Google創業者から学んだこと

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Google創業者たちへのプレゼン

Googleのエリック・シュミット(Eric Schmidt)、ラリー・ペイジ(Larry Page)、セルゲイ・ブリン(Sergey Brin)にプレゼンしたことがある。
 
Google在職中(2007年〜2009年)にはいくつかのポジションを経験したが、退職するときには、Sales Strategy and Planning(営業戦略企画)という部門のシニアマネジャーという仕事をしていた。
Sales Strategy and Planningというのは、Google Japanの営業戦略を立案し、それを実施に移していくチーム。年間計画と四半期ごとの計画を立てて、多くの人の協力の下、その計画を遂行していくのがミッションだった。もちろん、一人で立案する訳ではなく、ほかの部門のシニアマネジャーと一緒に作っていく。なので、私の仕事は、各シニアマネジャーの取りまとめ役、あるいは、調整役といった面も強かった。
 
たとえば、来年の年間売上目標をXXXX億円(たしか、USドルベースでも作っていたような気がする)とすると、その数字をどのように作っていくのか。どのような施策を優先して行うのか。広告代理店経由の売上をいくら見込むのか。戦略的に重視する広告主は具体的にどこなのか。どの変数を何パーセント伸ばしてXXXX億円を作り上げるのか。為替変動の影響をどうみるか。どのようなマーケティング施策をおこなうか。そのために、どのようなスタッフを何人採用するのか。などなどをまとめて、プレゼン資料を英語で作っていく。

そして、プレゼン資料ができあがったら、Google米国本社(カリフォルニア州マウンテンビュー)に出張して本社の役員に対してプレゼンするのだ。といっても、プレゼン自体は、当時のGoogle Japan社長だった村上憲郎さんがメインでおこなう。私たちシニアマネジャーの役割は、村上さんのプレゼンの補足説明をしたり、質疑応答の際に必要に応じて回答したりすることだった。
 

ラリーとセルゲイも参加する会議

Google米国本社に乗り込み、いよいよプレゼンという日。もちろん、とても緊張していた。ギリギリまで資料の修正をおこなっていた記憶がある。そのとき、上司から「きょうは、ラリーとセルゲイも出るらしいよ」と聞かされた。エリック・シュミットはGoogle Japanオフィスに何度か訪問していたので、握手もしたことがあったし、挨拶程度の会話をしたこともあった。しかし、ラリーとセルゲイは初めてだった。いや、正確には、Google本社のキャンパスですれ違ったこともあったし、Google社内イベントなどでスピーチしている姿はみたことがあった。でも、同じ会議に出席するのは初めてだ。しかも、こちらのプレゼンを聞いてもらうのだから、緊張は120%を超えていた。
 
指定された会議室に入ると、部屋の奥の窓側の方にエリック、ラリー、セルゲイの3人が座って待っていた。ほかの米国本社役員もいて10人弱が座っていたと思う。日本から来たスタッフも村上憲郎さんを筆頭に10人ぐらいだったように思う。

村上さんが英語で軽く挨拶し、プレゼンは始まった。たしか、持ち時間は1時間。40分程度で村上さんのプレゼンは終了。その間、少し質問があったように思うが、基本的にスムーズに最後まで終わった。そして、質疑応答の時間がやってきた。質問の多くはエリックがおこなっていて、ラリーとセルゲイは比較的黙って聞いていたように思う。私自身も、何かの質問に対して補足説明で1回だけ発言した。ただ、自分がどんな発言をしたのか、いまとはなっては覚えていない。というよりも、自分の発言だけではなく、もっというと、エリックをはじめ米国本社役員たちからの質問がどんなものだったのか、具体的にはまったく覚えていないのだ。それぐらい、緊張していたのだと思う。
 

私のプレゼンは的外れ

具体的にはどのような質問だったかはまったく覚えていないのだが、その時の印象は強烈に覚えている。というのは、私の作ったプレゼンは的を射ていなかったのだ。実際のところは分からないが、私はそう感じた。村上さんのプレゼン(トーク)はよかったと思う。ただ、私のプレゼン資料は、エリックやラリー、セルゲイが期待するようなものではないんだな、という感想を私は持った。そういう後味の悪いプレゼンだった。というのは、私自身が一番苦労して作った箇所についてはまったく質問されなかったのだ。どちらかというと無視された感じ。興味を持ってもらえなかった。ちょっとショックだった。
 
私が一番苦労して作った箇所は何だったのか。それは、年間売上目標XXXX億円をどうやって達成するか。その見込みの数字を、数理統計的な手法を駆使してモデルを作りトレンドラインを引いて作っていた。普通にやったら、たとえば、50億円ぐらいショートするかもしれないが、具体的にこんな施策を実施していくことでその溝を埋めて目標を実現します、みたいな数字の積み上げ部分とそのロジック。季節変動なども加味して、緻密に作った。Google米国本社からGoogle Japanオフィスに来ていたアメリカ人のデータサイエンティストみたいな社員の協力も得て、それなりにレベルの高い手法でシミュレーションしていた、つもりだった。苦労して理論武装もしっかりしていた。どんな質問でも来るなら来いと身構えていた。
 
が、しかし、だ。エリック、ラリー、セルゲイをはじめ、ほかのどの役員も、一切、それについては質問してこなかった。まるで、彼らは、所詮は数字遊びであることが分かっていると言わんばかりだった。肩透かしを食らうとはこのことか。
 

知りたいのは、Google Japanのサクセスストーリー

その代わり、彼らが興味を持って質問してきたのは何だったのか。具体的な中身は覚えていないものの、私の心に刻まれたことは、こうだった。エリック、ラリー、セルゲイは結局、どのようにGoogle Japanが成功するのか、その話を聞かせて欲しいのだ。どのようなアイデアに基づいて、どのような方法で成功させるのか。そういう話を聞かせて欲しいのだ。もちろん、そのような要素もプレゼンには含まれていた。そして、村上憲郎さんが首尾よくプレゼンしてくれていた。しかし、もっと面白いアイデアはないか。もっと説得力のあるストーリーはないのか。そういうスタンスで質問してきたのだ。要するに、アイデアとストーリーだ。彼らが知りたいのは、アイデアとストーリーに溢れたGoogle Japanのサクセスストーリーなんだ。私は、そう思った。そして、小手先の数字作りばかりに集中していたことを恥じた。まだまだ自分は未熟だなと思った。考えてみれば当たり前だ。Google Japanのサクセスストーリーを熱意を持って説得力を持ってプレゼンするのが、Sales Strategy and Planningのミッションだったのだ。
 
このときの経験は、Googleを辞めたあとの今の仕事に大いに活かされることになった。クライアントに対して提案資料作ってプレゼンすることが多い。広告代理店の人と一緒に作ったり、あるいは、独自に作ったりもする。基本的には、何らかのクライアントの課題に対してソリューションを提案するものが多い。そのようなときに、このエリック、ラリー、セルゲイから学んだことが脳裏をよぎる。理論的に数字を積み上げるだけでは説得力を持たない。クライアントの課題をロジックツリーで整理して提示するだけでも物足りない。
 
やはり、ソリューションとなるコアのアイデアにこだわって、そして、そのアイデアを説得力のあるストーリーに仕立て上げ、その部分を熱意を持って語らなければ、クライアントに刺さるプレゼンにはならない。
 
「仕事で大事なのは、アイデアとストーリーなんだよ」。Googleの創業者たちは、そう教えてくれたように思う。

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