いまどきの消費者行動の実態は、AISAS から DUAL AISAS へモデルチェンジしている

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最近は、DUAL AISASって、いうんですよ

 
「いまどき、AISAS(アイサス) とか言ってるヤツは、ちょっとうさん臭いよな」


総合広告代理店を辞めて個人で独立したクリエイティブ・ディレクター(私よりも先輩)が、そう言い放った。あるクライアントへの提案・プレゼンを控えていて、ブレストを兼ねたキックオフミーティングに参加したときだ。


クライアントの事業戦略の把握、マーケティング戦略への落とし込み、それに沿ったコミュニケーション戦略などをブレストしていた。私は、この先輩の「うさん臭いよな」という知った風な口ぶりにちょっとカチンときて、ついつい挑発的に、そして、冗談混じりに、反応して言った。


「えっ、AISAS? 最近は、DUAL AISAS(デュアル・アイサス)っていうんですよ」
(知らないんですか?先輩!って感じで、あえて上から目線で言ってみた。感じ悪いけど)


そういって立ち上がり、ホワイトボードに向かってペンを持った。
まず、「A」「I」「S」「A」「S」の文字を、私はタテに並べて書いた。そして、説明を始めた。


「広告業界では、知らない人はいないはずですが、電通の秋山隆平さんが提唱者だといわれているAISASモデルですよね」


もし広告業界にいながら知らない人は、秋山隆平の著作『情報大爆発―コミュニケーション・デザインはどう変わるか』(http://www.amazon.co.jp/dp/4883351785)で、きちんと、確認して欲しい。(この本のp179にAISASモデルの記載がある)


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秋山隆平のAISASモデルを復習しておこう

 
ここでは、私なりに簡単に説明しておこう。


「A」は、Attentionで、「注意」「注意喚起」あるいは「認知」などと解釈されている。
「I」は、Interestで、「興味」「関心」。
「S」は、Searchで、「検索」。Google や Yahoo! などでの検索行為を指す。
「A」は、Actionで、「行動」。一般的に、リアル店舗かネットかに関わらず、購入や資料請求などのコンバージョンのこと。
「S」は、Shareで、Facebook や Twitter などSNSなどのシェアを意味する。


生活者の、態度変容モデル、心理変容モデル、あるいは、消費者行動モデルなどと呼ばれることがある。
インターネットの登場で、SearchやShareが当たり前になった世の中において、このモデルは非常に有効なフレームワークだった。


しかしながら、このモデルが提唱されてから10年ほど経った現在、少々綻びも出てきた。
先ほどの先輩クリエイティブ・ディレクターも「ちょっと古くなってるよね」という批判を込めて発した言葉だろう。
ただ、この秋山隆平のAISASモデルは本当に素晴らしいフレームワークだ。この大先輩の知見を活かしつつ、自分なりにいまどきの消費者行動モデルを構築していくことが大事なのではないかと感じている。


そこで、このAISASモデルの使い勝手が悪くなった点について考えてみる。


 

Attention, Please!は効かなくなってきた

 

まず、Attentionだが、テレビCMなどマス広告で大量リーチを獲得しようと狙っても、10年ほど前に比べて、その効率は悪くなってきているようだ。テレビの視聴率も低下傾向みたいだし、新聞や雑誌の発行部数や販売部数も落ち込みが激しくなってきた。


さらに、「情報大爆発」という言葉通り、インターネットによって大量の情報が供給されるようになったので、マス広告で生活者にリーチできたとしても、注意を喚起することが難しくなってきた。ちょっとCMが面白いぐらいではすぐに忘却されてしまうらしい。そんな調査結果も出ていると最近、聞いた。


要するに、マス広告の忘却曲線が昔よりも急勾配になっているのではないか、という話だ。もちろん、インターネットのバナー広告も同様だろう。情報供給量が大爆発している訳で、一つ一つの広告についてイチイチ覚えていられないのだ。


つまり、Attentionの機能不全が起こっている。
「Attention, Please!」といっても、大して振り向いてもらえないし、覚えてもらえないってことだ。


 

Shareの位置が現実に即していない

 
つぎに、Shareについても批判的な指摘をする人たちがいる。Shareって、コンバージョンするか、しないか、に関係なく、面白いとか思ったらするよね、と。
 
Actionの次のステップとしてShareが来ているのが解せないという話だ。面白いなとか、すごいなとか、共感できるなとか、お役立ちだなとか、などなど、興味を持ったらすぐに友達にも教えてあげよう、ってことも多い。そうすると、Actionの次ではなくて、Interestの次のステップでShareってこともある。それが消費者行動の現実だ。


 

そして、DUAL AISASへ

 
そのような消費者行動の実態を反映し、そして、Attentionの機能不全という欠点を補うために利用されいてるモデルが「DUAL AISAS」モデルだ。


「DUAL AISAS」モデルは、タテに並べた既存の
「A」
「I」
「S」
「A」
「S」
の「A」(Attention)の上に、ヨコに「I」「S」「A」「S」と並べてできる。


このヨコの「I」「S」「A」「S」も、(アイサス)と読めるので、「DUAL AISAS」と名付けられた。もちろん、大先輩である秋山隆平への敬意も込めている。


DUAL AISAS


 

ダブルアイサスではないので、あしからず

 
ところで、ときどき、「有園さんのダブルアイサス理論でいうところの、、、」とか打ち合わせで言ってくれるクライアントがいるのだが(それはそれで嬉しいのだけれども)、ダブルではなくて「DUAL」なので、お間違いなく。


ダブルだと二倍になっちゃう。別に、AISASを二倍にしているわけではないので。あくまでも「DUAL AISAS」、あるいは、「二重構造のAISAS」と呼びたいくらいだ。


 

DUAL AISASの概要

 
この私が提唱する「DUAL AISAS」を簡単に説明すると、
「I」は、Interestで、「興味」「関心」「共感」。タテのInterestにはなかった「共感」を意図的に含めている。
「S」は、Shareで、Facebook や Twitter などSNSなどのシェア。
「A」は、Acceptで、「受容」「共鳴」。Shareされた情報を他の人(第三者)が受け入れて(Accept)、さらに、Shareしてくれる。
「S」は、Spreadで、「拡散」「展開」「流布」。Acceptで第三者が受けれ入れて、さらに、Shareするという連鎖が生まれることで、「拡散」(Spread)という現象につながる。


ヨコに「I」「S」「A」「S」と並べて、この一連の流れが、機能不全を起こしたAttentionを補う役割を果たす。拡散することで、リーチが拡がっていく。これがうまくいけば、「Attention, Please!」と一方的に大声で呼びかけるマス広告的手法が機能しなくても、なんとかなるかもしれない。ターゲットの人々のInterestに沿った情報提供に成功すれば、リーチが拡がっていくからだ。


 

Interestの違いがとっても重要だ

 
さて、タテにもInterestがあるし、ヨコにもInterestがあるのだが、これがとても重要で注意が必要である。
もともとの秋山隆平が提唱した「AISAS」モデルにあるタテのInterestと、私が提唱する「DUAL AISAS」モデルのヨコのInterestは異なる性質を持っている。


じつは、ここが明確に異なるという点が非常に重要だったのだが、最初は自分自身では気づいていなかった。
あるとき、競合提案に向けて、総合広告代理店の女性クリエイターと打ち合わせをしていた。「DUAL AISAS」モデルの図を書いて、タテのInterestの位置で使うクリエイティブの訴求イメージを私なりに説明し、そのあと、ヨコのInterestの位置で使うクリエイティブはこんな感じで作って欲しいと伝えた。


すると、彼女が言ったのだ。


「有園さん、このタテInterestとヨコInterestって、本質的に違うよね? Interestって書くと同じだけど」


たしかに、そうだ。彼女の言う通りだと思った。


彼女がいうには、タテInterestは、購入に向かっていくInterest。興味をもって、Searchして、そして、Actionに向かっていく。
では、ヨコInterestは? こっちは、拡散に向かっていくInterest。興味をもって、すぐにShareして、そして第三者がAcceptして、最後は、Spreadに向かっていく。


彼女の指摘どおり、タテとヨコのInterestは本質的に違うのだ。


 

Conversion-Driving Interestとは何か?

 
そこで私は、タテInterestを「Conversion-Driving Interest」と名付けることにした。
購入などのコンバージョンというActionに向かっていく際、その興味・関心は、購入して本当に自分にとって利益があるか?、お得か?という利害を推し量る気持ちにもつながる。Interestという英単語を辞書でひくと、「興味、関心」という意味以外に「利益、利害」などの意味もある。


まさに、このタテのConversion-Driving Interestは、興味・関心をもってコンバージョンした場合の利益・利害を推し量っていく流れを生むものだと考えた。コンバージョンへと気持ちを駆動しつつ、購入したらお得かな?という感じ。
興味・関心・利益のInterestだ。


 

Buzz-Generating Interestとは何か?

 
それに対して、ヨコInterestは、「Buzz-Generating Interest」と名付けた。
「これいいよね!」と思ってShare(共有する)気持ちは、「あなたもいいと思うでしょう?」と同じ感情を第三者に共有して欲しいってことだと思う。なので、興味・関心だけではなくて、感情を共有する、つまり、第三者の共感を求めることにつながるInterestだ。


これが、Buzz-Generating Interestといっていい。


ヨコのInterestの最初の説明で、タテのInterestにはなかった「共感」を意図的に含めたと書いたのは、このような理由からだ。
なので、興味・関心・共感のInterestだ。


アメリカでは新興メディアのBuzzFeed(http://www.buzzfeed.com/)などが急激な勢いで成長し、既存メディアを脅かす存在になっている。つまり、Buzz-Generatingを意図的におこなうこともある程度可能だし、その重要性も増しているということだ。


「Attention, Please!」型のマス広告的リーチ手法のパワーが弱くなっている状況では、このヨコのBuzz-Generating Interestを戦略的に狙ってリーチを獲得していくマーケティングが必要になってきていると思う。


 

テレビなどマス広告にも当てはまる

 
「Conversion-Driving Interest」と「Buzz-Generating Interest」と書くと、コンバージョンやバズという言葉のせいで、私がインターネットマーケティングの範囲内で、この「DUAL AISAS」モデルを考えていると勘違いされることがあるが、そうではない。


たとえば、イオンのお客様感謝デー「20日 30日 5% OFF」CMなどは、Conversion-Driving Interestを喚起すると思う。「お、ちょっと安いんだったら興味あるな。20日には買い物に行ってみるか」みたいに感じる。そして、Searchしてイオンのサイトに訪問し、お買い得情報を下調べしておく。そういう購買につながる興味・関心を引き起こす原動力になるCMだと思う。





ちょっと古いが私の好きなCMで、松本幸四郎と市川染五郎が親子共演したキリンビールのCMがある。これなどは、Buzz-Generating Interestタイプだ。当時、インターネットの書き込みなどで、「ともて共感した。息子とビールを飲みたくなった」などのコメントが多くあったと記憶している。


「このCMいいね!」と興味をもって共感し、それをキッカケにShare(共有)され、Spread(拡散)していった。テレビCMでも、強引にAttentionを取りに行くCMばかりではなく、共感を生み出しSpread(拡散)のキッカケを作ることができるのだ。





 

Acceptでは第三者を取り込み、モデルにダイナミズムがうまれる

 
さて、次に、Acceptについて簡単に説明しよう。
ここには、「受容」に加えて「共鳴」を意図的に配置した。「共鳴」は外部からの振動に対して共振するという意味も持つ。そのため、単なる個人レベルの「共感」に対して第三者のAcceptという行為が加わることによって、大きく振れながら情報伝播の波を引き起こす。その原動力が「共鳴」だ。


この第三者が加わることも大きなポイントだ。
秋山隆平のAISASモデルでは、広告主企業を第一者とすると、広告を通じて情報を得る消費者が第二者で、その他の第三者はでてこない。AISASの最後のS(Share)のあと、そのShareされた情報を受け入れてくれる第三者についてはモデルに入っていないのだ。


この第三者がモデルに入っていないことで、情報伝播のダイナミズムが表現できなくなっている。もちろん、秋山隆平はそんなことは分かっていたはずだが、当時は、その先までモデルに組み入れる必要性がなかったのだと思う。なぜなら、前提として、Attentionが機能していたから、その補完的機能を考える意味がなかったのではないか。


一方で、ヨコのISASの流れでは、意図的に、Acceptする第三者を組み入れることで、第二者から第三者へと情報伝播が起こり、Spreadしていくモデルにしている。Shareの連鎖が人から人に流布していく、あるいは、巡っていくような動的な状況をSpreadという一言で表現している。


これは、第三者という他者の存在があるから可能になるし、人間の社会とはそのような第三者がいるのが当然なのだ。


 

無限ループ「メビウスの輪」

 
ここまで説明してきて察している人も多いと思うが、このヨコのISASは無限に繰り返していくイメージだ。Interest – Share – Accept – Spread ときて、そしてまた、Interestにつながっていく。


少し話が飛ぶが、文学などで無限の繰り返しの比喩として「メビウスの輪」あるいは「メビウスの帯」という言葉を使うことがある。ご存知の方もいると思う。


Wikipediaには「帯状の長方形の片方の端を180°ひねり、他方の端に貼り合わせた形状の図形(曲面)である」と記載がある。
私としては、ヨコのISASの情報伝播の様子は、この「メビウスの輪」のような無限ループをイメージしている。


 

さらに、「クラインの壺」のダイナミズムが加わる

 
そして、この「メビウスの輪」と並列でよく語られる「クラインの壷」というコンセプトがある。同名の小説もあるので、そちらでご存知の方もいるかもしれない。


こちらも同様にWikipediaで調べると「境界も表裏の区別も持たない(2次元)曲面の一種で、主に位相幾何学で扱われる」とのことだが、境目がなくて上から下へ、あるいは、表から裏へと、ぐるぐる繰り返し動いていくような運動を表現するための比喩として使われたりする。


私は、先ほどの「メビウスの輪」をヨコのISASの無限ループの比喩として考えているのだが、ヨコのISASとタテのAISASをつないでぐるぐると回るダイナミズムもあると思っていて、それを「クラインの壷」的な形状でイメージしている。


タテのAISASの最後のS(Share)は、誰か他の人(第三者)に受け入れてもらえる可能性がある。
ということは、このタテのAISASの最後のS(Share)のエネルギーの流れは、どっかに受け継いでもらわないとモデルが収束しない。そこで、ヨコのISASのA(Accept)につながっていくと考えればいい訳だ。


このつながりによって、「クラインの壷」的な上から下、あるいは、下から上のループがうまれて、ヨコISASとタテAISASがそれぞれの方向の無限ループで連動してぐるぐるしていくことになる。


「クラインの壺」の動的イメージがよく分かる動画あったので、参考にして欲しい。





 

やはりInterestの違いを意識しプランニングすることが大事だ

 
そして、このぐるぐるをきちんと戦略的にプランするには、ヨコInterestの「Buzz-Generating Interest」と、タテInterestの「Conversion-Driving Interest」が肝になる。


お分りいただけると思うが、Interestがないと人は動かないのだ。面白いなと思って興味をもって、初めてShareするという動きにつながるし、5% OFFなら安いかも?という興味からSearchして下調べしたりするのだ。


強引に「Attention, Please!」とやってしまう一方的なマス広告的コミュニケーションから脱却して、Interestに寄り添うようなコミュニケーションスタイルに変えていくことが大事なんだと思う。つまり、「AISAS」から「DUAL AISAS」へのモデルチェンジだ。
そして、それをぐるぐると回していくようにコミュニケーションプランニングをする。


 

有園式ぐるぐる思考?

 
ところで、最後に完全な余談だが、『〈アイデア〉の教科書 電通式ぐるぐる思考』(http://www.amazon.co.jp/dp/402330882X/)という本があって、私のクライアントの一人からオススメされた。


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「世界的な広告会社、電通社内で長年継承されてきた「アイデアのつくり方」の秘伝を初めて公開する!」とのこと。
この本には、アイデア、あるいは、クリエイティブプランニングをするのに役に立つ方法論が書かれていて、それを「電通式ぐるぐる思考」と名付けている。


そして、私のクライアントは、この本に因んで「DUAL AISAS」モデルを「有園式ぐるぐる思考」と笑いながら言ってくれた。書いてあることは全然異なるのだが、ぐるぐる考えることには、何か底辺で通じるものがある、とのことだった。


だが、しかし、このクライアントには話していないのだが、私のぐるぐる思考のネタバラしをしておくと、1980年代にニューアカデミズムの旗手といわれた、浅田彰の『構造と力』(http://www.amazon.co.jp/dp/4326151285/)を下敷きにしているのであって、残念ながら「電通式ぐるぐる思考」とはなんら関係がない、というのが偽らざる事実である。


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『構造と力』を読んだことがある人には明白だと思うが、近代の貨幣ー資本の運動を浅田彰は「クラインの壺」を使って比喩的に図示する。貨幣ー資本はたえず再投下されて商品を生産し、その商品が流通し売れることによって再び貨幣ー資本に戻るという無限ループを繰り返している。


これは、企業のマーケティング活動によって、資本が商品開発から流通を経て利益を生み出して企業に戻ってくるというループと同じことだといえる。なので、「DUAL AISAS」モデルとは、浅田彰のロジックを模倣して、マーケティングの観点で資本主義の運動をモデル化してみただけに過ぎない。


とはいえ、私が提唱する「DUAL AISAS」モデルは、業界の大先輩である秋山隆平の偉業に、浅田彰というトッピングを飾りつけ、私のコンサルティング業務で慎重に活用しているエチュード<習作>の域をまだ出ていない。

著者

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