広告運用者(AdOps)としての生き方(3):スキル編

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広告運用者(AdOps)としての生き方(3):スキル編

 
不定期連載シリーズ「広告運用者(AdOps)としての生き方」、第3回目は、企業よりも個人にフォーカスしてみたいと思います。


これまでの記事はこちら:

広告運用者(AdOps)としての生き方(1):雇用編
広告運用者(AdOps)としての生き方(2):企業編


運用型広告を扱う運用者に求められるスキルは、年々多様化・専門化しています。企業や役割によって違いはありますが、就業要件をざっと並べると「そんなスーパーマンはいないのでは…」「仮にいても御社には入社しないのでは…」というツッコミをせざるを得ない特盛りの求人票が出来上がってしまいがちです。


では、運用型広告に従事する人に求められるスキルやマインドセットは、実際はどのようなものなのか、変化の激しいこの分野で蛍雪に耐えうるスキルというのは果たしてあるのかどうか、少し考えてみたいと思います。



デジタルマーケティングでのT型人材

いわゆる「T型人材」という言葉があります。英語では “T-shaped skills” や “T-shaped person” などと言われ、アルファベットのTの文字のタテを専門性、ヨコを視野や知見の広さに見立てた表現です。1つ以上の特定分野で深い専門性を軸に持ち(タテ)、周辺領域をはじめとして他のジャンル(ヨコ)についても幅広い知見を併せ持っている人材を指すようです。


この造語は、コンサルティング会社 IDEO の CEO である Tim Brown 氏が自著で言及したことから広まったと言われており、日本でも人事や組織デザインの文脈で、21世紀の企業に求められる人材像のひとつのモデルとして定着してきました。
※最近はパイ型(Π型)やH型とも言うらしいですが、これらの新語はどれもT型と定義がほぼ同じです。


この「T型人材」は、多様化するデジタルマーケティングにおいても適用が可能な考え方であると、Moz の創業者である Rand Fishkin は言います。 彼が2013年に提唱した「T型ウェブマーケター(The T-shaped Web Marketer)も、まさにT型人材を現代のマーケティング従事者に当てはめたモデルです。


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出典:The T-Shaped Web Marketer – Rand’s Blog



上図では Moz らしく SEO が例に挙げられていますが、タテに SEO の深い知識や経験を持ち、ヨコの UX や Social などをはじめとした周辺領域にも広い知見や素養を持つ、T型の SEO従事者がモデルとして提示されています。


実際、キーワード調査やコピーライティング、データの構造化や分析など、ウェブマーケティングの各領域には重複する要素が多いことからも、T型ウェブマーケターの概念は、現場を持たれている方なら納得感のあるモデルではないかと思います。



T型マーケターと組織

先述の Tim Brown の著書「デザイン思考が世界を変える」では、T型人材を採用することの効用について言及しています。


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「デザイン思考が世界を変える (ハヤカワ・ノンフィクション文庫)」



「スペシャリスト(I型人材)だけで構成されたチームでは、各個人が自分の専門分野の擁護者になってしまう傾向があるため、政治の優先順位が高くなり、折衝が長引いたり、中途半端な妥協に落ち着くことが多い傾向がある一方で、T型人材が集まる組織では、ヨコの知見と自身のタテの矜持によってそれぞれの専門性にリスペクトが生まれやすいため、政治に走りにくく、アイデアの共有や化学反応が起きやすい」
と本書では指摘しています。


この指摘は、先ほどの「T型ウェブマーケター」でも同じです。T型ウェブマーケターの集まった組織は、以下の4つの意味で利点があると Rand Fiskin は主張します。




1. 幅広さは信頼を醸成する

専門外であっても周辺知識があるメンバーは、他の専門性を持つ人のチャレンジを意味や重みを理解することができます。互いの理解や認識こそが仲間意識や信頼を生み、コンフリクトを起こさずに業務を進めることができるようになるでしょう。

2. 深さは(熟達したいという)欲求を満たす

ダニエル・ピンクが言うように、人々が仕事で幸せになるには「自治」「熟練」「目的」の3つが必要です。専門性の極めることを目指し、専門性が高いと認められることは、業務へのロイヤリティ、コミットメント、自身がこの分野を支えているというメンタリティを生み出すことにつながります。

3. 知識の重なりは創造性を生み出す

一人では創造性を発揮するのは非常に難しいことです。T型人材がそれぞれ重なりあっていれば、それぞれの専門性と共通理解が創造性を生み出し、一人では難しかった解決策やアイデアを出しやすくなります。

4. T型の仲間同士こそ支え合うことができる

サービスを発表した日に、データを分析したり誰かに説明できる人が自分しかいないとしたら、きっと最悪の気分になると思います。T型メンバーで構成された組織であれば、重要な局面でお互いに(足手まといではなく)支え合うことができます。それは、「人材の余剰」ではなく、「本質的な冗長性」です。





これらの指摘は、組織が広告代理店であってもインハウスであっても、ある程度人数が増え大きくなった集団には共通して通用する考え方ではないかと思います。マーケティングにおけるデジタル比率が上がるにつれ、マーケティング従事者が一人でカバーする範囲はどうしても広くなりがちなため、関連部門や専門家との連携はますます重要になります。そして、その連携の巧拙が継続性と品質を生み、PDCAを現実的なものにします。


1つの領域を深く潜っていくと、接続される周辺領域に習熟する必要が出てきますし、その周辺領域も、元々の領域に適切な専門性があれば、まったくの素人の時よりも類推が働き、大きな間違いが少なくなります。専門性デジタルに身を置く以上、マーケターはT型である必要があると言えるのかもしれません。



「何でも屋」は、何からでも始めやすい

トレーディングデスクを提供する Operative の CEO である Lorne Brown は、2年前の2013年11月に開催された Ad Operations Summit で以下のように語っています。

The ad operations role has evolved tremendously. Simply among those who took part in the session, we generated a list of 20 responsibilities that now fall onto ad ops. It’s no longer just about doing QA, inventory management, trafficking, reporting and, campaign management. Ad ops now has direct responsibility for technology, vendor management, creative and developers, yield management, programmatic, block lists and change management around new sales structures, ad technology and processes.
 
広告運用という役割は途方もない発展を遂げました。我々は広告運用者に振りかかる20もの職責をまとめたリストを作れます。広告運用はもはやQA(品質保証)、在庫管理、広告取引、レポートやキャンペーンマネジメントだけに留まらず、テクノロジー、ベンダーマネジメント、クリエイティブや開発、イールドマネジメント、プログラマティック、ブロックリストや営業の組織編成、プロセス管理などあらゆる分野に直接的な責任を負っています。



この発言からも示唆されるように、広告運用者は既に「広告」の範囲を越え、関係するすべての役割の「運用」を期待されています。実際、運用型広告の重要性が高い現場では、顧客の実質的なインターフェースを運用者が務めたり、システムの管理やベンダーとのやり取りは現場にいる運用者でないと適切に実務が回せない、というケースが多いように思います。


このような傾向は年々拍車がかかり、求人サイトには冒頭に挙げたようなスーパーマンな募集要項がたくさん並ぶわけですが、残念ながらその募集要項をクリアできるような人は稀ですし、どんな人でも始めは専門領域以外は初心者であることは変わりありません。


私が好きな記事の一つに、Ad Ops Insider の「広告運用者として働く8つの理由」という記事があります。広告運用者は「専門性の高い何でも屋」ですが、そこへの第一歩は、実はとてもかんたんなことなんだと思うことができます。


リンク:Top 8 Reasons to Work in Ad Operations | Ad Ops Insider


1.デジタルマーケティングを学ぶのに最良の場所である

There’s no better place to learn about digital advertising.


2.広告運用はチャレンジングで、能力に関わらず、成長せざるを得ない

Ad Ops is challenging – no matter what your skill set, it forces you to develop lots of new ones.


3.広告運用はデジタル広告に関わるすべての職業への理想的な入口である

Ad Ops is the ideal platform for just about any job in digital advertising.


4.安定した雇用があり、初心者にとって最も働きはじめやすい場所の一つ

Major job security – virtually everyone is hiring and there aren’t nearly enough qualified people.


5.広告運用はデジタルメディア企業にとって重要性が増している

As a strategic team, Ad Ops is only getting more important within digital media companies.


6.業界自体が早いペースで多様化し、広告運用的な仕事が必要な領域へ拡大している

The industry is growing at an incredible pace and diversifying into new areas that all need Ad Ops leaders.


7.広告運用には、互いに協力できるコミュニティが存在する

Ad Ops has a great community built on cooperation.


8.何より、面白い!

It’s Fun!




好きこそものの上手なれではないですが、この8番目の項目のように、楽しめる環境と対象があることに気付けることが、T型の縦のスキルを深め、横の幅を広げていくための一番重要な要素なのかもしれません。

The major difference in digital is that you get to sit on the leading edge of innovation; you get to be part of the real-time invention of an industry, and work for exciting companies that are changing the world. Could there be anything more fun?
 
デジタルが他の業界と大きく違うのは、イノベーションの先端に腰掛けることができるってことなんだ。産業がリアルタイムで生まれる場に参加して、世界を変えるようなエキサイティングな会社に勤められる、これ以上面白いことがあるかい?



第1回: 広告運用者(AdOps)としての生き方(1):雇用編
第2回: 広告運用者(AdOps)としての生き方(2):企業編

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