AdWordsの自動入札をちゃんと理解するために:オフィシャル解説書「Setting Smarter Search Bids」を読み込んでみた

「自動入札」ツールとは

 
「自動入札」と聞くと、サードパーティツールの自動入札機能を思い浮かべる運用者は多いのではないでしょうか。

2000年代中盤から後半にかけて脚光を浴びたリスティング広告の自動入札ツールは、トラッキングシステムから判断したデータに沿ってプラットフォーム側に上限入札単価(以下:上限CPC)を自動的に変更する仕組みです。入札の条件をコントロールできるものを「ルールベース型」、金融工学然としたモデルを採用したものを「ポートフォリオ型」、両者を合わせたものを「ハイブリッド型」などと呼び、2000年代後半には、国内外含め様々なベンダーがしのぎを削っていました。

これらのツールは、広告配信の実績から推定/逆算して入札を調整する機能を有し、広告プラットフォームが何であれ、データに基づいた入札の変更が可能でした。APIで繋がってさえいれば1つの管理画面で何でも対応が可能だったため、その後の自動入札ツールから統合管理ツールへの移行も、今から考えれば自然な流れだったのかもしれません。

一方で、これらの入札ツールはプラットフォームの設計思想がじゅうぶんに考慮されているとは言いがたいのもまた事実です。本来、プラットフォームの思想を理解し、ユーザーの情報行動に寄り添うように設計されたアカウントであれば、それほど頻繁に入札を切り替える必要はないですし、広告の表示可否や順位には広告そのものの品質を考慮したランキングシステムが採用されている以上、入札だけで解決しようというアプローチは最適化の観点からすれば片手落ちとも言えます。

「自動入札」と「入札業務の自動化」の差

 
では入札をまったくしなくていいかというと、そういうわけではもちろんありません。

仮に上限CPCが一定でも、現実にはオークションが発生するごとに(≒検索やページ閲覧ごとに)入札は行われています。「自動入札」という言葉は「上限CPCを自動的に変化させる」という意味で使われることが多いですが、実際にコストに結びつくのは上限CPCではなく実際のクリックごとの実CPCですから、成果に合わせて実CPCを変化させるアプローチの方が広告の目的に対して自然なはずです。

今回ご紹介する資料には、「automated biddng(auction-time bidding)」という言葉が使われています。これは上記に記載したこれまでの「自動入札」とはニュアンスが異なる表現です。わざわざ、「オークションごと」と表記していることからも、単に結果だけを見て上限入札単価を機械的に変えるこれまでの「自動入札」とは意味が異なることを示唆しているように思います。

実際、オークションごとに判断できる様々なシグナル(デバイス、時間、場所、履歴、ユーザー属性等)に沿ってプラットフォーマー側で実入札を判断する仕組みは、オークションの仕組みを管理するプラットフォームにしか担えず、外部のサードパーティでは実現不可能な機構です。

「自動入札」という言葉を、「入札という行為そのものを、オークションごとに変化させる(つまり自動化してしまう)」という意味だと捉えると、この資料が伝えようとしているイメージを掴みやすいかもしれません。

入札をよりスマートに「Setting Smarter Search Bids」

 
前置きが長くなりましたが、AdWordsの入札の自動化について解説されたPDF資料「Setting Smarter Search Bids」を読み進めてみたいと思います。
setting-smarter-search-bids-590
この資料は残念ながら2016年1月時点では日本語化されていませんが、2015年より広く一般に公開されています。(英語のヘルプページから辿る必要があります)

参考:About flexible bid strategies – AdWords Help
※このページにPDFへのリンクがあります。

PDFへの直接リンクはこちら
※クリックするとPDFが開きます(もしくはダウンロードされます)

プラットフォーム以外には不可能な入札最適化

 
繰り返しになりますが、オークションごとの様々なシグナル(デバイス、時間、場所、履歴、ユーザー属性等)に沿って実入札を変化させる仕組みは、プラットフォームでないと実現できません。

では、具体的にそのプラットフォームの雄である AdWords の自動入札の特長とは、具体的にはどういうものなのでしょうか。資料では、以下の3つが挙げられています。

1.オークションごとの入札(True auction-time bidding)
2.検索語句レベルでの個別学習(Adaptive learning at the query level)
3.多様なシグナルの解析(Richer user signals and cross-signal analysis)

それぞれ詳細に解説されていますので、個別に見ていきたいと思います。

1.オークションごとの入札

 
一日に何度か上限CPCを変更するような自動入札ではなく、検索の度にユーザーの状況や目的、デバイスもクエリも一つ一つすべて違うわけだから、都度目標に合わせた入札の変化を行おうというのが「オークションごとの入札」です。

手動入札、ルールベース、ポートフォリオ入札いずれも過去のキーワードごとの実績に基づいて上限CPCを変更する方式になりますが、AdWordsの自動入札はすべての検索行為(オークション)ごとにユーザーのシグナルを考慮して入札を変化させることができます。

auction-time-bidding

AdWordsの入札自動化チェックリストより作成


上図は、2014年の11月に発表された入札自動化のチェックリストにあった図をもとに筆者が作成したものですが、一般の入札方式が左上の上限CPCのみなのに対し、AdWordsの自動入札ではオークションごとに違う様々なシグナルを考慮した上で入札を行います。

参考:Inside AdWords: Unlock the Power of Auction-Time Bidding in AdWords
参考:GoogleがAdWordsの入札自動化チェックリストを発表 ~ admarketech.

もちろん AdWords で判断できる範囲ではあるものの、考慮する範囲と頻度は、上限CPCのみの場合と比べてケタ違いに広い(多い)ことが分かります。

2.検索語句レベルでの個別学習

 
外部ツールでは、アカウント内にあるキーワードの実績をもとに上限CPCを変化させますが、アカウントに設定しているキーワードはあくまでターゲティングの一種であり、実際にユーザーが検索した検索語句(検索クエリ)ではありません。

キーワードのパフォーマンスはアカウント構造に依存するため、通常の入札では実際の検索クエリは考慮されず、データが溜まっているキャンペーンや広告グループばかり頻繁に上限CPCを変え、統計的に有意になりにくい小規模の広告グループは放っておかれる(もしくはルールベースで無茶な上限CPCが設定される)という状況になりがちです。

プラットフォーム側では実際の検索クエリごとのデータを学習していくため、アカウント構造に依存されず、キーワードが変わっても過去の検索クエリごとのパフォーマンスデータから予測モデルを弾き出し、適切な広告グループの広告をトリガーにして入札を自動調整することが可能になります。

3.多様なシグナルの解析

 
1.と 2. より、検索クエリが発生したオークションごとに、様々なシグナルが判断されるということが分かりましたが、実際に判断される「様々なシグナル」も、資料内で代表例が挙げられています。

signals
具体的に挙げられている項目は、以下のように多岐にわたります。そしてこれらはそれぞれ単独で判断されるわけではなく、複数の要素が組み合わさり、KPIに沿った効果が出るかを総合的に判断して、入札に適用されます。


<シグナルの種類>
「デバイス」
「地域/場所」
「曜日/時間帯」
「リマーケティングリスト」
「実際の検索クエリ」
「広告文」
「ユーザーの言語」
「ブラウザ」
「OS」
「検索パートナー」


cross-signals

企業の目的に合わせた入札モデルの設定

 
入札の戦略を決める際には、「どんな目的に対して最適化するか」をまず始めに考える必要があります。

bid-strategyROAS や CPA といった購買/コンバージョンに沿った最適化はもちろんのこと、ウェブサイトやアプリへのトラフィック最大化などが広告の目的であれば、その目的に沿った成果を出すための入札戦略を採用します。

実際、AdWords の共有ライブラリ内にある入札戦略の種類は「拡張CPC」「検索ページの目標掲載位置」「目標コンバージョン単価」「目標優位表示シェア」「クリック数の最大化」「目標広告費用対効果」と、2016年1月時点でも6種類あるので、広告の目的とアカウントの状態に合わせて適切な入札モデルを採用することが、自動入札の成功とキャンペーン目的の達成に繋がっていくでしょう。

コンバージョンや費用対効果を目的にした入札戦略:

自動入札を利用する際には購入や登録などのコンバージョンに対して最適化を目指すことが多いため、資料も ROAS や CPA に向けた最適化の説明に文字数が割かれています。

performance-based-bid

※クリックすると拡大します


コンバージョン目的のための入札モデルは、大きく分けてコンバージョン数と単価を目標にした「拡張CPC(eCPC)」「目標コンバージョン単価(Target CPA)」と、広告の費用対効果を目的とした「目標広告費用対効果(Target ROAS)」の2つに分類されます。

eCPCは、AdWordsで発生したトラフィックの一部(5割〜7割)に対し、予測コンバージョン率に合わせて上限CPCを −100%から+30%まで動的に変動させるモデルで、Target CPA は目標とするコンバージョン単価に合わせて予測コンバージョン率から割り戻したCPCを動的に変動させるモデル、Target ROAS はさらにコンバージョンごとの価値を変数として組み込むモデルになります。

…と、文章で書いてもよく分からないので、資料内ではその流れが図示されています。

コンバージョンを目的にした入札戦略(目標CPA)

target-cpa

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費用対効果を目的にした入札戦略(目標ROAS)

target-roas

※クリックすると拡大します


目標ROASと目標CPAの違いは、コンバージョンごとの価値を予測に組み込むかどうかになります。言い換えれば、コンバージョン率やコンバージョンのもとになるクリックごとの平均価値を算出し、そのプロセスの予測精度を、機械学習を通じて引き上げていくということですね。

予測精度を上げるために必要な「量」

 
予測の精度(確からしさ)を担保するには、算出に使われる要素の量が多ければ多いほどいい、ということになります。コンバージョンや費用対効果に合わせた入札の場合、最も重要な要素コンバージョンになりますので、資料ではこの量の目安も提示されています。

目標CPA設定のコンバージョン数目安:

requirement-conversions

上記は Target CPA を設定する際のコンバージョン数ごとの目安です。3つの列の一番左「Number of Conversions」は、過去30日間のコンバージョン数がテーブルになっています。

真ん中の列「CPA Fluctuation」は 目標CPAに対しての実際のCPAの変動を指します。つまり、コンバージョン数が少なければCPAは上下することが多く、コンバージョン数の多いアカウントは学習のための分母が多いため、目標CPAと実際のCPAの剥離は起きにくくなります。目標CPAの利用には、少なくとも30日間で30件以上のコンバージョンがあることが望ましいと言われています。

目標ROAS設定のコンバージョン数目安:

requirement-conversions-roas
上記は Target ROAS を設定する際のコンバージョン数ごとの目安です。広告経由の売上という変数を加味する必要があるため、CPAのときより必要なコンバージョン数が増えていますね。こちらは少なくとも30日間で50件以上のコンバージョンがあることが望ましいです。

なお、3つの列の一番右「Initial Learning Period」は、学習期間です。コンバージョン数が多ければ多いほど、CPAの変動だけでなく、学習に必要な期間も短くなります。学習の状態を確認するには、「共有ライブラリ」の「入札戦略」から確認ができます。

参考:入札戦略のステータスについて – AdWords ヘルプ
参考:AdWordsの共有ライブラリ「入札戦略」レポートが刷新

なお、2016年1月の時点では、各キャンペーンの設定画面から個別に入札戦略を指定すると学習ステータスの確認ができないため、共有ライブラリから入札戦略を作成したあとに、キャンペーンの設定画面から共有ライブラリにある入札戦略を紐付ける、という方法を採る必要があります。

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※キャンペーン設定画面

学習に必要なコンバージョンサイクル

 
自動入札では、コンバージョンデータの更新に合わせて入札は更新され続けますが、アカウント内の変化(キーワードや広告文、URLの追加変更など)や外部要因(季節変動や競合状況の変化など)が入札に適用されるまでは、タイムラグがあります。

AdWordsのコンバージョンは、そのコンバージョンに至ったクリックに遡って紐付けられるため、例えばクリックからコンバージョンまでの平均期間が7日間であれば、そのデータが入札に適用されるにはやはり同じ7日間の期間が必要だということです。

コンバージョンまでの期間を知るには、「運用ツール」>「アトリビューション」が便利です。コンバージョンまでの平均期間を、広告の表示、クリックなどの指標から確認できるので、自分のアカウントがどれくらいの学習期間が必要か、おおよその目安を知ることができます。

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※管理画面の上部メニューから

重要なのは、焦らないこと:

コンバージョンの量とサイクルが入札の最適化に重要な要素ですので、自動入札設定直後の CPA や ROAS の変動に一喜一憂しないことが重要です。

We also automate this process so that advertisers don’t have to manually calculate and frequently adjust for these conversion delays themselves.
アドワーズではコンバージョン期間を加味して要素の重み付けを自動的に調整しているので、広告主は手動でコンバージョン期間などの設定を変更する必要はありません

という記載にもあるように、ある程度データが溜まっているキャンペーンであれば、初期の挙動が目標通りにいかないからと焦って手動で変更するのではなく、コンバージョン量とサイクルから予想される学習期間が過ぎる間はドーンと構えて待つ、くらいの姿勢がよいかもしれません。

conversion-delay

※CPAの変動イメージ(30日間の場合)


上記はコンバージョン期間を30日として設定した場合の目標CPAの変動例(あくまでサンプル)です。最初はコンバージョンデータが少ないため目標CPAが定まらず高止まりしてしまうことが多いものの、日を追うごとに実績が溜まって予測の精度が上がり、最終的には目標CPAに収まっていく様子をイメージしています。

スマートな入札のために

最後に、「Setting Smarter Search Bids」に書かれている内容をまとめると、以下になります。

 
自動入札とは、オークションごとの入札最適化:AdWordsの自動入札は、キーワードごとの実績に合わせて上限CPCを変える、という旧来の自動入札ではなく、オークションごとの検索の意図を読み込んで、個別の入札をリアルタイムで行なうこと。

キーワードではなく、検索クエリレベルの実績を考慮:旧来のキーワードレベルでの最適化ではなく、キーワードとマッチングした実際の検索クエリのデータをもとに最適化するので、より精度の高い入札変更が可能になる。

多様なシグナルを考慮:デバイス、地域、日時、ブラウザ、OS、言語など、様々なシグナルを組み合わせて予測の精度を上げている。

広告の目的と入札戦略を合わせる:広告で達成したい目的と、入札戦略を合わせることが重要。

コンバージョンサイクルを考慮:広告の表示やクリックから実際にコンバージョンするまでの一連のサイクルを考慮して最適化されているので、焦らないことが肝心。

こうして見てみると、手動や一部の要素だけを考慮した入札業務は、AdWordsのような運用型広告の世界では徐々にその重要性を失っていくことが改めて理解できるのではないでしょうか。

それは言い換えれば、人力の入札業務の代わりに、入札プランそのものを設計する能力(≒自動化を成立させるアカウント構築能力)はますます重要性が高まっていくことを意味しているとも言えるのかもしれません。


<2016年4月5日更新>
 
資料の日本語版が公開されました。以下のページのリンクからダウンロードできます。

リンク:自動入札機能について – AdWords ヘルプ

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