広告かは分かりますが、製品そのもの自体は出てきませんし、パンパースについては徐々に企画の内容は明らかになってくるものの、パンパースのロゴは動画の最後にやっと登場し、おむつは最後まで結局出てきません。

最後に、共感、感動を与える内容になっていることです。パンパースもそうですが、人生ゲームも最後の登場人物に関しては、結婚式を挙げることが出来なかった両親へのサプライズという涙を誘う内容となっています。そしてこのパートに約4分のうち2分30秒が割かれていることからも、このパートがメインであることがはっきりとお分かりいただけると思います。

動画広告は長い方が良い?

冒頭にご紹介した2つの動画は共に長さが約4分と長いものでした。では動画広告は長い方が効果があるのでしょうか?

これに関してはGoogleの興味深い調査があります。米国の製菓会社Mondelezと協力し、長さの違う3パターンの動画広告(15秒、30秒、2分)を配信、それぞれの効果を比較したのです。

Google_VideoAd_VTR

image source:Think with Google


上の図はそれぞれの動画の視聴完了率(View Through Rates、以下VTRs)を比較したものです。これをみると一番短い15秒の動画が最も観られていない、即ちスキップされたという結果が出ています。30秒の動画がVTRsが最も高いですが、2分の動画もそれに次いで高いVTRsを記録しています。

Google_VideoAd_BrandLift
image source:Think with Google


また上の図は広告想起率(Ad recall)とブランド好感度(Brand favorability)の効果を動画の長さごとで比較した図です。これを見ると、短い15秒バージョンの動画は広告想起には優れていて、長い広告(30秒、2分)はブランド好感度のアップに優れていることが分かります。

動画本編再生前に流れるプレロール広告においては、ユーザーが広告をスキップしないように短い尺の動画が一般的となっています。しかしこの調査では、一番短尺の動画が最もスキップされ、かつブランド好感度アップにも貢献しにくいことが明らかになりました。また、SNSでのシェアやエンゲージメントには何らかのストーリーを持った動画が効果的であり、パンパースとタカラトミーの成功事例はまさにこのことを証明しているのではないでしょうか?動画の尺を短くすることにこだわり、単に製品、サービスの広告としてしまうのは賢明とは言えないでしょう。

アドブロックを意識したコンテンツ作り

2つの動画広告の共通点として、製品自体が一切出てこない点を紹介しました。これには一体どのような狙いがあるのでしょうか?

アンルーリーのセッションで強調されていたのが、「アドブロック」です。
アンルーリー社とマインドシェア社が共同で発表した調査結果によれば、APACのユーザーの実に90%がアドブロックソフトの利用を検討していて、日本のユーザーに関しては94%とAPAC全体より高い数値が出ているとのことです。ユーザーは広告に追われるのを嫌がり、強制的に広告を見せられることを拒んでいるのです。実際、Googleで「アドブロック」と検索すると下記のような結果となり、アドブロック用のアプリもすっかり浸透していることがうかがえます。

AdBlock_SERP

アドブロックのトレンドについてはAdverTimes(アドタイ)の下記記事が参考になるのでこちらを参照ください。

リンク:ディスプレイ広告で稼ぐ時代が終わる? スマホのユーザー体験が突きつける現実

上記結果だけでは動画広告の配信自体を諦めたくなるかもしれませんが、アンルーリー社がミレニアル世代に対して行った調査では広告主にとってポジティブな結果も出ています。

例えば、ミレニアル世代は他の世代に比べて23%も自分が興味のある動画広告を楽しみ、気に入った動画広告に関しては他の世代に比べて112%も多くシェアする傾向があるといいます。動画広告を観たことによってハッピーになったり、影響を受けるユーザーも他の世代と比較して多いようです。

これらの事実を踏まえると、その情報を求めている、興味があるユーザーに適切なタイミングで広告を届けることが動画広告でも重要であることが分かります。製品、サービスを単にアピールするような動画広告はアドブロックの対象となってしまうでしょう。

特定の感情に訴えかける

セッションでアドブロックに次いで強調されていたのは「感情」です。アンルーリーによれば、シェアされやすい動画広告はユーザーに特定の感情を訴えかけているといいます。国によってポイントとなる感情は異なってくるようですが、日本で最もシェアされやすい動画は「温かみ」を感じさせるもので、「インスパイア」される、「嬉しい」と感じる動画がそれに続いてシェアされやすいとのことです。確かにパンパースしかりタカラトミーの動画広告も、単に感動するだけでなく「温かみ」が要素としてしっかり盛り込まれているように感じます。

上記の感情に関するインサイトは、同社が2015年11月11日に日本でもサービスを開発した「シェアランク(ShareRank™)」の日本版開発によって明らかになったものです。下記、同サービスのローンチイベントのレポート記事で詳細が確認出来るので併せてご覧ください。

リンク:英アンルーリー、配信前に動画の拡散率を予測。「シェアランク」を日本で提供開始

パーソナルスペースに入り込む

また、もうひとつ意識しなくてはならないポイントがあると考えます。それは、動画広告はいわばユーザーのパーソナルスペースに入り込むようなものであるということです。YouTubeで動画を見たり、SNSのタイムラインやフィードの画面を見ている時間は、ユーザーがスマートフォン、PC、あるいはタブレットと向かい合って、自分自身の時間を楽しむパーソナルなものです。そして、動画広告はユーザーの意思に関係なくそこに突然現れ、自動的に再生されます。それがユーザーにとって有益な情報であったり感情を動かすものであれば、オンライン、オフライン上でその体験は拡散されるかもしれませんが、その逆もしかりです。

ここまで動画広告に関する考察を2つの動画をもとにに書いてきましたが、実は2016年2月末までは自分自身も広告業界に身を置かないユーザーであり、同時に広告主でした。YouTubeで動画を見るたびに流れるプレロール広告、Twitterのタイムライン上に流れてくるプロモビデオは自分の興味のないものも多く、お世辞にも良い気分はしませんでした。自分自身のパーソナルスペースに入り込まれたような感覚を持ちました。

広告主としてTwitter上でプロモビデオ(ミュージックビデオ)を配信した際は、当然ネガティブな反応もあって複雑な気持ちになったのを鮮明に覚えています。(ミュージックビデオを配信した理由についてはプロフィールを参照ください)いざ自分が広告主になってみると、出来るだけ多くのユーザーに「届けたい」想いが強まり、結果的に情報を欲していないユーザーのパーソナルスペースに不用意に入り込んでしまったのです。

しかし動画広告の中には、たとえそれが自分の興味の範囲外の製品やサービスでも見入ってしまうものもあり、いま考えるとそういった動画広告は本記事で触れてきたポイントを踏まえていたように思います。

動画広告はテキスト広告やバナー広告に比べて一度にたくさんの情報を届けられる反面、その届け方が非常に重要になってきます。コンテンツによっては即時アドブロックの対象となる可能性もあり、非常にデリケートなものです。だからこそ、ユーザーに寄り添いながらブランドイメージ、ストーリーを伝えることが重要ではないでしょうか?アンルーリーのセッションでも触れられていたように、ユーザー体験を尊重し、謙虚にかつ長期的な関係構築(デートを重ねるように)を目指してコンテンツを作ることが必要不可欠となるでしょう。

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