仕事で使うロジカルシンキングは、こうやって身に付ける

「2:ロジックツリーを作る」


なんらかの目的やゴールに向かってディスカッションをしていると、話を分かりやすくするために、図や表、座標軸などを使って説明したくなることがよくある。図解は、議論の整理や理解の促進のために非常に有効で、ぜひ、積極的に活用したいところだ。

そのような中でも、ロジカルシンキングを修得するために、習熟したいのがロジックツリーである。

ロジックツリーは、コンセプトの関係性、例えば、上位概念と下位概念、抽象と具体、現象と原因などを整理したり、それらの抜け漏れをチェックするのに優れた手法だと感じている。

このロジックツリーは慣れないと上手に使えない人も多いようだ。そんな人には、「世界一やさしい問題解決の授業」という本をお薦めしたい。かなり前に読んだので詳細は記憶していないのだが、この本は、ロジカルシンキングを中学生にもわかるようなスタイルで書いていて、とても親しみやすい。

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ただ、このような本を読んで、「なるほど。使い方がわかった気がする」と頷くだけでは、仕事で使えるようにはならない。なんらかの目的に向かって議論した内容を整理して理解するためにも、ぜひ、ロジックツリーを積極的に描いてみてほしい。実際に自分で描いてみて、初めて仕事で使えるようになっていくと思う。

私の場合、これまでそれなりにロジックツリーを作ってきたが、最も貴重な経験となったのは、Google在職時代に高広伯彦さん(現在、株式会社スケダチ代表)と一緒に作ったロジックツリーだった。

2007年にGoogleに入社し、最初の半年ほど、高広さんの部下として仕事をさせてもらった。Googleに入社して間もない頃、Googleのビジネスモデルの理解を深めたいという自分自身の欲求を満たすべく、かつ、そのことがGoogle Japanの営業チームのためにも役立つようにと、検索連動型広告のビジネスモデルを数式化して、かつ、それを営業アクションと連携させるという目的でロジックツリーを作ったことがあった。

この検索連動型広告のビジネスモデルの数式については、「RPM、そのビジネスの中心」というコラムに書いている。このコラムでは触れていないけれど、数式を基にして、RPMの構成要素であるそれぞれの変数を上げてGoogleの売り上げをアップできる営業アクションはどのようなものがあるのか。高広さんと抜け漏れをチェックしながら、ロジックツリーを作成したのだ。

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広告業界の多くの人が知っていると思うので多くの説明は要らないと思うが、高広さんは頭脳明晰で、かつ、アイデアに溢れた逸材である。彼からの論理的で厳しいツッコミを受けながら、一緒に概念を定義して整理し、個々の営業アクションのインパクトを理解しながら、ロジックツリーを作った。

そして、例えば、CPC(クリック単価)を高めるためには何をすればいいか、Coverage(カバレッジ)を上げるためにはどのようなアクションがあり得るか、などを把握して、営業としての具体的な施策に落としていったのだ。高広さんと一緒にロジックツリーを叩き上げて完成させた感じだった。

「3:文章を書く、まとめる」


そのようにしてロジックツリーを作ったら、他の人に理解してもらえるようにプレゼン資料にまとめたり、文章にしたりすると、さらにいいと思う。資料作成や文章を書くプロセスがロジカルシンキングのトレーニングになる。また、自分の理解が曖昧だと明解な分りやすい文章を構築できない。なので、ロジカルに考え抜かれていない点の検証にもなるはずだ。

私の場合、文章を書くプロセスの重要性を最初に体感したのは、学生時代にゼミで書いた論文だった。これは「現代思想」というアカデミックな雑誌に掲載され、国立国会図書館にも収められていて、「貨幣の複数性 有園雄一」で検索すると出てくる。

この「貨幣の複数性」を書いていたとき、論理的でロジカルな文章になっているかについて、細心の注意を払っていた。これにはちょっと理由があって、最初にこの論文を大学のゼミで発表したとき、東京大学経済学部教授(当時)で、後に経済学部長になった岩井克人さんの著書「貨幣論」を批判する形で書いたのだ(実際に「現代思想」に掲載するときには、大人の配慮で、岩井さんの直接的な批判であるとは分からないようにした)。

岩井さんは当時からアカデミックな世界では有名な学者で、しかも「貨幣論」はとても面白く、その世界ではよく売れた本だった。私は経済学科在籍だったので、最初は興味本位で「貨幣論」に手を出し読んだのだ。

岩井さんの文章は知的で非常に面白く、一気に読み終えてしまったのだが、彼の論理展開に最後の部分で飛躍があるような気がして、それが気になった。さて、私は、何が気になったのか?

岩井さんは、世界に貨幣が一つしか存在しないモデル「世界貨幣」という空間を作り、その中でハイパーインフレーションが発生すると、その流れを止めることができず、資本主義の崩壊に至るという論を展開していた。

それは、知的な読み物としては面白かったのだが、自分なりにふっと考えてしまったのだ。「そのように、単一の貨幣しか存在しない世界、世界貨幣という世界が現実にあり得るのだろうか」と。もしそれが現実的にあり得ないとすれば、そもそも、仮説としての世界貨幣自体が間違っているのではないか?

また、ハイパーインフレーションが継続したとしても、貨幣価値が下がり続けるだけで、そのことが即、資本主義の崩壊に至る訳ではないはずだ。貨幣価値が下がり続けること。資本主義が崩壊すること。この二つの事象をつなぐ論理が破綻していると感じた。それに、そもそも、資本主義が崩壊するとは、どのような状態を指しているのか。つまり、資本主義崩壊の定義が曖昧なまま、岩井さんは論じていると思ったのだ。

このコラムの最初の方で書いたが、「単語A」の定義を、ここでは、「資本主義崩壊」の定義を、はっきりさせないと、論理的に「資本主義崩壊」を語れないのではないか?

そのような疑問が契機となって「貨幣の複数性」という論文を書くことになったのだが、東大の経済学部長まで務めた人の「貨幣論」が間違っている、あるいは、論理展開が甘い、という趣旨のことを普通の学部生が書く訳なので、とっても気を使った。

つまり、論理展開が本当にロジカルかどうかについて、細心の注意を払ったのだ。自分が書いている文章が論理的に破綻していたら批判にならないし、かつ、「何を馬鹿なことを言っているんだ」と一笑されるだけだと思ったからだった。

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この批判的に文章を書くというプロセスを通じて、学んだことが大きく二つある。

一つは、批判的に岩井さんの「貨幣論」を読む、それも、繰り返し何回も読むことになるのだが、それが結果的に、岩井さんの文章の行間を深く読み込むことにもなり、そして、岩井さんの意図をより深く汲み取ることになる(そういう気になる)。

これは、私の勝手な解釈だが、おそらく、岩井さんは私のような批判があり得ることを百も承知で「貨幣論」を仕込んだと思う。その理由は、資本主義崩壊の可能性を提示することがストーリーとして面白いからだ。これは後から気づいたのだが、ある種のレトリックとして「貨幣論」を書いていると思った。ただ、そのレトリックによって、貨幣の本質を、一般の人に、私みたいな経済学の初学者に、分かりやすく面白く伝えようとしたのだと思う。

そして、もう一つは、批判的に読む、あるいは、批判する論文を書くという行為は、知的な緊張を生み、主体的にロジカルに考えるようになるということ。そのことに気づいた。

ある意味で、岩井さんの作品を、仕事を乗り越えようとチャレンジしている自分がそこに存在する。他者を批判し乗り越えようとすることで、他者に依存しない独自の論理を構築していくことになる。独立した自分のオリジナルの考え、意見、論理を作り上げようという意思が自ずと働くのだ。

自らの頭で考えて、自分の足で立とうとする。

この主体的な思考プロセスが、ロジカルシンキングを鍛え上げていく。

「4:主体性を持つ」

この主体性を持つということは、ロジカルシンキングを身につける際に、おそらく、一番重要なことではないか。

例えば、学校の算数の問題であれば、正解という答えがある。しかし、ビジネスの課題には必ずしも正解はない。さまざまな方法があり得るし、複数の解答があり得るのだ。つまり、明確な正解がない世界で、問題を整理し、課題を設定して、そして、それに対する自分なりの解答を用意しなければならない。それがビジネスの世界だ。

自分なりの解答を作るには、自分の頭で主体的に考えて、自分なりの論理展開を作ることになる。他人に依存して同じことをするのが正解であるとは限らないからだ。

したがって、ロジカルシンキングを身につけるには、主体性が必要条件だ。そして、仕事で通用するロジカルシンキングを修得するには「1:タイプの異なる人とディカッションをする」「2:ロジックツリーを作る」「3:文章を書く、まとめる」ことを、仕事の中で継続的に実践していくことが効果的だと思う。

ここでは、仕事の中で継続するというのが大事だ。

でも、そのような継続的な努力も、主体性がないと受け身では続けられないだろう。なので、結局、一番大事なのは、主体性だと思う。

さて、それでは、そのような主体性は、どうやって身に付ければいいのか? そんな声が聞こえてきそうである。この問いに対する私なりの考えは、また、次の機会に書くことにして、長くなってきたので、今回はこの辺で筆を置くことにしたい。

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